マルチチャネル3.0研究所
主宰 佐藤 正晃
地域包括ケアシステムを動かす原動力の一つに地域内における診療情報の共有化がある。NEC医療ソリューション事業部は電子カルテの経験を踏まえ、診療情報共有化に必要不可欠なプラットフォーム「ID-Link」を提供している。地域の基幹病院と診療所、さらには保険薬局や訪問看護ステーションの情報をワンストップでつなぐシステムの開発を手掛けた同社の取り組みを聴いた。(取材・記事編集 沼田 佳之)
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佐藤 正晃 氏
MC3.0研究所
主宰 |
外尾 和之 氏
NEC医療ソリューション事業部
事業推進部 部長
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田中 康太郎 氏
NEC医療ソリューション事業部
事業推進部 主任
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眞子 明日香 氏
NEC医療ソリューション事業部
事業推進部
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電子カルテで培った
ナレッジを活かせ
佐藤 NEC医療ソリューション事業部の取り組みについて教えてください。
外尾 我々は全国各地の地域医療連携に関する案件の支援を行っている。医療分野は専門的な知識が求められることからSE(システムエンジニアリング)の教育は大切だ。現場の医師や看護師の業務を通じて様々なことを学ぶことが多い。現場で顧客の課題を聴き、それを解消する。日々それの繰り返しだ。ディスカッションを通じて知識を習得することが多い。
佐藤 どのように顧客のニーズを探っているのか。
外尾 SEとして医療分野の知識習得は絶対不可欠だ。医療の場合、言語が標準化されていないことも多い。病院ごとに違った言い回しがある。たとえば病棟にバイタルをグラフにした経過表がある。これも病院によって、検温表、フローシートなど異なる呼び名がある。こういうバリエーションをひとつ一つ学ぶことが大切だ。
そのほか、顧客ニーズという点では日本医療情報学会など専門学会に参加して知識を深めている。私も30年のキャリアだが、とにかく現場で学ぶことが多い。初期は医事システムを担当していたが、当時は一日中、病院の医事課に常駐させてもらい、職員の仕事を覚え、病院の課題を見ながらシステム開発を行ってきた。
佐藤 製薬会社のMRよりも、NECのSEのほうが医事会計や検査システムなど院内フローを熟知している。MRは医師に処方を依頼すれば薬が患者に投与されるものだと思っている。これからの地域医療連携を考える上で、実はこれが課題だと認識している。どうやったら処方され、患者に投与されるかの細かいディテールを知ることが大切だ。これに対し、電子カルテの提供企業には医療に対するナレッジがある。そこの意識について語っていただけますか?
田中 過去の経緯から、院内情報システムは会計業務を電子化した医事会計システムや、依頼伝票を電子化したオーダリングシステムに代表されるように、紙媒体で行われていた業務を電子化するということに主眼が置かれていた。しかし、電子カルテシステムの普及が進む中で「ひとの思考・業務の流れ」といったものをより意識したシステム化に取り組んでいる。佐藤さんが述べたように、誰が、いつ、どこで、何をすると、患者が薬を飲むに至るのかといった、細かいディティールを把握することで、医療ミスにつながりかねないポイントを洗い出したり、よりストレスのない操作性の実現や、適切なタイミングでの情報提供・アラームなどが行えるシステムへ進化させることを目指している。システムをより良いものにするために、ユーザー会を開催しているが、実際に業務を行う医療従事者の方と定期的に意見交換し、ノウハウの共有を図ることが大切だと考えている。
外尾 過去は院内の閉じられたネットワークだけ考えればよかった。ところが、地域連携というキーワードが出てくるにつれ、基幹病院と外部の複数施設とをシステムでつなぐことが求められる。そこで重要なのは情報のセキュリティーだ。他業種に比べ、患者情報のセキュリティーは厳しく問われている。この点で医療は他業種と違うものだと感じている。
医療者によるユーザー会でニーズ把握
佐藤 ユーザー会とはどのようなものですか。
外尾 我々は電子カルテを顧客のニーズに応じてパッケージ化し、病院に導入してきた。パッケージを作るためには、現場の意見をいかに取り入れるかが重要になる。しかし、個別病院の話ばかり聞くと個別の要求に偏ってしまう。そうすると電子カルテに求められるパッケージシステムが成り立たない。このため電子カルテに携わる顧客が自分たちのシステムをもっと良くしたいという意識を持って頂く目的でユーザー会を開催するようになった。
佐藤 どのくらいの頻度で開催しているのですか?
