フィリップスと東北大学(宮城県仙台市)は6月26日、ICTを活用して疾病予防を図るソリューションの創出に向け共同研究を進める包括提携を結んだ。フィリップスは在宅呼吸器や電動歯ブラシのユーザー使用状況をクラウド上に収集できる技術を持つ。それを東北大学とともにデータ解析や同大が持つ医学、工学等の知見、経験を取り入れることで、疾病になりやすい生活者の行動や課題を見出す。その上で両者ほか異業種連携によって、東北が先行する超高齢社会に伴う健康や医療上の課題の解決を見据え、生活習慣を改善し疾病予防につながる製品やアプリ等のサービスなどの実用化を目指す。まずは、口腔衛生の悪化が誤嚥性肺炎や生活習慣病につながるとされ、高齢者ケアの課題となっている口腔ケア領域から着手する。
東北大学は、厚労省の臨床研究中核拠点病院、文科省の橋渡し研究戦略的推進プログラムの拠点であるなど研究成果の実用化を積極的に進めている。企業関係者の現場観察等を受け入れ、臨床ニーズを反映した取り組みを後押ししている。そこにフィリップスは着目するとともに、東北が抱える超高齢社会に伴う過疎、医師不足等の医療資源の減少、医療費の増加に対し、医学系のみならず大学全体の知見と地域特性を活かして、生活習慣を改善し疾病予防を図ることで解決の一助となる新たなソリューションが必要と判断し、東北大側に声掛け、包括提携に至った。提携の年限は区切っておらず、投資額など事業規模は開示していない。
来春にも協働施設「Co-Creation Center」開設 異業種連携狙う
取り組みを推進するため同社は、大学構内に医療スタッフと日常的に話し合えるスペースを開設。そこで試作化など具体化を図るための施設「Co-Creation Center」を2019年春にも仙台市内の東北大近くに設立する。地域医療を含め臨床の実際を知るスタッフとの交流に基づくニーズ探索をした上で、ニーズを具体化するためのビジネスマッチング、異業種連携を通じ試作等を、新設するセンターで協働で行い、最終的にはソリューションを創出するという流れをつくりたい考え。また、大学内だけでなく、宮城県や仙台市との協力により、研究成果の住民への還元も視野に、仙台市の都市部と周辺の農村部を含む県の地域特性も生かして取り組むことも視野に入れる。
包括提携ではまず、口腔衛生の悪化が誤嚥性肺炎や生活習慣病につながるとされることから、口腔ケア領域から始める。口腔ケアは高齢者の課題であることに加え、対象人口が多く、新たなソリューションが創出されれば生活習慣の改善や疾病予防の効果が大きいとの判断によるもので、7月から年末にかけて、現場ニーズに基づいたソリューションの立案と技術的検討、ビジネスプラン策定まで進める方針。来年度は、睡眠、食事・運動もテーマにしていく計画だ。
超高齢社会の健康・医療課題の克服、東北発で
両者の包括提携の調印式が26日、東北大構内で行われ、東北大の大野英男総長(写真左)は、「とりわけ東北地方では、人口減少、超高齢化、医療へのアクセシビリティの低下など深刻な課題を抱えている。これら諸課題を最新のテクノロジーを用い、組み合わせて克服し、地域に貢献するとともに、我が国、そしてグローバルへの貢献につなげていくことが東北大に求められている」と挨拶し、提携で生み出す新たなソリューションの世界への発信を目指すことを強調した。
フィリップス本社のフランス・ファン・ホーテンCEO(写真中央)も出席し、「健康をより増進し、持続可能なものにしていくにはイノベーションが必要である。しかし、単独ではできない。東北大は臨床や行動科学等に深い知識と知見を持っている」と述べ、共同で取り組む意義を説明した。
日本法人の堤浩幸社長(写真右)は、超高齢化に伴う健康、医療上の課題を挙げ「東北の課題は、日本の課題であり、近い将来の世界の課題である」と指摘し、「この東北から、仙台から、日本から、将来を左右するイノベーションを生み出す。社会の変革をリードできる地域にする」と、意気込みを語った。