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格闘技・世界最強であったヒクソン・グレイシーの強さの秘密

公開日時 2014/02/14 00:00

イーピーエス株式会社
榎戸 誠

【世界最強の男】

かつて、ヒクソン・グレイシーという、格闘技で文字どおり世界最強の男がいた。アマチュア時代を含め400回以上戦って無敗という宮本武蔵のような人物だが、日本人柔道家・前田光世の教えを受けたヒクソンの伯父カルロス・グレイシーが創始したグレイシー柔術を究めた人物である。彼は、その強さで知られていたグレイシー一族のグレイシー柔術を超える、いわばヒクソン・グレイシー柔術の技術体系を完成させたのである。

 

心との戦い方』(ヒクソン・グレイシー著、沢田啓明取材・訳、新潮社)には、
彼の強さを示す、こういう一節がある。「(私と)2度戦って2度ともあっさりギブアップした高田延彦にしても、少なくとも勝とうと思ってリングに上がったはずだ。高田は、技術と精神力がお粗末だったから、勝てなかっただけのことだ」。「彼(高田)は、私より体が大きく、パワーがある。打撃技もうまい。しかし、長年、プロレスをしていて、『ショー』をすることに慣れきっていた。リアル・ファイトは、ショーとはまったくの別物だ。何が起きるかわからないから、試合前に受けるプレッシャーがまるで違う。試合中も何が起きるかわからないから、とっさに起きたことへの対応力が必要だ。しかし、長年プロレスをやってきた男に、このような能力があるはずがない。高田に、格闘家としての素質がなかったわけではないだろう。しかし、リアル・ファイトの経験が乏しいのが、彼の致命的な問題だったと思う。高田は、日本のプロレス・ファンの間では、非常に人気があった。その男に2度も勝ったことで、私に対する評価がさらに高まった。その点については、彼に感謝している」と、皮肉を利かせている。

それにしても、何度も計画が持ち上がったのに遂に実現せずに終わったエメリヤーエンコ・ヒョードル対ヒクソンの試合を見たかったなあ。

 

【強さの秘密】

格闘技の選手でない私たちも、ヒクソンの圧倒的な強さを生み出した秘密から学べることが多い。

超一流の要件とは、何か。「長年、地道なトレーニングを積んで鍛え上げてきた。しかし、私が『一流』のレベルにとどまらず、『超一流』の格闘家になることができたのは、メンタル面の強さによるところが大きいと考えている。具体的に言えば、それは『感情をコントロールする能力』であり、また『プレッシャーに打ち克つ能力』である。私は、自分自身が冷静さ、集中力、メンタル・シャープネスを保つことによって、適切なタイミングで、適切な判断を下すことができると思っている」。

「人生を通じて、われわれは多種多様なプレッシャーにさらされている。しかし、これらのプレッシャーに対し、頭を使って、賢明に対処することによって、困難な状況を何とか乗り越えることができる」というのだ。

「何かの問題に直面した場合、『これは絶対に解決できない』と考えたら、必ずその通りになる。なぜなら、その問題を本気で解決しようとはしなくなってしまうからだ。しかし、その反対に『必ず解決できるはずだ』と信じて死力を尽くしたとしたら、極めて困難な問題であっても、それは解決可能かもしれない」。すなわち、考え方一つで未来は変わるというのである。

ヒクソンは、「自分の知恵の限りを尽くして準備を行ない、敗れる可能性があることを自覚しながら、しかしあくまでも勝利を信じて、貪欲に戦い続けた」のである。

 

【感情をコントロールする方法】

それでは、感情をいかにコントロールするのか。「ネガティブな緊張を感じた場合、私は自分自身をリラックスさせて、内面の平穏を得ようとする。そのためには、身体的、メンタル的に種々の方法がある。具体的には、音楽を聞いたり、風呂に入ったり、ヨガをしたり、瞑想を行なったりすることが挙げられる」。また、彼は、特殊な呼吸法によって、意図的に2分以内に脈拍数を1分間60以下に下げ、先ずは肉体的な平静を取り戻し、そして心理的にも平静を取り戻すようにしている。そして、2分以内に通常の脈拍数に戻すこともできるというのだ。

 

【情熱、そして戦略】

「もしあなたが現在の状況から抜け出したいと思ったら、まず自分が抱える問題、自分の欠点、自分の弱さを認めることから始めねばならない。これらすべてを冷静になって見つめた上で、初めて具体的な解決方法を考えることができる。多くの人が、自分の問題を解決する以前に、自分が問題を抱えていること自体を認めようとしない。気づかないのかもしれないし、気づいてはいるのだが、それを認めるのが怖いのかもしれない。我々は、自分自身を冷徹な眼で見つめ、課題を直視するだけの賢さと勇気を持たなければならない」。

「仕事であろうと、スポーツであろうと、あるいは人間関係を改善することであろうと、何か行動を起こすためには、『強い感情』が必要となる。どうしてもこれをやりたい、やり遂げたい・・・そう思うことが大切だ」。その際、先ずは「情熱」、続いて「戦略」を持てと強調している。「良い戦略を練り上げるには、いくつかの定石がある。まず、目的を達成するために、大切ないくつかのポイントを見定めなければならない。そして、これらのポイントを押さえるために、必要な作業を考えてゆく。これは、仕事であろうとスポーツであろうと、ほぼ同様である」。

「人生は、決して容易ではない。誰の人生にも、必ず幾多の障害が立ちはだかる。しかし、障害を前にして足踏みしていたら、いつまでたっても前へ進めない。これらの障害に勇気を持って立ち向かい、苦しみながらも乗り越え、その一方で、これらの障害を、自分が成長するための糧として利用しながら、自分が定めた目標に向かって、一歩ずつ進んでゆかなければならない。その場合には、ポジティブな考え方が、大きな援軍となる。大きな困難に直面して、ひどく苦しむことがあるだろう。しかし、それで自分が命を取られるのでなければ、長い目で見れば、そのようなつらい経験も、自分の肥やしとなるばすだ」。一芸を究めた人物の言葉には、強い説得力が籠もっている。

 

【真の幸福とは】

幸福についても、語っている。「『自分が好きなことや、興味を持てることを見つけ、それに習熟することによって幸福を感じる』という真理は、誰にでもあてはまる」。「人生で本当に大切なものは、お金では買えない。健康しかり。モチベーションしかり、知性しかり、愛情しかり・・・」。「収入が減ったら、支出を減らせばいい。自分が生まれ変わることの喜びは、お金では買えない」。ヒクソンの幸福論に、全く同感である。

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