『伝言ゲーム』は面倒
公開日時 2012/05/08 04:00
入社日まで半年、A社とKさんは間にエージェントをはさまずに、直接連絡をしはじめた。
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転職者にとってエージェントをつかうメリットはなんだろう?
よく広告の売り文句に使われているのは「非公開求人」の存在だが、他にも膨大な求人情報の取捨選択、リアルタイムで変化する企業情報の提供・面接対策など、いろいろな面で転職者の方に有利なことがあると我々は考えている。
では、逆にデメリットはなんだろうか?
ここでそんなことを書いては身も蓋もないと言われそうだが、なにごとも良い面があれば悪い面もあるもの。転職エージェントにも、利用者から「これは面倒だなあ」と思われることがある。
それは、極めて事務的な内容をエージェントを通して連絡する、いわゆる『伝言ゲーム』だろう。
転職エージェントは、人を欲しがっている企業のことを、必要なスキルを持つ人に伝え、転職者の希望を応募する企業に連絡する。最初の段階では、これはとても便利なもので、企業・転職者は一度エージェントに情報を出せば、同じことを何度も言わずとも、必要な相手にのみ用件を伝えることが出来る。
だが、ある程度、選考が進んでくると、特定の一個人に向かって何か伝えようとするのに、採用する部署の責任者→人事担当者→エージェントの企業担当→転職エージェント→転職者(またはこの逆)というステップを踏むことになる。
選考の最終段階となれば、多くの場合、面接で採用部門の責任者と転職者とは面識があり、お互いにやりとりをするのに、このステップを踏まなくてはならないのは、無駄に思えてくるわけだ。
中小メーカーA社は今年2月、Kさん(37歳)に内定の通知を出していた。大手企業に勤務するKさんだが、配属先や勤務地のことで不満をもっており、A社入社の意向をかためていた。
超大手勤務で実績も優れ人脈もあるKさんほどの人物を採用するのは、A社にとって初めてのこと。「それなりの組織体制で迎えたい」という社長の思いから、入社日は内定から約半年後の8月ということになっていた。
幹部候補の採用とはいえ、内定から入社までの期間が半年というのは長い方だろう。この間、Kさんに惚れ込んでいた社長は、たびたび彼を招いて懇親会を開くなどしていた。
しかし、食事会の日時を合わせるのに、エージェントを通して連絡するのは、面倒この上ない。社長が「もう入社日も決まっているのだから、直接連絡を取りたい」と言ってきたのは、無理なからぬことであったし、我々も「込み入った内容でなければ」とそれを認めていたのだった。
以降、社長とKさんは、直接会うだけでなく、かなりの頻度でメールや電話のやりとりをするようになっていった。もちろんリレーションを強くするのは良いことだが、入社までは3ヵ月以上先…。心のどこかで、このまま無事にいくだろうかと不安な気持ちが芽生えてきた時、問題が起きた。
夜、お酒が入ったA社社長が電話で失言をしてしまい、Kさんが不信感を持つようになってしまったのだ。その内容をまとめると
「自分の部下に、元大手企業の出身者がいるというのは実に良い気分だ。最近は、同窓会に行っても、経営者懇談会にいっても、その自慢ばかりしている」
というもの。社長としては、優秀な人材を迎えられることが嬉しいと言いたかったわけだが、これを聞いたKさんが面白いはずはない。
「大手企業で働いてきたことに私もそれなりのプライドは持っている。しかし、社長の言い様は、まるで人間を自分のコレクションにしているかのよう。大企業出身者なら誰でもいいのかという気持ちになった」
Kさんは大人の対応をみせており、怒りにまかせてすぐにA社を辞退するとは言い出したりはしていないが、我々は関係修復のために、動かざるを得なさそうだ。
これは企業側がミスをした事例だが、似たような失敗は転職者にも起こっている。『食事会は来週の水曜、19時に』という連絡をするのに、わざわざエージェントを通して連絡するのはバカげているよう思えるかもしれない。
けれども、直接連絡を取り合うと、必要な連絡事項にとどまらず、ついつい余計なことを言ったり書いたりしてしまうもの。お互いの関係がしっかり固まるまでは、仲介役はコミュニケーションの緩衝材として間に入る方が無難なのである。
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