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武田薬品福岡支店那覇営業所 吉田 真幸 氏

公開日時 2017/10/31 00:00

医師の想いに耳を傾けることが成功への第1歩

面談は最初から数回で全てが決まる

 

「MR-1コンテスト 2017」(主催:一般社団法人メディカルインフォ&コミュニケーション協会、MR-1コンテスト実行委員会)の最高殊勲MR(MVMR)に選ばれた武田薬品の吉田真幸氏をインタビューした。吉田氏は福岡支店那覇営業所に所属し、この10月からチームリーダーに昇格した。県内の大学病院とその周辺基幹病院及び宮古島エリアを担当する。今回のMVMR受賞の喜びを「プロ野球の投手が初勝利を得た時のような心境」と表現した。また、MR活動の本分については、「医師の懐に入らずして、真に有益な情報提供はできないし、提案はできない」と言い切った。将来の夢については、担当する医師や薬剤師と共に、地域住民や患者さんのために貢献できる活動を行っていきたい-との想いを熱く語ってくれた。(インタビュアー 編集長・沼田 佳之)

 

 

本当に嬉しいです!

 

――MR-1コンテストで最高殊勲MR(MVMR)を受賞した感想をお聞かせください。

 

吉田氏 本当に嬉しいです。今回のMR-1コンテストはMRのスキルを競うものでした。何が嬉しいかというと、プレゼンにしても、ロールプレイにしても、過去に出会った上司や顧客である医師からいろいろな指導を受け、修正し、築き上げたものが評価されたことです。

 

受賞後には、大勢の方々から声をかけて頂いた。一番嬉しかったのは、前の赴任地で担当した長野県の医師からお電話を頂いたこと。なによりの恩返しだったと思う。

 

コンテストに参加したファイナリストも皆レベルが高かった。その中で1番に選んでもらったことは嬉しくもあり、MRとしての自信にもつながった。

 

 

――MVMR受賞後にどんな変化がありましたか。

 

吉田氏 ミクスOnlineでコンテストの結果のニュースが流れた後の2日間は全く仕事にならなかった。社内に止まらず、他社MRさんや訪問先の医師や薬剤師など、合計100人以上の方々から電話やメールを頂いた。人生が変わったかというとわからないが、少なくとも自分の中で何かが変わったと思う。まさにプロ野球の投手が初勝利を勝ち取った時のような気がした。

 

忘れてはならないのは、エントリーを推薦してくれた薬剤部長のところに改めて報告に伺ったときのこと。部長からは、「チャンスをちゃんとものにしていただいた事は嬉しいし、流石だね」との言葉を掛けていただいた。部長の表情も本当に嬉しそうで、出場するキッカケを作ってくれた恩返しができて大変嬉しかった。

 

しかし、すぐに気を引き締めないといけないと思った。何故なら、外からコンテスト優勝者という目で見られるようになったからだ。下手なプレゼンするとMR-1コンテストの価値を下げてしまう。日々の活動においても、面談する医師を満足させるものでなければいけない。ふと、そんなことが頭に浮かんだ。

 

 

――そもそも薬剤部長が吉田さんを推薦したキッカケは何だったのでしょうか。

 

吉田氏 私が聞いている話は、今回のコンテストの推薦者を薬剤部長が考えたときに、私が真っ先に頭に浮かんだということ。先生からこの話を聞いた時に、すでに推薦状は出来上がっていた。部長との関係は良いと思う。その理由は、自社品の話というよりも、病院や薬剤部として現在抱えている医療課題の話や、沖縄県の医療の今後の理想像などの話で盛り上がる事が多かったためではないか。薬剤部長とMRという立場の違いはあるが、立場が違うからこそお互いの世界が外からどう見えているかという事も率直に意見交換もしている。お互い人間なので、時に部長の苦労話も聞かせて頂くし、私から苦労話をさせて頂いた事もある。これらの出来事が結果的に推薦していただけた理由だと推測している。

 

 

病院にとってのポジ、
ネガを的確に伝達

 

――日常のMR活動の中で、心掛けていることは何ですか。

 

