日本発 治療成績とQOL向上のためのコンセンサス形成を
局所療法を中心に実地臨床上の重要課題を議論
4月14日~16日、京都府の京都国際会館で、京都乳癌コンセンサス会議(KBCCC)2011国際大会が開催された。KBCCCは、局所療法を中心に実地臨床上の重要な課題を採り上げ、手法の統一や基本的な考え方に関するコンセンサス形成を目指している。今回会議ではどのようなコンセンサスが得られたのか、専門家40名による投票結果を交えながら紹介する。(医学ライター・レポーター 中西美荷)
今回議論されたポイントは、① DCIS治療②腋窩リンパ節郭清(ALND)省略③術前化学療法後の治療④ノモグラム――の4 点だ。
DCIS(非浸潤性乳管癌)は、いわば超早期のがんであるにもかかわらず、病変が広範に及ぶ場合には、乳房全摘出術の適応となる。しかし、現在可能な治療を受けた患者の多くは予後良好で、米国の疫学調査では手術を行ったDCIS患者の長期生存率は約98%と報告されている。
現在求められているのは、リスク層別化だ。予後を良好に保ちつつ、より低侵襲の治療で管理できる患者や、少数例ながら存在する局所再発、浸潤性癌への進行例を正確に同定するためである。
しかし、DCISのバイオロジーが十分に解明されていないこともあり、今回、DCISの診断、治療についてコンセンサスが得られたのは、以下の5点となった。
まず、高リスク患者の早期発見と、すでに診断されている患者の詳しい評価に用いられている乳房MRIについて、専門家による投票では、「診断においては、過剰発見になり乳房切除術率を上げる危険性がある」との設問に対する回答は「Yes」27票、「No」6票、「不明」3票で、過剰発見の危険性が指摘された。
「乳房温存の場合、全例が術後放射線療法(RT)の適応だ」との設問に対しては、乳房温存術であっても、RTを行うことで乳房全摘と同等の生存予後が得られるとのエビデンスが、すでにNSABP-B17試験や EORTCの臨床試験で確立されており、投票結果も「Yes」 24票、「No」9票、「不明」1票となった。
術時の腫瘍なしマージンについては、「1mm」4票、「2~5mm」19票、「6~9mm」9票、「10mm以上」4票、「重要ではない¬」0票であり、2~5mmが適切とのコンセンサスを得た。
DCISにおいて、センチネルリンパ節生検(SLNB)を行うことで、浸潤性癌が発見できる。陽性率は5%とされるが、多くは微小転移あるいはITC(isolated tumor cell)であり、避けられる場合にはSLNB自体をなるべく省略するという考え方もある。「乳房切除を要する範囲の広い高グレードDCISではSLNB施行が適切」との設問に対しては、「Yes」 32票、「No」3票、「不明」0票で、コンセンサスが得られた。
一方、中等度グレードにおけるSLNBについては、「中等度グレードの手術ではSLNBの役割はない」に対して「Yes」13 票、「No」17票、「不明」4 票と、見解の一致には至らなかった。
ホルモン受容体陽性(ER+)患者では、局所療法にアジュバントホルモン療法(タモキシフェン)を加えることで、生存予後は変わらないが、局所再発や対側乳癌発症が抑えられることが明らかになっている。「DCISにおいてアジュバントホルモン療法は必要」との設問に対して、「全例」5票、「ER+のみ」18票、「不要」4票、「不明」7票で必要とのコンセンサスが得られた。またその理論的根拠については、「同側乳癌再発抑制のため」(Yes31票、No3票、不明2票)との意見が、「局所再発抑制のため」(Yesは9票)あるいは「対側乳房の腫瘍抑制のため」(Yesは23票)を上回った。
リンパ節転移あり症例でのALND省略には消極的
腋窩リンパ節郭清(ALND)省略については、すでに、SLNBでリンパ節転移が認められない場合、一般的となっている。しかし昨年、SLNDでリンパ節を認めても、ALNDを省略した患者群で、ALNDを行った患者群と同様の予後が得られたとの論文(Ann Surg. 2010 Sep;252(3):426-32; discussion 432-3.)が掲載されたこともあり、KBCCCでも、ALND不要となる患者の定義特定を目指した議論がなされた。議論の中では、同論文の対象が低リスク(T1-2N0M0)患者であったこと、トレーニングをつんだ質の高い外科医によってのみ施術されたことなども指摘された。
