変人同士
公開日時 2012/02/14 04:00
面接で気むずかしい変人と避けられてしまうTさん、その転職の行方は…。
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経営企画Tさん(33歳)はA社での面接冒頭、「ご自身のキャリアについてのサマリー(要約)をお願いします」と言われ、いきなり厳しい表情をしたまま固まってしまった。
「どうされました?」と尋ねる面接官を右手で制し、考えること数分。Tさんはおもむろに語り出した。
「午前中の面接で、同じような質問をされ、私は偽りを述べてしまいました」
それから彼の長い独白が始まったのだが、その中味を簡単に言えば、午前中の面接で、Tさんは自分のキャリアをやや誇張して伝えていたというもの。しかし誇張の程度は言葉のニュアンスの問題といっても差し障りなく、「偽り」というのはどう考えても大袈裟だった。
面接終了直後、A社からは「変わった人ですねえ」というコメントと共にTさん不採用の連絡があった。
我々は夜、Tさんに電話でたずねた。
「なぜ、そんな話をされたのですか?」
「良心が咎めて、黙っていることが出来ませんでした」
Tさんはそう言ったが、誇張があったと思ったにせよ、他の会社の面接でそれを言っても仕方がない。どうしても自分が許せないなら、気になる部分を修正してA社の面接で言えばいいだけではないか。しかし、Tさんはなかなか自分の非を認めなかった。
「自分の罪を認めることに、私の人間性があらわれていると思うんです」
というのだ。
たしかに、それは当たっていた。不器用な正義漢、何を言い出す分からない変人…。
しかしTさんは現職企業では、かなりの実績を残していた。仕事に意義を感じれば、一途にのめり込むことが出来たからだ。彼をかってくれる上司もいた。
しかし、人間関係の輪が大きくなるにつれ、筋を通すことを最優先にしてしまうTさんのやり方は、軋轢をうみ、その変人ぶりで周囲から浮いた存在になっていった。我を通した結果、自分が一番傷つくことになる。組織の中で生きていくのが苦手なタイプ、それがTさんだった。
まどろっこしい言い回しは、その後の面接でもなかなか変わらず、どの企業にいっても変人扱いで、半年を過ぎてもTさんの転職先は決まらなかった。
しかし、彼の言動は、よくよく聞けばすべてに意味があり、それが遠回りですぐには理解できないことであっても、芯のある真っ当なものだった。それが理解出来るようになっていた我々は、「どこかに彼の居場所はないだろうか?」と考え続けていた。
リースサービスB社の経営者S社長は、Tさんに輪を掛けた変人だった。面接で1時間のあいだ一方的に自分の考えを喋ったあげく不採用にしたり、そうかと思うと、ほとんど話をせず、ものの15分で面接を切り上げ、やはり不採用にしたり…。
「そんなことでは、優秀な人材は採用できませんよ」
と、我々は再三社長に言っていたのだが、S社長の奇行ぶりはなおらなかった。
「TさんとS社長なら、ひょっとして合うのでは?」
たまたま担当エージェントがそう気がついたものの、B社には経営企画あるいはそれに近い求人は出ていない。
そこでTさんの了解を得て、S社長に直訴してみた。
「変わった人なんですけど…」
話を聞いたS社長は、特別こころ惹かれたという様子もなかったが、Tさんと会うことは了承してくれた。
いきなりの社長面接は2時間を超えるものになったが、面接後の二人の反応は冷ややかだった。
Tさんは「よく分からない人(社長)でした」と言い、S社長の方は「しばらく、どうするか考える」という連絡があったきり、Tさんのことなど忘れてしまったかのように、なんの音沙汰もなくなってしまった。
「もともと無理のあるマッチングだったからなあ…」
我々は結果についてあまり期待していなかったのだが、三週間後、突然S社長から長文メールが届いた。内容はTさんのことを散々にけなしているようにもとれる文章だったが、最後のメールには『内定』という文字がしっかり刻まれていた。
ビックリしてすぐにTさんに連絡、半年以上の転職活動で初めての内定だったが、Tさんには興奮した様子はまったくなかった。
「酷いメールですね。内定なら、それだけ言えばいいことなのに」
「Tさん、どうされますか?辞退ですか?」
「いえ、ちゃんと反論したいので、入社します」
変人同士、きっとどこかで通じ合うところがあったのだろう。それにしても、ふたりの変人の会話についていくのは大変である。
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