吉田氏 MRをスタートした2006年当時に比べていまの環境は大きく変わってきた。ただ、変わらないのは医師や薬剤師の先生とWin―Winの関係を作ることではないか。たとえば後発品の採用は病院経営にとって必須要件になっている。病院ごとに目標がある。過去は、自社品の情報活動にのみ注力すれば良い時代だった。ところが現在は違う。自社品の情報提供をする中で、担当病院の後発品の採用目標はどこに設定し、いまどこの水準にあるのかをMR自身が知らなければいけない。こうした背景を頭に入れつつ、自社品の採用を提案する時は、病院にとってネガティブな面と、ポジティブな面の両方を的確に伝えなければいけないと強く感じている。そこが出来ると、お互いの理解が進み、反発もされなくなる。こうした活動を通じ、なんでこの薬剤がこの病院に必要なのかを理解されるようになる。こうしたアプローチを心掛けている。

 

 

製品の話題3割に対し、それ以外が7割

 

――まさに重要なポイントですね。こうした活動を行うための下準備のようなことは行っているのですか?

 

吉田氏 やはり日々の活動を通じた情報収集ですね。いまは公開情報も沢山ある。あとは医師と面談するときに、クスリの話だけで終わらないように努めている。特に病院経営や医療環境の変化などで、先生の考え方を聞かせて頂くことが多い。

 

あえて日頃の活動を製品紹介とそれ以外とに比率で分けると「7対3」くらいになる。製品が3割程度、後の7割が病院経営や医療環境の変化など。MRは製品の宣伝ばかりやっているとの印象だが、やはり製品の情報提供は、医局説明会などでガッチリやる。それを踏まえて、フォローの説明で医師と面会することになる。発売直後の新薬を除けば、やはり面談する医師の日頃の悩みや課題などに接する機会が圧倒的に多い。

 

 

――製品軸以外の面談で成功体験はありますか?

 

吉田氏 これは難しい質問ですが、患者さんの拾い上げがうまくいっていないようなケースについて、相談を受けることも多い。例えば検診事業のような取り組みにしっかり貢献することで、結果的に自社品の処方に結びつくケースもある。ただ、まだこのようなケースは少なく、逆にこうした話題を通じて医師とコミュニケーションができることの方が大きい。

 

 

――まさに医師の懐に入る方法というところですね。

 

吉田氏 そうですね。こうした話を通じ、医師が弊社の薬剤を本当に使おうという志向になるのだと思う。例えば「パスがあるけど、この薬剤は入っていないよね」など、医師側から気づいてくれることもある。逆に、こうした話が全く無いままに、薬剤の話だけで面談が終わると、医師側もこちらの意図が想起できず、必要な情報が出てこないまま終わってしまうこともある。

 

 

医師の想いを聴かずして
有益な情報提供はできない

 

 

――こうしたことを心掛けるきっかけは?

 

吉田氏 私がMR活動を始めた10数年前は、医師も1人で20社近くのMRと付き合っていた。ところが今は環境が変わった。どのタイミングだったか分からないが、その中で医師は無駄な時間を過ごしたくないと思うようになってきた。いまは医師も3~5人程度のMRとしか会わない。逆に、無駄なMRというレッテルを貼られると、もう絶対に会ってもらえなくなる。だから医師と面談する際は、1回目、2回目、3回目くらいのタイミングで今後の全てが決まってしまうという心境で取り組んでいる。

 

面談を通じ、医師に無駄な時間を過ごさせたくはない。なぜなら医師は想いを持って日常の仕事に取り組んでいる。例えば、医師は、自分の専門を何故選んだかについて想いを必ず持っている。その理由を聞かずして、有益な情報は提供できない。また提案もできないと考えている。

 

 

――宮古島も担当しているのですよね。島の地域医療に接していると思いますが、どんな活動をされていますか。

 

