米国胸部学会(ATS)年次学会(米国カリフォルニア州サンフランシスコで5月18~23日開催)のYear in Reviewセッションでは、米国National Jewish HealthのE.R. Sutherland氏が、喘息に関する最近の知見を報告し、主に、薬剤反応を予測する分子表現型やノンアドヒアランスの転帰への影響、妊娠中の喘息管理の最適化、高脂肪な食事による気道炎症反応などに関して、特に有意義な研究成果を振り返った。
◎分子表現型により薬剤反応性の予測が可能に カスタムメイド治療への一歩
まず初めに、喘息のカスタムメイド治療に向けて大きな一歩と評価される、米国Allergy Medical ClinicのCorren氏らのレブリキズマブの試験がレビューされた。
喘息患者の多くが、吸入ステロイド(ICS)の治療にも関わらずコントロールが不十分であるが、治療に対する反応が患者間で異なる原因として、臨床表現型におけるインターロイキン13(IL-13)発現の役割が指摘されている。
IL-13は2型ヘルパー細胞(Th2)の多機能性サイトカインで、喘息の多くの特徴に関連すると考えられている。IL-13の生成はICSにより抑制されるが、ICSの治療にも関わらずコントロール出来ず、痰中IL-13値が上昇し続ける患者がいることについては、IL-13がグルココルチコイドへの耐性を促進させる仮説が立てられている。またIL-13は、Th2マーカーの一つで気道リモデリングのメカニズムとの関連性が指摘されている、ペリオスチンと呼ばれるタンパクの気管支上皮細胞での分泌を誘発する。
研究グループは、ICSではコントロール出来ない成人喘息患者において、IL-13を標的とすることで喘息管理が改善するかどうか、またペリオスチンやその他の代理マーカーを使うことにより転帰を予測できるかどうかを調べるため、IL-13に特異的に結合し、その機能を阻害するレブリキズマブを検討した。試験結果は昨年のNEJMに報告された。
中用量から高用量のICSを6ヶ月以上使用しているにも関わらず、ACQ5が1.5以上のコントロール不十分な喘息患者が対象で、Th2の状態により被験者を階層化し、12週間後の気管拡張薬吸入前FEV1の変化をプラセボ群と比較検討した。
その結果、レブリキズマブはプラセボと比べ、気管拡張薬吸入前FEV1を有意に改善し(9.8% vs 4.3%、p=0.02)、特にペリオスチンが高値の患者では、レブリキズマブ群でのFEV1向上がプラセボ群より8.2ポイント有意に高いことがわかった。ペリオスチンが低値の患者では有意差がなかった。
また高Th2と高FeNOは、おのおのレブリキズマブによる増悪の低下を予測できたことから、分子表現型によりレブリキズマブへの反応性を予測できる可能性がわかったとされ、喘息に対するカスタムメイド治療に向けて初めてのステップとなった。
◎吸入ステロイドのノンアドヒアランスによる重度増悪を定量化
ICSへのアドヒアランスは喘息治療において大きな課題であり、ノンアドヒアランスによる影響の定量化が求められるが、通常、臨床試験ではノンアドヒアランスの患者は除外されることから、方法的に難しいとされる。
米国Center for Health Services ResearchのLK. Williams氏らの研究グループは、重度の喘息増悪のうち、ICSのノンアドヒアランスによって直接引き起こされている割合を調べるため、成人患者約300例の処方記録からアドヒアランス(処方用量に対する使用量の割合)を時系列に推測し、増悪(経口コルチコステロイドの必要性、喘息発作関連のER利用と入院の複合)との関連性を調べた。
その結果、増悪の24.4%は、アドヒアランスが改善すれば予防可能であり、25%向上するごとに、増悪リスクは11%低下することがわかった。特に、アドヒアランスが低い患者において影響が大きかった。
◎FeNOの変化により妊娠中の喘息を管理
妊娠中の不十分な喘息コントロールは、母子ともに合併症リスクを上昇させる要因となる一方で、妊娠中に喘息症状がどのように変化するかは未だ明確ではなく、予測や治療に関するガイドラインは最低限のものしかないのが現状である。
オーストラリアUniversity of Newcastle and Hunter Medical Research InstituteのHeather Powell氏の研究グループは、呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)の変化によって妊娠中の喘息を管理するほうが、ACQで管理するよりも、増悪リスクが有意に低く、新生児での転帰を向上させることを明らかにした。妊娠中の治療アルゴリズムを検討した無作為化試験は、これが初めてであり注目を集めた試験である。
妊娠中の喘息患者220例に対して、FeNOの変化によりICSのステップを変えるか、ACQで変化させ、2つの治療アルゴリズムを比較検討したもの。主要評価項目は中等度から重度の増悪に設定した。FeNOの管理アルゴリズムでは、FeNOの変化が>29 ppbの場合ICSをステップアップし、<16でステップダウンすることとした。長期作用型β2作動薬と最低用量のICSはFeNOが上昇しない場合の対症療法として使用した。一方ACQのアルゴリズムでは、>1.5で1ステップアップ、<0.75で1ステップダウンとした。
その結果、どちらのアルゴリズムもコントロールを向上させたが、FeNO群では増悪リスクだけでなく、予定外の診察や経口ステロイドの使用、新生児の入院率についても、有意に抑制されており、また新生児の出生体重が高く、未熟児出産のリスクが低い傾向が見られた。
◎高脂肪の食事が気道炎症と関連
食事に含まれる脂肪が喘息リスクと関連することが、これまでの疫学研究で示唆されており、高脂肪の食事を代謝することにより、自然免疫経路が活性化し炎症促進物質が生成される(TLR2、TLR4)との報告がある。
オーストラリアHunter Medical Research InstituteのLisa Wood氏らの研究グループは、喘息患者における脂肪の大量摂取が、自然免疫経路を活性化させ、気道炎症の増加と臨床転帰の悪化につながるかどうかを検討するため、安定性喘息で肥満ではない患者を、高脂肪の食事を与える被験者群か低脂肪を与える被験者群に無作為に分け、気道炎症について比較検討した。
その結果、脂肪分の高い食事は、好中球による気道炎症と痰中TLR4発現を有意に誘発し、気管支拡張薬への反応を抑制することがわかった。気道炎症の変化は、全身性炎症や痰中好酸球、FeNOの変化とは独立して発生しており、自然免疫経路の活性化が主に気道で発生しているのかどうか、疑問を呈することになったが、特に好中球による気道炎症を伴う喘息患者では、食事における脂肪摂取を調整することが、喘息管理において有益な可能性が示唆されることとなった。