バイエル薬品 イグザレルトの患者調査論文の執筆にメディカルが関与か

公開日時 2017/04/13 03:52
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抗凝固薬・イグザレルトの患者調査で、MRが患者のカルテを不適切に閲覧していた問題で、調査結果をまとめた論文の執筆、掲載にバイエル本社のメディカル本部がかかわっていたことが本誌取材で明らかになった。論文掲載までの過程では、同社が掲載料を肩代わりしていたこともわかった。同社は、営業所員最大3人によるカルテの閲覧を認めていたが、MR個人の関与にとどまらず、論文の内容をプロモーションに活用することを目的に、組織ぐるみで関わっていた実態が浮かび上がってきた。一方で、今回問題視される論文にはイグザレルト錠の営業上の訴求ポイントを印象づける記述が複数みられる。論文は2016年1月に取り下げられている。ただ、バイエル薬品は論文の結果をパンフレットに掲載し、全国の医師に情報提供しており、もともと当該薬剤のプロモーションを念頭に置いた調査であった可能性も高まっている。


「謝辞 本論文の作成に当たり、学術的アドバイスを頂いたバイエル薬品株式会社およびメディカルライティングをご援助いただいた株式会社サン・フレアに御礼申し上げます」、「資金提供 論文の作成、および投稿に関する費用はバイエル薬品株式会社が負担した」-。


宮崎県内の診療所・えとう循環器科・内科の江藤琢磨医師が著者の論文「抗凝固療法中の心房細動患者における服用方法の嗜好性とアドヒアランスへの影響─アンケート調査からの考察」はこう締めくくられている。この論文が、ライフサイエンス社の「Progress in Medicine」に掲載されたのは2013年12月。それから遡ること1年前の12年12月に、この論文のベースとなる別の論文が同じ雑誌に掲載された。論文のタイトルは「抗凝固療法中の心房細動患者に対するアドヒアランスに関するアンケート調査成績」-。薬剤のコンプライアンスを検討したものだ。ところが、こちらの論文には、先述のような謝辞や資金提供は明示されていない。2013年の論文の謝辞を見る限り、バイエル薬品が12年の論文にも関わっていた可能性は高い。事実、MRによるカルテの不適切な閲覧によって収集されたデータを用いて論文が作成されているのだ。であるならば、12年の論文にも企業の担当者が共著である旨の明記が求められるはずだ。アンケート調査の企画主体も明記しなければならない。


◎自社製品の訴求ポイントを印象づける記述散見



このアンケート調査をまとめた論文は、バイエル薬品がイグザレルト錠の訴求ポイントを印象づける記述が散見される。

まず、アンケート調査の実施医療機関が1施設だけで、症例数も小規模であることだ。一報目に当たる「抗凝固療法中の心房細動患者に対するアドヒアランスに関するアンケート調査成績」(以後、一報目)は148例、二報目の「抗凝固療法中の心房細動患者における服用方法の嗜好性とアドヒアランスへの影響─アンケート調査からの考察」は30例にとどまる。調査研究はより、研究者の主体性が出やすいことから、複数医療機関、大規模症例での検討はマストだ。


次に、結果の解析方法にも問題がある。コンプライアンスは、疾患の重篤度や患者の年齢など、患者背景により影響を受ける。バイアスがかからないように層別解析を行わなければ、結果を評価できない。しかし、この論文では結論を導いた。


◎競合薬の評価はアンケート結果以外の情報を引き合いにコメント


最も問題と言えるのが、その結論の導き方、そして考察だ。本来アンケート調査は、患者の実態を把握するためのものに過ぎず、どの薬剤が最も良いかまでを言い切ることはできない。しかし、「1日1回、1錠が好ましい」とのコメントは複数散見。解析手法やP値なども明記されずに、「リバーロキサバン(製品名:イグザレルト)服用患者は93%(28例)と他の薬剤と比べて高かった」、「いずれの薬剤についても何らかの気になる点を感じていたが、リバーロキサバン服用患者は比較的少ない傾向にあった」などのコメントを列挙した。さらには、競合品であるワルファリンやプラザキサについては副作用を強調。プラザキサについては、臨床研究を引き合いに、胃酸や胸やけの多さを指摘した。非科学的であるだけでなく、競合品の誹謗中傷とも受け取れる文言までもが並ぶ。このアンケート調査、そして論文の体をなしているとは言い難い実態のものだった。


