厚労省・森審議官 AMR対策の新規抗菌薬 “条件付き早期承認”のインセンティブも
公開日時 2017/04/10 03:50
厚生労働省の森和彦審議官(医薬担当)は4月8日、都内で開催された日本感染症学会・日本化学療法学会合同学会のシンポジウムで講演し、薬剤耐性(AMR)として新規抗菌薬の開発が重視される中で、条件付き早期承認制度の対象品目となる可能性を示した。条件付き早期承認は、今年1月に開催された「薬事に関するハイレベル(局長級)官民政策対話」で今夏まで具体的運用について決めることが合意されている。
2015 年 5 月の世界保健総会では、「薬剤耐性(AMR)に関するグローバル・アクション・プラン」が採択され、それに基づき国内でも昨年4月にAMR対策のアクションプランが策定された。昨年5月に日本で開かれた、主要7か国の首相が集まるG7サミットで採択された「伊勢志摩首脳宣言」では、抗微生物剤の合理的な使用などとともに、製薬企業へのインセンティブを与える取り組みなども提唱されている。
抗菌剤のマーケットからは採算性が取れないことなどから、市場からの製薬企業の撤退が相次ぎ、新薬の開発が進んでいない現状がある。実際、国内でも抗菌薬の開発に取り組む企業は少なく、2001年以降、新規基本骨格を有する薬剤は登場していない。しかし、AMRが出現した際に、新規抗菌薬がなければパンデミックを起こす可能性もあり、新薬の開発はグローバル全体の課題とも言える。
◎製薬企業側 採算や安定供給の難しさも
この日のシンポジウムでも、企業側からは採算性や安定供給の観点からの指摘があった。シンポジウムに登壇したMSDグローバル研究開発本部の白沢博満氏は、抗がん剤などがグローバルで数千億円、数兆円売上げることを引き合いに、過去10年間に販売された抗菌薬の売上は最高でも年間200億円の売上にとどまるなどのデータを提示した。白沢氏は、「人の命を救う薬剤だが、高額な価格はつかない。厳格な適正使用をすることが前提だ。広範囲で使うべきではない、長期に使うものでもない」と指摘。一方で、「研究開発には同様のコストがかかる。市販後の安全対策、情報収集集、情報提供にも多大なコストがかかる」と述べ、製薬企業として抗菌薬に取り組むことの難しさを指摘した。
塩野義製薬医薬研究開発本部の山野佳則氏も、「製造も含めて、安定供給の義務は企業側に生じる。事業は簡単ではない」と指摘。多剤耐性グラム陰性菌に対する新薬の開発に取り組む中で、出現頻度が低く、さらに患者がグローバルでどこに発生するかもわからないなどの課題があると指摘した。さらに、欧米で承認のための臨床研究に求める基準が異なることから、「現時点では明確な見解が示されていない。臨床試験を行うための明確な指針が必要だ」と述べた。
◎三極間でのハーモナイゼーションも
森審議官は、昨年9月に日本がリーダーシップを取る形で、日米欧三極で、合同のガイドライン策定に向けて取り組んでいることを説明。臨床試験のネットワークをグローバルに展開することで、「限られた耐性菌が世界中のどこかで出ているかを開発から市販後まで知ることができることがお互いの身を助けることになる」と述べ、三極間で今後協議を進める考えを示した。
抗菌薬の開発のインセンティブも重要になる中で、その一つとして、条件付き早期承認制度をあげた。条件付き早期承認制度は、希少疾患や再生医療などで、全例調査などを条件として承認する制度。少ない症例数で承認を受けることができるメリットがある。森審議官は、この制度について「患者数が少ない、データが得るのが難しい、重篤な疾患の薬が思い浮かぶがまさしくその中の一つに、AMR対策の新規の抗菌薬が含まれる」と述べた。
条件付き早期承認制度では、承認までに得られた症例数が少ないことから、市販後に医療情報データベース(MID-NET)や、疾患レジストリーなどを通じて得られるリアルワールド・データを活用して、安全性などを継続的にウオッチすることが必要になる。森審議官は、「無駄のない効率的な開発ができる」と説明。さらに、「より実践的な医療現場からのデータが集められて、実際に使ってどうだという話なので現場にすぐフィードバックできる情報になる」と述べた。
いわゆる仮免状態の条件付き承認の間は、最適使用推進ガイドラインなどを活用して、医療機関や患者像を絞り込むことで、適正使用を推進、安全性を担保する。特に、抗菌薬では、不必要な投薬を防ぐためにも、患者に適正使用について理解してもらうことも必要になる。森審議官は、医療現場だけでなく、患者も含めて各ステークホルダーが一堂に集い、ガイドラインを策定し、適正使用に取り組む必要性も指摘した。