【ISCリポート】軽症脳梗塞患者にt-PA投与で年間2億ドル以上の医療費・介護費削減
公開日時 2011/02/10 16:15
急性期軽症脳梗塞患者に、組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA)を投与することで、重症化を防ぎ、機能障害を抑制することで、年間2億ドルの医療費・介護費が削減できる――。米国・Cincinnati大学のPooja Khatri氏らが2月9日、疫学研究に基づき試算を行った結果を国際脳卒中学会議(ISC)で報告した。
研究は、米国での軽度脳卒中の発症率を試算し、t-PAの静注療法を急性期軽症脳卒中患者に行うことの公衆衛生上のインパクトを検討する目的で実施された。t-PAの静注療法は現在のところ、頻度は少ないながらも重大な出血を引き起こす可能性があることから、脳卒中発症抑制効果とのリスク・ベネフィットを勘案し、軽症脳卒中患者には行われていないのが現状だ。Khatri氏は、急性期軽症脳卒中患者の標準療法が確立していないことに着目し、同研究を行った。
対象は、疫学研究「GCNK(Greater Cincinnati/Northern Kentucky region)」2005年のデータに登録された全ての入院脳卒中患者と、抽出した外来脳卒中患者。軽症脳卒中患者は、登録時点で脳卒中重症度スケールである「NIHSSスケール(点数が高いほど重症)」で5点以下とし、t-PAのtime window(治療可能時間)を考慮し、発症から発症から3時間半までの急性期患者とした。
GCNK研究に登録された人のうち、発症3時間半以内の急性期脳卒中患者は441例。このうち、軽症でt-PAを投与された症例は4例(1%)にとどまった。
一方で、軽症でt-PAを投与されていない症例は247例(56%)。Kharti氏らはこのうち、t-PAを投与されていない軽症患者の62%に当たる150例はt-PAによる治療を受ける候補とした。これは、ベースラインで障害があり、t-PAの投与ができない患者を37%、軽症でt-PAの効果を十分に得られる患者を「NINDS Study」などの結果から8~13%と試算した結果とした。
これらの結果を年齢、人種、性差を補正した人口調査データに外挿した。発症早期の軽症脳梗塞患者4万3180例と試算した。このうち、機能障害がなくt-PAを投与できるのは2万7203例。8~13%の効果があるとすると、2176~3761例の軽症脳梗塞患者の重症化を防げるとした。
これらの結果から、Khatri氏は「機能障害がmodified Rankin Scale(mRS)で2(軽度の障害)でとどまれば10万ドル、すべての患者で考慮すると2億ドル以上のコストを削減できる」と述べた。
ただし、同研究はレトロスペクティブに行っているほか、機能障害の患者の割合を試算するなど試験の限界も多いと指摘。「さらに体系だてられた軽症急性期脳卒中患者を対象にした試験が必要」とした。その上で、現在「PRISMS(Potential of rtPA for Ischemic Strokes with Mild Symptoms)」試験が進行中であることも紹介した。