メーカー公取協 MSDに「厳重警告」 医薬品取引有利にと医師に金銭提供
公開日時 2011/05/20 04:01
医療用医薬品製造販売業公正取引協議会(メーカー公取協)は5月19日、MSDに対し、09年1月から10年12月にかけて、公正競争規約に違反する医薬品取引を誘因する手段として医師に金銭提供した行為が4件あったとして「厳重警告」を行ったと発表した。
MSDの前身である旧万有製薬は昨年8月にも新薬のDPP-4阻害剤ジャヌビアの医師向け講演会で謝金を払ったことで「警告」を受けており、規約順守の確立のための社内体制の整備などに取り組んでいた最中だった。MSDによると前回の警告を受け、社内点検をしたが、今回のケースは公取協から今年1月に指摘を受けて発覚した。
違反行為は次のとおり。
▽10年11月、同社の降圧配合剤プレミネントに切り替えた場合の治療効果症例をインターネットによって160例収集するプログラムを実施し、医師には1症例当たり1万円の商品券を提供することにしていた。
公取協の指摘で同年12月に中止になり、商品券は渡らなかったが、処方すれば商品券の提供があるプログラムを実施したことが、不当な金銭提供だとされた。
公取協は「インターネットを用いて簡単な症例調査を行い、医師に対して謝礼を支払う行為は、一般的に、処方することにより金銭の提供が生じることから、原則として、規約上金銭の支払いが認められる調査委託ではない」と認定した。
▽09年10月から1年にわたり、同社のジャヌビアの使用実績が多いオーストラリアの研究・臨床BakerIDIへ、若手糖尿病専門医をのべ48人派遣し、謝金、旅費など1人当たり約65万円を負担。会議では参加者の発言時間は最短で約5分30秒、最長で約14分。帰国後の学術誌などへの執筆や講演も依頼がなく、議事録も作成されていなかった。
公取協は「本件謝金の支払い及び旅費等の負担は、規約で認められている海外で開催される自社製品関係の調査研究に関する会合に派遣する際の報酬及び費用には該当せず、不当な金銭提供及び旅行招待である」と認定した。
▽10年9月から11月まで、同社が今後扱うHPVワクチンの普及、診療実態、公費助成方法のアドバイスを得るための会議に、のべ88人の医師を招き、1人当たり7万円または3万円の謝金を支払った。しかし、1人当たりの発言時間は10分前後であった。
公取協は「発言時間は短く、有意義なコンサルティングとはいえない。事前に資料が配布されていない。十分な知識があったとはいえない者も含まれていたことなどから『仕事の依頼』に対する報酬とは認められず、不当な金銭提供である」と認定した。
▽09年1月から10年9月まで、同社の高脂血症治療薬ゼチーアに関するアドバイスを得ることなどを目的とした会議に、のべ3268人の医師を招き、1人当たり勤務医向け会議の参加医師には7万円、開業医向け会議の参加医師には3万円の謝金を支払った。しかし、座長、演者以外の1人当たりの発言時間は7分程度。
公取協は「発言時間は短い。事前に資料が配布されていない。10年8月25日以前の会議では議事録が作成されていないことから『仕事の依頼』に対する報酬とは認められず、不当な金銭提供である」と認定した。
公取協は、HPVワクチンとゼチーアの会議の件については前回の警告したケースと「同様な事案」であったことも踏まえ、「厳重警告」の措置をとった。そして、MSDに対し社内コンプライアンス体制を抜本的に改善することを求めた。なお、これを受け同社は公取協の理事を辞めた。