糖尿病治療薬の選択 安易なクラス内の切り替えは最適な治療オプションにならず
公開日時 2011/03/03 03:00
糖尿病治療について、薬剤の選択に関するディスカッションが、2月8日の「JAMA」に掲載された。最近、ロシグリタゾンを使用していた患者の多くが、心血管リスクへの懸念から、ピオグリタゾンなどの別のチアゾリジンジオン系薬剤(TZD)に切り替えているが、治療方針に関する決定は、常に治療効果とリスクを比較検討すべきであり、ロシグリタゾンより若干安全だからといって、安易に同じ薬剤クラス内で切り替えることが最適な治療オプションとは限らない、という議論である。
グルコース低下薬による糖尿病の治療は、有害事象を引き起こすことなく合併症を予防することに注力されるが、併存疾患や余命などの臨床的要素と患者個人の価値観といった背景において、これらのリスクとベネフィットのバランスは、個々の薬剤の安全性と有効性に依存する。現在、グルコース低下薬の長期的転帰に関して、ある特定のクラスを他のクラスより選択すべきとする、臨床試験の十分なエビデンスはない。一般的な想定では、どの薬剤を選択しても、主要心血管イベントなどの合併症リスクが低下するのは、どの程度グルコース値を低下させるかによるとされるが、最近のロシグリタゾンでの経験が、そうではないことを物語っている。その結果、米食品医薬品局(FDA)は、糖尿病治療薬の認可に際し、心血管転帰に関するデータを要求するようになった。
殆どのグルコース低下薬において、長期的臨床転帰に関するデータが依然欠落しているため、米糖尿病協会(ADA)と欧州糖尿病学会(EASD)の合意文章では、グルコース低下効果や安全性、忍容性、費用といった代理転帰に基づき治療を推奨している。これらを比較総合すると、メトフォルミンが有利であることから、ライフスタイルの改善とともに、糖尿病治療のファーストラインはメトホルミンが推奨されている。
メトホルミンは安全で、且つ忍容性も高く、低血糖や体重増を引き起こすことなく血糖値を効果的に低下させる。そればかりかイギリスの前向き研究では、小規模のサブグループにおいてメトホルミンによる心血管リスクの削減も示唆されている。合意文章では、メトホルミンが禁忌、またはメトホルミンでは血糖コントロールが達成できない場合のセカンドラインとして、インスリンかスルホニル尿素を推奨している。スルホニル尿素はグルコース低下においてメトホルミンと同等の効果を示し、インスリンはより厳密に血糖管理するために利用することが出来る。だが、両剤には体重増加や低血糖といった有害事象のリスクが伴う。
チアゾリジンジオン系薬剤(TZD)は、その有害事象プロファイルから、糖尿病治療の中核としては推奨されていない。ロシグリタゾンとピオグリタゾンは両剤とも、体重増加と下肢の浮腫のリスクが著しく増加し、女性では骨量減少の加速や骨折に関連することがわかっている。さらにどちらも、心不全と関連有害事象のリスク増加が多数の試験で確認されたことから、FDAのブラックボックス警告が義務付けられている。最近のFDAによるメタ解析では、ピオグリタゾンが約1.5倍、ロシグリタゾンは約2倍のリスクを伴うことが示された。
これらの懸念にも関わらず、TZDの利用は急増し、米国では2005年までに2型糖尿病に対する処方(推定約1120万枚)の34%を占めるようになった。その後、安全性への懸念が高まり、ロシグリタゾンの利用が減少したが、2007年に同薬剤クラス全体において、鬱血性心不全に対するFDAのブラックボックス警告が追加された後でも、ピオグリタゾンの利用はほとんど変化がなく、2008年から2009年にかけて、推定580万枚の処方箋が処理されている。2007年の1年間の薬剤費用は、後発薬の選択があるメトフォルミンが推定25億ドルだったのに対し、TZDは42億ドルに上っている。
糖尿病患者の増加と治療コストの上昇を考慮すると、グルコース低下薬とその効能に関して、相対的有効性を検討するより多くのデータが必要である。炎症への効果や脂質プロファイル、その他の代理転帰は、作用機序に関する本質を提供するかも知れないが、治療を決定する要素として利用されるべきではない。理想的には、医師と患者が決定的なエビデンスを元に、薬剤の選択をすべきなのである。
同じ薬剤クラス内で処方薬を切り替えるのが、より一般的となっており、ロシグリタゾンからピオグリタゾンへの切り替えは、心筋梗塞のリスクを上昇させない類似薬の選択という意味において、患者と医師双方にとって、簡単で単純、適切と見て取れるかも知れない。しかしロシグリタゾンの代わりを処方する際、医師は短絡的に同クラスの代替であるピオグリタゾンを選択するのではなく、全てのオプションに関するリスクとベネフィットのバランスを考慮すべきである。どちらのTZDも安全性や忍容性、またコストについて、メトフォルミンと対等ではない。この薬剤クラス以外の治療薬を検討すべき時なのである。