ALND省略群におけるSLNBリンパ節転移数(中央値)は2個だったが、「2個以下のリンパ節におけるマクロ転移であれば無病再発期間(DFS)、全生存期間(OS)に影響を与えることなくALND省略可能」との設問に対しては、「Yes」10票、「No」1票、「多分」14票、「不明」5票。「2個以下のリンパ節におけるマクロ転移であれば局所再発に影響を与えることなくALND省略可能」は、「Yes」3票、「No」6票、「多分」17票、「不明」3票と、マクロ転移がある場合のALND省略には消極的な結果となった。
「微小転移であればDFS、OSに影響を与えることなくALND省略可能」との設問に対しては「Yes」21票、「No」2票、「多分」8票、「不明」1票。また「微小転移であれば局所再発に影響を与えることなくALND省略可能」は、「Yes」22票、「No」1票、「多分」7票、「不明」3票と、現時点での標準療法を踏襲すべきとの見解といえる。
治療は術前全身療法(PST)の効果と
腫瘍の様相に基づくとの意見が大勢
PST後、どのような因子を考慮して治療法を決定するかについては、「切除範囲を決定する時にもっとも考慮すべき因子は何か」との設問に対して、「診断時の生物学的特徴[ER/HER2/Ki67/RS/Grade]」2票、「臨床的腫瘍反応[腫瘍量と縮小パターン」24票、「治療前の腫瘍の大きさと広がり」4票、「不明」が0票だった。
「考慮すべき2番目の因子は何か」に対しては、「診断時の生物学的特徴」7票、「臨床的腫瘍反応」6票、「治療前の腫瘍の大きさと広がり」15票、不明0票との結果を得た。PST前の腫瘍の様相と、PSTの効果に基づくとの意見が多数だが、議論の中で、今後、生物学的特徴についても考慮していくべきであることが提言された。
ノモグラムの役割は未知
ノモグラムとは、予後に関連する様々な因子を組み入れ、再発の確率を予測するために作成した数理学的モデルシステムのことである。さまざまなノモグラムが開発されているが、投票では、どのノモグラムであるか明示されなかったこともあってか、「日常、ルーチンでノモグラムを用いているか」との設問に対して、「不明」が16票と、「Yes」5票、「No」11票を上回った。
取材MEMO
個別化時代における
コンセンサス/ガイドラインの重要性とは?
乳癌治療において、「個別化」という時、現在もっとも重視されているのが、腫瘍自体の生物学的特徴(ホルモン受容体やHER2の状態など)と、遺伝子などの患者の生物学的特徴だろう。しかしなお、解剖学的な特徴(腫瘍の大きさや広がり)も、治療選択にかかわる重要な因子である。さらには、患者自身の考え方や生活スタイル、好みも考慮する必要がある。
乳癌の治療は、多面的なものである。例えば、手術、化学療法、ホルモン療法を、する/しないという選択だけでも8通りとなるが、それぞれの治療法は1つではない。
手術でどれだけを切除するのか、リンパ節は廓清するのか。マージンは?――。化学療法のレジメンも数多く存在する。ホルモン療法もしかりである。多くの選択肢から、目の前の患者の乳癌に対する治療として、どれを選びとっていくのか。選び取る基準を、より適切なものにしていこうという取り組みが、ガイドラインやコンセンサスだと言えるだろう。
そして、より実践的なコンセンサスを形成しようとするならば、利用可能な治療方法や設備を想定し、かつ、対象となる患者の好みを組み込むことが望ましい。Winer氏は、本誌の取材に対し、「米国の医師は国外で作成されたガイドラインには、あまり注意を払っているようには思えない。ただ私は、そのことをネガティブにはとらえていない」と語った。
会議が日本で開催されたことは、日本の患者にとって大きなメリットであり、より適切な治療を受ける機会を広げるものであると言えるのではないだろうか。