米国の新薬承認状況はCDER承認分39剤と過去15年来の好調さを示した。大手製薬企業のいくつかはいまだ主力品の特許切れである「パテントクリフ」の途上にあるが、この危機を乗り切れそうな状況となってきた。FDA医薬品評価研究センター(CDER)のJohn Jenkins新薬部長は、昨年12月のエルゼビア・ビジネスインテリジェンス主催の会合で、「NME(新規化合物)の承認申請の数はNME承認の数に対して律速段階となっている」と述べ、承認が早くなるとともに申請数が増加しているとの見方を示し、企業による申請が順調なことを説明した。
同部長は、2012年11月までにNME34剤の承認申請を受け付けたと報告、「12月にはしばしば駆け込みが多い」と話し、12月終了時点ではかなり多いことを示唆した。この12月に駆け込みを行った申請品目には、ファイザー、グラクソスミスクライン(GSK)、塩野義製薬3社の出資による抗HIV薬開発を目的とした合弁会社ヴィーブヘルスケア初の製品、再申請が長く待たれていた米メルクの麻酔拮抗剤sugammadex、バイエルヘルスケア/Algeta ASAの骨転移のある去勢抵抗性前立腺がん治療薬α粒子放出放射線医薬品ラジウム223二塩化物、GSKの糖尿病薬albiglutide、サノフィのLyxumia、サノフィ/バイエルの多発性硬化症治療薬Lemtrada(アレムツズマブ)の再申請などがある。
大手企業は、すでに15品目を新薬承認申請(NDA)あるいは生物製剤承認申請(BLA)済みだ。そのうち、FDAが12か月間に行動を起こすと考えられる6件の申請済みをもつGSKが数でリードしている。
ビッグファーマの大きな課題は、小規模の革新的バイオテクモデルの柔軟性と創造性を如何に大規模のR&D運営で生かしていくかということだ。メルクのKen Frazier CEOは、1月3日のGoldman Sachsの会合で、大企業は巨大なR&D組織を持っているが、その組織のなかで、どのように起業家精神や権限付与の力を維持させるのかと問題提起している。
ビッグファーマ共通の課題は、マンモス化した組織を小規模の研究ユニットによって迅速かつ創造的なものにさせるかで、現に、ロシュはジェネンテクを、サノフィはジェンザイムをという具合に、買収したバイオテク企業を独自のR&Dユニットとして運営している。
GSKは、パテントクリフを受け、R&D体制を立て直した企業のひとつだが、同社の集中的小規模R&D体制の運営による科学的創造性の向上や(小規模組織に)プロジェクトの所有権を付与するなどした試みは、同社のDiscovery Performance Unitsで具体化された。現在、申請済み製品には、腫瘍から糖尿病、COPD(慢性閉塞性肺疾患)からH5N1インフルエンザワクチンまで揃っている状況は、GSKがグローバルフランチャイズ上での商業的プロセスを、小規模チームが、製造リーダーと一体化した強力な商業リーダーと共に発展することを目的に改革している途上を示している。
ロシュは、2つの研究及び早期開発部門を持っている。ひとつは、医薬品事業部門、もうひとつはジェネンテク部門だ。ロシュのSeverin Schwan CEOは、今年初め、アナリストらに次のように話した。「あなた方がトップ科学者に何をなさねばならないかを1日中話したら、普通の業務手続きで彼らを埋没させてしまうことになるので、イノベーションを生めなくても驚くに値しない状況になる」として、科学者の自主性に任せることを示唆した。ロシュは疾患をベースとした研究に力点を置き、アカデミックとの協力を推進して来た。同社はニュージャージー州ナトレイの研究所を閉鎖、ニューヨーク市にトランスレーショナル研究所を設立した。同社は長く腫瘍領域のリーダーだが、診断薬の多様化に投資を行い、コンパニオン診断薬を使用した標的療法(個別化医療)に積極的にと取り組んでいる。ロシュは短期的には、大型品が予想されるT-DM1(trastuzumab emtansin)の承認が2013年に期待されている。
ノバルティスは、早期R&D体制の改革に早くから取り組み、現在、臨床試験プロセスを見直している。創薬が成功するように、患者集団において迅速かつ効果的な臨床試験を実施できるように疾患メカニズムや介入の可能性を探りながら、ゲノムなど関連知識を駆使することによって生物学的パスウェイの知見を探索している。同社はブロックバスターの抗がん剤Gleevecの特許が切れるが、腫瘍領域でのパイプラインは豊富である。
サノフィは、イノベーションを社外に求めた。そのひとつが、昨年承認された直腸結腸がん治療薬Zaltrap(ziv-aflibercept)に関するRegeneron Pharmaceuticalsとの提携だ。一方、サノフィは低分子にも開発を拡大しており、R&Dポートフォリオは低分子と生物製剤のバランスが上手くとれているという。現在サノフィは、Zealand Pharmaと共同開発のLyxsumia(lixisenatide)およびバイエルと共同開発のLemtradaが申請済みだ。
サノフィのグローバルR&DプレジデントのElias Zehhouni氏は同社の持つポートフォリオに基づくばかりでなく社外のイノベーションなどに基づき持続的成長の時期に入ったとの認識を示したうえで、新たなイノベーションのモデルを模索し、そのニューモデルは、社外および社内の研究との相乗効果を生み出せるものを構築するよう取り組んでいると説明している。
メルクは研究チームの独自性を重視している。同社の「センターのチーム」(Team at Center)と称する研究グループは、同社はプロジェクトチームに自身で決定権を持たせ、同チームはもはや大組織の言いなりではないとしている。
同社のFrazier CEOは、「後期ステージに入っているものは、一般的に遺伝子学的なバリデーションを行っているもので、ターゲットはまずバリデーションを行っているため、それは、(プロジェクトを)進めるか中止かの決定を容易にさせるバイオマーカーのようなもの」と話している。メルクは2012年に2剤のファースト・イン・クラスの薬剤sugamadexとsuvorexantを申請し、ともに2013年内にPDUFAの目標日が来る。また、2013年上半期内の新製品品目には、閉経後骨粗鬆症治療薬odanacatibがある。これもファースト・イン・クラスの薬剤だ。この他にも2013年は抗アレルギー薬、抗血栓薬など新規薬剤などの申請が控えている。
イーライリリーもまた、2014年に成長軌道への復帰を目指して、2013年にはNME5剤の申請を予定している。5剤には、糖尿病薬のdulaglutide、empagliflozin、新規インスリングラルギンのほか、胃がん治療薬ramucirmab、B細胞リンパ腫治療薬治療薬enzastaurinがある。
もちろん、すべての申請品目が承認されるわけではない。FDAのCDERおよびCBERは2012年に新規の45剤のNMEに対して承認通知を発行したが、少なくとも12のNMEと新規生物製剤に「審査完了通知」を発行している。 「審査完了通知」よりも残念なことは、再申請のためにFDAの要求に応えるために新たな新規の投資を必要とする、臨床現場での後期ステージでの失敗である。2012年の承認数の多さは一方では、多数のピボタルな試験での失敗を見た年でもあった。
The Pink Sheet 1月28日号