J-MARS試験 アルテプラーゼの市販後調査で安全性・有効性を確認
公開日時 2010/05/18 04:02
発症3時間以内の日本人脳梗塞患者に対し、一般臨床下で、rt-PA(アルテプラーゼ)0.6mg/kgの静注療法は安全、かつ有効であることが、同剤の市販後調査J-MARS(the Japan post-Marketing Alteplase Registration Study)の結果から明らかになった。一方で、禁忌症例や慎重投与例への投与は死亡と関連することも分かった。中村記念病院脳神経外科診療本部長・脳卒中センター長の中川原譲二氏が15日、合同シンポジウム「脳梗塞急性期再開通療法」で報告した。
アルテプラーゼはすでに、2005年に“0.6mg/kg”の用量で承認されている。ただし、欧米では0.9mg/kgが用いられており、日本の臨床第3相試験であるJ-ACT試験が、オープンラベル、単一治療群の試験だったことから、市販後調査で実臨床下の安全性・有効性を確認することが求められていた。
J-MARS試験は、一般臨床下での0.6mg/kgの安全性と有効性を検証することを目的に実施された。2005年9月~07年10月に、国内942施設から7492人が登録された。主要評価項目は、症候性頭蓋内出血(NIHSS[神経学的重症度を表すスケール]が4点以上悪化)の頻度と、発症から3カ月後の良好な転帰(mRSが0[全く症状なし]~1[何らかの症状はあるが、障害はない])の頻度。
その結果、安全性の指標である症候性頭蓋内出血の頻度は、投与から36時間以内で3.5%(259人/7492人、95%CI:3.0~3.9)、3カ月後では4.4%(329人、95%CI:3.9~4.9)だった。また、全死亡率は13.1%(985人、95%CI:12.4~13.9)だった。一方、有効性の指標である発症3カ月後の良好な転帰(mRS=0~1)は33.1%(1637人/4944人、95%CI:31.8~34.4)だった。
J-ACT試験の結果と比べ、良好な転帰を示す割合が低く(J-ACTでは37%)、逆に死亡率が高い(J-ACTでは10%)が、「実医療では、重症な症例が入るため、死亡率が上がる」と中川原氏は説明した。
また、中川原氏は、頭蓋内出血の頻度と、施設で登録された患者数に関連があることを指摘。症候性頭蓋内出血の発症率が、患者登録が「1~4人」の施設では6.0%だったのに対し、「20人以上」の施設では3.2%だったことも紹介した。
◎欧米人の0.9mg/kgと同等の安全性・有効性示す
中川原氏らは、標準投与量である欧米人にとっての0.9mg/kgと、日本人にとっての0.6mg/kgの有効性・安全性が同等であるかについても検証した。中川原氏は、J-MARS試験と、欧米で実施された市販後調査「SITS-MOST」試験(投与量0.9mg/kg)と結果を比較したデータを紹介した。
患者背景をみると、J-MARS試験は、SITS-MOST試験と比べ、①心房細動を合併②脳梗塞の既往③NIHSSの点数が高く、重症――の患者が多く含まれている。病型別にみると、心原性脳塞栓症が多く、アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞が少ないことから、「心原性脳塞栓症が、日本では(t-PA療法の)ターゲットになりやすい」と中川原氏は説明した。
その上で、SITS-MOST試験の登録条件に合わせ、NIHSS<25で18~80歳の患者に絞って検討したサブ解析では、良好な転帰は39.0%(1394人/3576人、95%CI:37.4~40.6)で、SITS-MOST試験の39%と同等の結果となった。また、NIHSSの中央値は、J-MARS試験は13点、SITS-MOST試験は12点で、「ほぼ同じ有効性・安全性であることが分かった」と中川原氏は結論づけた。
◎中川原氏「禁忌事項を守らない投薬は、死亡例の増加を招く」
禁忌症例への投与については、J-MARS試験では5.9%にとどまり、米国やカナダの市販後調査より少ないと中川原氏は説明した。その上で、アルテプラーゼの適応患者と禁忌症例に分け、全死亡率を比較すると、適応患者では13.2%(948人/7185人)だったのに対し、禁忌症例では20.7%(88人/426人)だったとのデータを提示。頭蓋内出血による死亡例も増加したとし、「禁忌事項を守らない投薬は、死亡例の増加を招く」と注意を呼び掛けた。
また、慎重投与とされる“75歳以上”“NIHSS≧23点”“JCS(Japan Come Scale:意識レベルの評価)≧100”について、複数合併するにつれ、死亡率が増加することも紹介した。中川原氏は私見と断った上で、高齢だけが出血につながるわけではないとの考えを表明。「高齢者で、なおかつ合併症があって、神経症候が重篤であると出血を起こす」とし、複数のリスクが重なることで、出血につながるとの考えを示した。