【ASCO特別版】非小細胞肺がんの個別化医療 地域NWの活用で地域医療機関の日常臨床でも可能に
公開日時 2012/06/07 06:50
非小細胞肺がん(NSCLC)の個別化医療は、地域で中央検査室での高精度分子解析などを含めたネットワーク(NW)を構築、活用することで、地域医療機関の日常臨床でも行うことが可能――。ドイツUniversity Hospital CologneのThomas Zander氏らが明らかにした。6月1~5日まで米国・シカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO2012)のポスターセッションで、5日報告された。
個別化医療の推進は、NSCLCの予後を大幅に向上させる可能性を秘めている。一方で、高精度の分子診断やそれに基づいた、個別化医療戦略を、専門的な大学病院以外で実施するのは難しいのが現状だ。
研究グループは、ドイツのケルンからボンの地域で、約250万人の居住者を網羅するがん総合センターの管轄区域に、分子スクリーニングNW「Network Genomic Medicine Lung Cancer」を2010年3月に設立。NWには、専門施設以外の地域医療機関が含まれていた。
NWでは、肺腺がんのALK転座やKRAS、EGFR、BRAF、PIK2CAの変異とERBB2の増幅をスクリーニング。NWを通じ、地域に在住する全NSCLC患者の約60~70%に該当する肺がん生検1782サンプルを集積した。このうち、分子解析に適していた77%が、分子的特徴を解析するために、中央検査室に送られた。
◎EGFR転移 ALK転座は独立予後因子に
その結果、組織学的サブタイプの分布は、腺がんが63.4%、扁平上皮がん26.7%、大細胞がん1.4%、腺扁平上皮がん1.8%、カルチノイド0.1%などで、試験開始前の予測と一致していた。
腺がんで検出された遺伝子病変は、KRASが32%、EGFR 13%、ALK 3%、BRAF 2%、PIK3CA 2%、ERBB2 2%。腺がんの鱗状・微小乳頭状サブタイプでは、EGFR変異が高い割合で存在していた(30~32%)。また扁平上皮がんでは、500サンプルのうち78サンプルにFGFR1の増幅が見つかった。
また多変量解析の結果、これらの分子的特徴の中で、EGFR変異とALK転座は独立した予後因子で、EGFR変異を有するIIIB期またはIV期の患者では、生存が有意に良好であることも分かった。
全NSCLCサンプルのうち40%が、現在利用可能な薬剤で標的できる遺伝子変異を有していた。ALK転座を有する全患者では、臨床的に必要であれば、クリゾチニブによる治療を行い、活性化したEGFR変異を有するIIIB期またはIV期の患者の75%では、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)が投与された。さらに、これらの遺伝子病変を有する全患者の個別治療の選択肢を提供するため、臨床試験も開始した。
これらの結果から研究グループは、「高精度の分子スクリーニングと個別化治療戦略は、大学病院以外の実臨床現場でも、日常的に可能である」と結論付けた。