ACCOAST 新規抗血小板薬・プラスグレル 非ST上昇型心筋梗塞PCI施行患者へのpretreatmentの有効性示せず
公開日時 2013/09/13 05:00
非ST上昇型急性冠症候群(NSTE-ACS)において、アンギオグラフィー前にプラスグレルを用いて抗血小板療法を行う”pretreatment”は、通常の治療と比べ、虚血性イベントの発症を抑制せず、出血リスクを増大することが分かった。同剤の国際共同臨床第3相試験「ACCOAST(A Comparison of Prasugrel at the Time of Percutaneous Coronary Intervention or as Pre-treatment At the Time of Diagnosis in Patients with Non-ST-Elevation Myocardial Infarction)」の結果から示された。9月1日に開かれた「Hot Line II: Late Breaking Trials on Intervention and devices」で、同研究グループを代表してフランス・Gilles Montalescot氏が報告した。
NSTE-ACS患者において、ステント血栓症抑制の観点からも、アスピリンとクロピドグレルなどP2Y12受容体拮抗薬との併用は有効とされている。欧州心臓病学会(ESC)のガイドラインでも、非ST上昇型急性冠症候群において、アスピリンとP2Y12受容体拮抗薬の併用を推奨。「P2Y12受容体拮抗薬は、可能な限り早く投与する」(ClassⅠ、エビデンスレベル:A)としており、一般的に冠動脈の血管造影検査(アンギオグラフィ-)の前に行う”pretreatment(前治療)”が行われている。投与薬剤としては、クロピドグレル600mgとチカグレロルがClassⅠ、エビデンスレベルBで推奨されている。一方で、メタ解析の結果からはpretreatmentの有無とPCI施行前の抗血小板療法と死亡との有意な関連が認められないことも報告されており、P2Y12受容体拮抗薬の最適な投与タイミングは十分に分かっていないのが現状だ。
試験は、アンギオグラフィー前後にそれぞれプラスグレルを投与する群(以下、pretreatment群)アンギオグラフィー後PCI施行前のみに投与を行う群(以下、非pretreatment群)の2群に分け、有効性・安全性を比較する目的で、ランダム化、二重盲検下で実施された。
対象は、トロポニン値の1.5倍の上昇が確認され、試験登録48時間前以内にNSTEMIと診断された患者で、アンギオグラフィーとPCIの施行がランダム化から2~24時間以内に予定されていることとした。ランダム化から48時間以上遅れた患者は除外した。なお、2012年11月に、データ安全性モニタリング委員会がプラスグレルによるpretreatmentが大出血と関連し、心血管イベントの発生抑制効果が認められないことから、試験の早期中止が勧告した。
日本を除く欧州、カナダ19カ国171施設から登録された4033例をpretreatment群2037例、非pretreatment群1996例の2群に分け、治療効果を比較した。pretreatment群では、アンギオグラフィー前にプラスグレル30mgを投与、終了後PCI前にさらに30mgを投与した。一方、非pretreatment群では、アンギオグラフィー前にプラセボを投与し、アンギオグラフィー後PCI施行前にプラスグレル60mgを投与した。主要評価項目は、7日後の心血管死+心筋梗塞+脳卒中+緊急血行再建術の施行+GPⅡb/Ⅲa受容体阻害剤による救済治療の実施とした。
患者背景は、年齢がpretreatment群64歳、非pretreatment群64歳、女性が27.1%(552例)、28.0%(558例)、体重が82kg、82kg、虚血性イベント発症予測スコアである、GRACEスコア<140が75.8%(1503例/1984例)、78.4%(1526例/1947例)、CRUSADE sスコア中央値が34.0、34.0、発症から最初のloadingまでの時間(中央値)は14.6時間、15.2時間、手技は大腿動脈アクセス(femoral)が57%、57%、橈骨動脈アクセス(radial)が43%、43%だった。
◎サブグループ解析でも一貫した傾向示す 出血リスクは増加
主要評価項目の発生率は、pretreatment群10.0%(203例)、非pretreatment群9.8%(195例)で、有意差は認められなかった(ハザード比(HR):1.02、95%CI:0.84-1.25、p=0.81)。30日後でも、pretreatment群10.8%(219例)、非pretreatment群10.8%(216例)で、同様に有意差を認めなかった(HR:0.997、95%CI:0.83-1.20、p=0.98)。この傾向は、高リスク症例、高齢者、糖尿病合併患者など、いずれのサブグループ解析でも一貫して認められた。
一方、安全性については、冠動脈バイパス術(CABG)との関連の有無によらないTIMI基準による大出血は、7日後のpretreatment群2.6%(52例)、非pretreatment群1.4%(27例)で、pretreatment群で有意に増加した(HR:1.90、95%CI:1.19-3.02、p=0.006)。CABGによらないTIMI基準による大出血も、pretreatment群1.33%(27例)、非pretreatment群0.45%(9例)で、有意にpretreatment群で増加していた(HR:2.95、95%CI:1.39-6.28、p=0.003)。このうち、致死性出血は、pretreatment群で1例(0.05%)報告された。生命を脅かす出血も、0.8%(17例)、0.2%(3例)で、有意にpretreatment群で多い結果となった(HR:5.56、1.63-19.0、p=0.002)。出血部位は、血管穿刺部が0.4%(9例)、0.1%(2例)、消化管出血が0.2%(4例)、0.2%(3例)、心膜内出血が0.2%(4例)、0.1%(2例)。そのほか、血尿がpretreatment群で1例報告された。
30日後でも、CABG)との関連の有無によらないTIMI基準による大出血は、pretreatment群2.8%(58例)、非pretreatment群1.5%(29例)で、同様にpretreatment群で有意に増加していた(HR:1.97、95%CI:1.26-3.08、p=0.002)。
Montalescot氏は、「NSTE-ACS患者において、登録から48時間以内のプラスグレルのpretreatmentを用いた積極的な治療は、30日後までの虚血性イベントの発生を抑制できず、大出血による合併症を増加させた」と説明。「pretreatmentで良好なリスク/ベネフィットを示したサブグループはなかった」と指摘した。
◎低リスク患者多く含まれた影響も
Discussantとして登壇した、Marco Roffi氏は、有効性が発揮できなかった背景として、患者集団が低リスク患者が多く含まれていたことを指摘。PCIを施行患者は、試験デザインの段階では80%と推定されていたが、実際には69%にとどまっていたと指摘。薬物療法のみによる保存療法が1/4に実施されており、pretreatmentの必要性のない患者が多く含まれていたとした。
Roffi氏は、海外では同様の試験が、チカグレロルでも進行中で、早ければ来年にも結果が明らかになることも説明し、今後ベストストラテジー構築に向けたエビデンス構築に期待感を示した。
そのほか、登壇者からは、「pretreatmentを必要ないとポジティブに解釈することができないか」との声もあがった。