吉田氏 離島といっても人口5万人で、基幹病院もある。ただし、領域によって専門医が不在という事もあるので、その辺を意識した情報活動をしている。また、治療も大事だが、離島は特に「予防」に重きを置いた活動が求められると思う。医師と島の生活や文化を背景に話をする事が多い。例えば飲酒環境の問題など。これは沖縄全体に言える事だが、飲酒の機会が比較的多く、泡盛などはアルコール度数の高いお酒なので、アルコール性肝炎が多いと聞く。そんな環境において、患者さんへの疾患啓発の大切さを医師と共有することが多い。クスリの効果を発揮する意味でも、まず食事療法などの啓発活動が大事だし、学校教育も大切だと思う。そこに関わりたい想いは人一倍強い。ルールをきちんと守った上で、市民公開講座の開催など色々な貢献をしていきたいと考えている。

 

 

薬剤師との関係構築を
若手MRに呼びかけ

 

 

――これから3年後、2020年の自分の姿をどう予測していますか?

 

吉田氏 まず2018年4月にどうなるかという問題がある。ここが大きなポイントだ。正直それ次第。人工知能(AI)が台頭するといわれるが、我々の業務時間を効率化してくれるツールとして活用できるのであれば、ありがたいと思う。これによりもっと外勤時間を増やすことができればその価値は大きいだろう。

 

一方、2020年の軸でいえば、医師とMRという構図は終わりかけているのではないか。医師とMRの関係は基本だが、コメディカル、特に薬剤師の仕事が大きく変わる可能性が高い。病院薬剤師は変化が大きいのではないか。一昔前のMR活動は、医師への訪問に集中していた。これからは病棟薬剤師への訪問が必須になると考える。カンファレンスにも薬剤師や看護師が当たり前に参加する時代になるだろう。薬剤師には処方提案なども求められる。これは医師側の要望でもある。

 

この結果、薬剤師に対しても医師と同じレベルで情報提供することになるだろう。薬剤師の職能の向上にも、MRが貢献できる。薬剤師向けの講演会も増えてくるのでは。私は若いMRに対し、薬剤師との関係をもっと構築すべきだと話している。今後は担当交代の引き継ぎ書も、半分は医師、残り半分は薬剤師を書き込めるくらいの活動をしていかなければいけない。

 

 

――最後に全国のMRさんにメッセージをお願いします。

 

吉田氏 私一人ではできないが、全国のMRが地域医療、日本の医療に貢献しようという想いを持って欲しい。その結果としてMRの職種としての地位は確実に向上する。MRの存在価値を高めることで、世の中に認めていただけるような活動に今後も務めていきたいと思う。決してMR不要論ではない。同時に、MR-1コンテストにもっと多くのMRさんが参加して、将来は東京ドームで開催できるまで発展させて欲しいと願っている。

 

――長時間にわたりありがとうございました。

 

 

 

吉田さんの上司 武田薬品那覇営業所の瓜生田治所長からコメント

吉田さんのMVMR受賞は社内報に掲載したほか、福岡支店の全体会議の場で全員の前で報告した。

 

彼の良いところは本音ベースで何でも話をしてくれるところ。会社の良いところ、悪いところも突いてくるような、鼻が効くタイプ。常に本質を鋭く突き、意見具申をしてくれる。

 

MR活動については、武田薬品が取り組んでいるベストインクラス(BIC)を理解し、医療関係者との信頼関係を築き、レピュテーションをあげている。今回の受賞もこれが生きたのではないか。

 

2年前に那覇営業所に赴任してきた時のことを覚えている。彼が外勤情報に最初に書いたものが印象的だった。「医療関係者の想いに寄せた活動をする」という内容だ。彼の担当病院の神経内科の医師から医療への想いを聴き、医師との関係構築を図った。那覇営業所に配属されて、たった2週間でこの活動をやったのは、すばらしいと思った。

 

今年10月からチームリーダーに昇格した。チームをリードし、これからの武田薬品を変える存在になって欲しい。さらに言えば、武田薬品を牽引するだけでなく、業界を変えて欲しいと願っている。

 


吉田真幸さん:2006年4月武田薬品工業入社、甲信越支店松本営業所配属。大学病院をメインに担当した。2015年10月に福岡支店那覇営業所に転勤。2017年10月からチームリーダーに昇格。現在は沖縄県内の大学病院とその周辺の基幹病院、及び宮古島エリアを担当。

 

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