外尾 年間5回程度、北海道から九州まで全国各地で開催し、当該地域の医療者に参加を求めている。そのうえでユーザー会から「こんなところを改善して欲しい」、「こう改善したらどうか」という提言書を年1回頂いている。ユーザー会を発足してから5年を経過したが、ここでの提言がシステム開発に大いに役立っている。
佐藤 これはすごい。提言書は誰がまとめるのか?
外尾 我々はユーザー会において事務局的な役割に徹している。提言書は、ユーザー会の役員の先生方にまとめて頂いている。ユーザー会は医師や看護師、検査技師、医療情報部門の関係者など様々な職種の方で構成されている。当初は20施設ぐらいからスタートし、現在は全国100施設程度まで拡大した。1回あたりの参加者は30施設前後だ。
佐藤 これにより創造もできなかった機能が追加された事例もあるのですか?
外尾 ユーザー会からの提言は現場レベルの細かいものが多い。最初は医療従事者の業務の利便性などだったが、議論を重ねることで、かなり深い部分の改善を図れるようになってきた。時代も変わり、最近はジェネリック(GE)への切り替えについてのシステムをどうするかなどが提言された。マスターに先発品を登録しているが、医師が普通に操作すると先発品が表示されるが、ここをGEに切り替えるような「ガイド」を促すようなシステムの提言もいただいた。
佐藤 新薬の情報はどのようになっていますか。
外尾 多くの医師は医療ポータルで新しい情報を確認するが、そこで見過ごした場合であっても、医師が処方する際に画面上にガイドを出すなどについての提言も頂いている。
佐藤 その意味ではナレッジマネージメントが重要になりそうですね。
外尾 そうですね。医療ポータルは医事会計や検査システムにもつなっがている。それぞれのシステムに個別にログインするのでなく、まず医療ポータルに1Passでシングルサインオンできるようなシステム改良を行った。
佐藤 その中には薬剤データベースもあるのですか。
外尾 すでにシステムに組み込まれている。我々は薬剤情報のマスターを提供できる。確かに病院側のニーズが高まっている。その背景には入院患者の持参薬問題があるためだ。持参薬をめぐっては、過去は面倒な手続きが求められた。最近は持参薬をマスターで照合し、運用している。マスターはデーターインデックスのDIRを使用している。
田中 ちなみに弊社が提供しているID-Linkでは、マスターの配信、更新、登録について、JAPICのデータセンターとつなぎ、更新されたデータが使用できるようになっている。利用者からすると登録や更新の手間が省ける。常に最新情報を利用できるというわけだ。今後は、院内のマスターに外部からリアルタイムな情報を入れていくようなシステム開発が求められると考えている。
一方、医療ポータルについては、多くの情報を掲載しているが、医療者がどこまで見るのかという課題がある。見ない人もいる。そこで考えなければいけないのは、例えば薬剤を処方するときに、「GEがある」、「新薬が採用されている」という情報を“ここぞ”という場面でメッセージを表示させることだ。
外尾 そのタイミングがものすごく難しい。過剰なメッセージは要らない、邪魔だといわれるが、足りないとインシデントにもつながる。ほどよいタイミングについて、ユーザー会の意見などを聴きながら改良を加えていきたい。
田中 地域医療連携の仕事を手掛けてみて分かったことだが、最近は病院長と会う機会が格段に増えた。経営に携わる人から呼ばれることが多い。院長からは医療政策の方向性やマイナンバーの行方などを質問される。ここで感じるのは経営問題だ。その点でいえば、製薬企業と組んで、病院経営についてプラスのアプローチができるのであれば、そこはコラボしてもいいのではないかと思う。
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