【解説】いま問われるメディカルの役割



表紙に赤で大きく「1」の文字――。イグザレルトのパンフレットだ。“1日1回1錠”をキーメッセージに市場浸透を進めてきた同剤。2012年4月の発売以降、順調に売上を伸ばした。同社の発表によると、新規経口抗凝固薬市場で国内外とも売上、シェアともナンバー1。16年の日本での金額シェアは36.7%で、売上高も641億1500万円という、大ヒット商品となった。


一方で、当初からプロモーションに対しては、臨床現場、製薬業界から疑問が投げかけられていた一面もあった。同剤の登場の1年前の2011年3月。抗凝固薬市場では約50年ぶりの新薬として、プラザキサ(日本ベーリンガーインゲルハイム)が登場した。投与対象となる心房細動患者は100万人とのデータもあり、高齢化が進む中でさらに患者数の増える巨大マーケットとして注目を集めた。


当然、競合薬の市場参入も続く。エリキュース(ブリストル・マイヤーズスクイブ/ファイザー)、リクシアナ(第一三共)と大手製薬企業の参入が予想される中で、バイエル薬品にとっては一刻も早く、プラザキサの牙城を崩すことが必須だった。特に、イグザレルトは申請データとなった臨床試験データ「ROCKET AF」、「J-ROCKET AF」では、標準薬であるワルファリンに対し、非劣性を示したにすぎず、臨床上重大な出血についてはワルファリンより増大することなども指摘された。対象患者は異なるものの、優越性までを示す競合薬がある中で、臨床試験データからは一歩劣る感も否めなかった。こうした中で、ワルファリンやプラザキサよりも有益だ、と印象づけることは必須だった。


問題となったデータは、患者調査でありながらも、同剤のこうした特徴を波及するために企業にとっては喉から手が出るほどほしいデータだったと言える。当時、論文に並んだ、「近年登場した新規抗凝固薬はいずれもワルファリンに比し脳卒中または全身塞栓症の発症抑制効果が高い」、「頭蓋内出血などの重大な出血事象の発現頻度が低い」など、一歩踏み込んだ感のあるフレーズに目を引く医師も多数いたという。さらに、「錠剤を1日1回、1錠服用するという服用方法が患者のニーズに合致している」と製品特性の特徴を印象づける。臨床上の有効性・安全性に差がなく、コンプライアンスの違いこそが薬剤選択を握ると強く発信している。


こうした中で、1施設で100例もの患者を集めることができるクリニックの医師から協力を得る意義は大きかった。抗凝固薬は、脳卒中や心筋梗塞の発症予防を目的とすることから、一度投与されれば、投与が継続することの意味もある。


◎医学的エビデンスに基づく情報提供



「製品の情報提供に用いる資材の作成は、メディカルアフェアーズ本部というマーケティング部門とは別のメディカル担当組織が所管しており、医学的エビデンスに基づく情報提供を行っている」--。同社は、弊誌が2014年4月に、一部医師からエビデンスとMRのプロモーションに違いがあるとの指摘があったことを受けた取材に対し、こう回答した。


MRにはその行動規範を定めたプロモーション・コードと呼ばれる業界ルールが存在する。MSLはコード外と見る風潮も製薬業界の中に一部あるが、製薬協の公式見解はこれとは違う。プロモーション・コードは、「プロモーション活動をする者すべてに適用される」としている。ここで言うプロモーション活動とは、販売促進ではなく、医療関係者への情報の提供・収集・伝達、そして適正使用と普及を図ることを意味する。当然のことながら、MSLの活動もプロモーション・コードの範囲内でなければならない。言うまでもなく、今回のように論文執筆にかかわること自体がご法度だ。


もう一つ、この問題は大きな影を医療界に投げかけている。臨床研究法案が今通常国会で成立した。しかし今回の事案をみると、この問題は患者へのアンケート調査が主であり、臨床研究ではないことから、臨床研究法案の網から逃れる可能性があるということだ。製薬協もパンフレットの審査を行うが、上市時点にすぎず、その後市販後臨床試験の結果を反映した広告資材は、いまの段階でも審査の対象外だ。あらゆる網から、今回のような事案がすり抜けてしまう可能性がある。


今回のような患者調査のような観察研究や、さらには臨床研究の促進は、医療の進歩には不可欠だ。しかし、透明性が担保されていなければ無に帰す。アンケート調査が実施、論文が掲載された時期は、ディオバンの臨床研究が問題視されていた時期とも一致する。臨床研究の製薬企業、そして医師との関係の透明性確保の重要性が常に発信されていた時期でもある。こうした時期に、この研究が行われていたことは、重く受け止めざるを得ない。(Monthlyミクス編集部 望月英梨)
 

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