地域医療構想・地域包括ケアへの道程表
公開日時 2015/10/19 05:00
情熱的読書人間
榎戸 誠
【病院から地域へ】
『2025年へのカウントダウン――地域医療構想・地域包括ケアはこうなる!』(武藤正樹著、医学通信社)では、10年後に現実となる「地域医療構想」「地域包括ケア」とはどんなものなのか、その工程表はどうなっているのか――が、丁寧に解説されている。
「戦後最大の人口ボリュームを占める団塊の世代700万人が、すべて後期高齢者となるのが2025年。そのとき75歳以上人口は2200万人に達し、全人口の18%、65歳以上人口は3700万人に達し、全人口の30%を占めるようになる。このため人口ピラミッドの形も大きく変わる。つまり国のかたちが変わったのだ。2025年、日本はこれまでの日本ではない。まったく別の国になると考えたほうがいいだろう。こうした人口構成の激変を前に、医療と介護の提供体制も、従来とはその基本コンセプトを変えて、大きく変革しなければならない。この変革は一言で言えば『病院から地域への転換』だ」。医薬品業界が医療機関に情報を初めとするサービスを提供することによって経営を成り立たせている以上、環境の激変に備える必要があることは言うまでもない。
【カウントダウン】
とりわけ重要な政策課題は、何だろうか。「医療介護一括法に盛り込まれた地域医療構想や地域包括ケアシステムの実現が各都道府県、市区町村の政策課題として、その実現が待ったなしだ。それぞれの都道府県、市区町村はまさにこれから2025年のゴールへ向けていっせいにスタートを切ったところといえる。2025年まで、あと10年。そのなかでもホームストレッチは2018年から始まる7年間である。というのも2018年は、第7次医療計画のスタート年、同時に市町村の介護保険事業計画のスタート年。そして診療報酬改定・介護報酬改定の同時改定年でもある。この年はちょうど惑星直列のような年で、ここから2025年のゴール前のラストスパートが始まる」。
【地域医療構想】
地域医療構想のポイントを見てみよう。「病気と共存しながらQOLの維持・向上を目指す医療となる。すなわち医療はかつての『病院完結型』から、患者の住み慣れた地域や自宅での生活のための医療、地域全体で治し、支える『地域完結型』の医療、医療と介護、さらには住まいや自立した生活の支援までもが切れ目なくつながる医療に変わらざるを得ない」。「機能分化と連携はコインの表裏であり、一体である。とくに(社会保障制度改革国民会議の)報告書では、医療と介護の連携と地域包括ケアシステムというネットワークの構築を強調している。また報告書では、『<医療から介護へ>、<病院・施設から地域・在宅へ>という流れを本気で進めようとすれば、医療の見直しと介護の見直しは、文字どおり一体となって行わなければならない』として、医療と介護の提供体制の改革は同時並行に行うべきとしている」。
【地域医療推進法人】
医療法改正案の中で検討されている日本版非営利ホールディングカンパニー型の法人制度である「地域医療推進法人(仮称)」制度とはどういうものだろうか。「現状においてわが国では地域のなかに似たような機能をもち、しかし経営主体の異なる大小様々の病院が乱立している。このため貴重な医療専門人材の分散化や、医療機器等の重複投資が起きていて、結果として病院間の連携どころか患者の奪い合いとなって、非効率が極まっている。この現状を打破して『競合から強調へ』、『地域連携から地域経営統合へ』の道が模索されることになった。こうしたなかで浮かび上がってきたのが、先の社会保障制度改革国民会議の最終報告書にも取り上げられた経営統合の手法としての『非営利ホールディングカンパニー』の枠組みだ」。
【薬局・薬剤師の課題】
地域包括ケアシステムにおける薬局・薬剤師の役割はどうなるのだろうか。「今、薬局薬剤師を取り巻く環境が大きく変わりつつある。・・・これまでのように『医薬分業の理念』を訴えるだけで(火を噴く医薬分業批判の)事態を打破できると思っているのは、いささかナイーブすぎるだろう。そして、これからさらなる負担を患者・国民に求めるには、薬局薬剤師の業務の必要性やその価値を患者・国民に実感してもらう、そしてさらにその価値をデータやエビデンスとして『見える化』して国民に訴えかけるしかないだろう」。この著者の厳しい指摘は、製薬企業・MRにも言えることだ。
【製薬企業・MRの課題】
本書では、地域包括ケアシステムには多職種連携が必要だとして、総合診療医、訪問看護師、薬局・薬剤師、栄養士、臨床検査技師、自治体・医師会のそれぞれの役割が提示されているが、製薬企業・MRの役割には言及されていない。大きな流れである地域包括ケアシステムの一翼を担うための製薬企業・MRの戦略構築が急がれる。