部下力を磨くと、いいことがあるのだろうか
公開日時 2012/07/09 04:00
イーピーエス株式会社
榎戸 誠
MRやモニターは、外勤の場では、自分の判断で行動しなければならない個人事業主的な面を有している一方で、内勤時は、組織の一員として上司の判断を仰がねばならないケースが多い。
『「部下力」のみがき方――上司を上手に使って仕事を効率化する』(新名史典著、同文館出版)には、上司を巧妙に操る小手先のテクニックは書かれていない。「部下力」についての真っ当な見解が展開されている。部下力の理論書ではなく、著者の体験に基づいた実践の書である。このため、平易な文章にも拘わらず、説得力があるのだ。
著者は、「なせ、あなたの仕事は効率が悪いのか?」と問いかける。「自分一人だけで完結する仕事など、ほとんどない」のだから、「上司の了解を得て協力を得るということは、自分の仕事を成功させるための最初の関門と捉える」よう勧めている。
「上司を動かせないと仕事の効率が上がらない」、「上司を動かせない人は後輩も動かせない」、「影響力のない人は、組織の中では無意味」と手厳しいが、言い換えれば、「上司を動かす力を持つということは、組織と人を動かす第一歩」ということになる。
「上司を動かすことで、あなたの仕事はこんなに改善される」と、ここで具体的な方法が示される。上司の決裁を早く得ようとする場合、上司が情報不足で判断に迷っているなと感じたら、上司に有効な情報を提供するというアシストを実行せよ、というのだ。資料提供に当たっては、早い初期の段階で、敢えて上司に「ヒアリング」するようアドヴァイスしている。「今後の進め方について、ご意見やアドヴァイスを頂けないでしょうか?」というヒアリングの言葉まで添えられている親切ぶりだ。
部下は、上司の置かれた状況やその苦悩を意外なほど知らないという。例えば、上司は自分のチームを守りたいと強く思っていること。当たり前の話だが、上司にも上司がいること。上司は、その上の上司から何によって評価されるのか―― 一つはチームの業績で、もう一つはチーム状況の把握力だということ。上司は自分のチームにとって悪い報告ほど早く知りたがっていること。そして、上司は最新情報を意外と知らないこと。
著者が、「『上司の目線』を身に付けよう」と呼びかけているのは、自分の仕事を、当事者である自分ではなく、上司の立場から想像することで、違う景色が見えてくるからである。
「上司の『気持ち』を予測して先回りしよう」では、上手にアンテナを張って、今、上司が頭を悩ませている最重要課題は何なのか、上司の優先順位はどうなっているのかを知るように促している。そうすることによって、上司を、より的確にアシストすることが可能になるからだ。
この「上司目線を身に付ける」と「上司の気持ちを予測して先回りする」は、上司に対してだけでなく、ドクター、薬剤師など得意先に対しても、同様に有効なことは言うまでもないだろう。
「突き詰めると、情報提供とは『相手を喜ばせたい』というホスピタリティ(心の籠もった対応)なのです」という著者の言葉には、思わず頷いてしまった。
私もMRとして、長い「部下の時代」を過ごしたが、その時、どういう気持ちで仕事に取り組んでいたか。直属の上司をしっかりアシストすることによって、その上司に時間的、精神的余裕が生まれ、上司の上司を有効にアシストすることができる。その結果、実力を認められた上司の上司は一段上の影響力あるポストに就くことができる。それを受けて、上司も一段上のポストを獲得することができる。そして、その連鎖反応で、私自身も、より実力を発揮できる環境を得ることができる、と考えていた。今、振り返ると、そうそううまくいくケースばかりではなかったが、大筋では間違っていなかったと思う。