中外製薬・奥田社長 新成長戦略「TOP I 2030」発表 トップイノベーター像実現に５つの改革を明記
公開日時 2021/02/05 04:52
中外製薬の奥田修代表取締役社長COOは2月4日の記者会見で、新成長戦略「TOP I 2030」を発表した。①世界最高水準の創薬の実現、②先進的事業モデルの構築を２本柱に据え、創薬、開発、製薬、Value Deliveryと、各バリューチェーンとそれを支える成長基盤といった「５つの改革」を明示した。いずれの改革とも共通するのは、デジタル活用とＤＸの推進だ。これら改革を通じ、同社が2030年に掲げるトップイノベーター像の実現を目指す。これに伴い2019年～21年の3か年を期間とする中期経営計画「IBI 21」を1年前倒しで終了する。
◎Value Based Healthcareの流れは一層加速する
奥田社長は今後の市場変化について、「財政影響により厳しい薬価政策とValue Based Healthcare（VBHC）の流れは一層加速する」と見通す。一方、科学技術の変化については「デジタル技術で事業モデルや競争優位が変化し、新たな価値創造の機会を得る」と述べた。さらに顧客の変化については、「RWDの分断によりヘルスケア市場の情報産業化は当面難航する」と判断したことを明かしてくれた。その上で、今後の事業への示唆として、競争優位性のあるモダリティ獲得やDXによる各機能のオペレーションモデル変革、デジタル活用による顧客エンゲージメントモデルの再構築などに取り組む必要性を強調した。
新成長戦略の策定に際しては、「2030年に中外製薬が到達するべきトップイノベーター像」からバックキャストした。「TOP I 2030」が掲げる「世界最高水準の創薬を実現し、先進的事業モデルの構築するキードライバー」とは何か。奥田社長は、その答えとして、「DX、RED SHIFT、Open Innovation」の３つをあげた。このうちREDとは、Research（研究）とEarly Development（早期開発）を指す。また、“TOP”には、「日本ではなく世界のトップイノベーター」を目指す想いが込められ、 “I”には、「イノベーター」に加えて「私＝I」という２つの意味が重ねられていることも明かしてくれた。
◎Value Delivery改革 リアル（対面）とリモート、デジタルの最適活用
トップイノベーター像実現に向けた「5つの改革」とは、①創薬、②開発、③製薬、④Value Delivery、⑤成長基盤－で構成される。いずれの項目ともデジタルの活用による生産性や効率性、さらには事業機会の拡大などの想いが込められている。このうちＭＲ活動とも絡み、顧客とのエンゲージメントを重視したのが「Value Delivery」の改革だ。
デジタルツールの発達や、新型コロナの感染拡大の影響を背景に、製薬企業の顧客タッチポイントのあり方が大きく変容していると指摘する。さらに、必要な情報を的確かつ迅速に届けるための「革新的な顧客エンゲージメントモデルの構築」を目指す必要性を強調した。
具体的にはリアル（対面）とリモート、デジタルの最適活用をあげている。さらに、中外製薬の強みでもある、営業、安全性、メディカルの各専門機能を適切に連携させ、顧客に価値ある情報を、迅速かつ最適な形で提供できる体制を構築するとした。このほか創薬や開発で蓄積された各種データベースやRWDを統合的に解析・活用し、個別化医療を促進するエビデンス創出を高度化し、患者ごとに有効性・安全性を的確に予測するバイオマーカーの開発も加速する。
◎奥田社長「重点課題として流通政策の高度化を進めたい」
資源シフト・デジタル活用では、フィールド要員最適化やバックオフィスの機能改革、さらには流通政策の高度化なども明記している。奥田社長は会見で、流通政策の高度化のイメージについて、「流通経費の効率化を目指したい」と指摘。「中外製薬にとって一番大切なのは、イノベーションに対して価格（価値）を維持して頂くことにある。これを重点課題として流通政策の高度化を進めていきたい」と述べた。
◎日高営業本部長「営業、安全、メディカルが連携し、それぞれの役割を果たす」
一方、営業、安全、メディカルの連携について日高伸二営業本部長は、「本部連携はこれまでも取り組んできた。顧客を真ん中に置いた時に、それぞれ専門家の立場で顧客に対し果たすべき役割を果たしていくということだ。しっかり協力していく。情報もしっかり共有する。さらに強化しながら進めていく」と意欲を示した。