PRAMI ST上昇型急性心筋梗塞 責任血管以外の予防的PCI施行で心血管リスクを65%低下
公開日時 2013/09/03 13:30
ST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)患者において、梗塞の原因である責任血管以外の狭窄への予防的なPCI施行は、責任血管のみへのPCIを施行に比べ、心血管イベントの発生リスクを65%低下させることが分かった。イギリス5カ所の循環器センターで実施された無作為化単盲検試験「PRAMI(Preventive Angioplasty in Mycardial Infarction Trial)」の結果から分かった。8月31日からオランダ・アムステルダムで開催されている欧州心臓病学会(ESC)2013の9月1日に開催されたセッション「Hot Line II:Late Breaking Trials on Intervention and Devices」で、イギリス・Wolfson Institute of Preventive MedicineのDavid Wald氏が報告した。
STEMI患者において、責任血管に対し、PCIを施行することによる予後改善効果は示されている。一方で、血管造影検査(アンギオグラフィー)時に、責任血管以外の冠動脈に大きな狭窄が見つかることがあることも報告されているが、予防的なPCI施行の有効性は明確になっていない。
試験は、責任血管以外の予防的PCIの施行により、心臓死、非致死性心筋梗塞、難治性狭心症の発生リスクを抑制できるか検討する目的で実施された。対象は、STEMIで、責任血管におけるPCIが成功し、1カ所以上の非責任冠動脈に50%を上回る狭窄が見つかった多枝病変患者。冠動脈バイパス術治療歴や心原性ショック、慢性完全閉塞、左主幹部に50%を上回る狭窄がある症例は除外した。カテーテル検査室にいる間に、引き続き予防的PCIを施行する群(以下、予防的PCI施行群)234例、施行しない群(以下、非施行群)231例に無作為に割り付け、治療を実施した。主要評価項目は、心臓死+非致死性心筋梗塞+薬物療法中にもかかわらず、虚血が認められる難治性狭心症の発生。目標症例は600例と設定されていたが、中間解析の結果から、予防的PCI施行群で有意な有効性が認められたことから、2013年1月24日にデータ安全性モニタリング委員会から早期中止が勧告された。解析対象は、2008年4月~13年1月までに登録された465例。平均追跡期間は、23か月間で、追跡期間が1年以上67%、2年以上46%だった。
患者背景は、平均年齢が予防的PCI施行群62歳、非施行群62歳、糖尿病の合併率は15%、21%、心筋梗塞または脳卒中既往が12%、10%、三枝病変が39%、33%だった。薬剤溶出性ステント(DES)の留置は63%、58%、GP IIb/IIIa阻害薬またはビバリルジンの投与は79%、78%、橈骨動脈アプローチによるステント留置は80%、84%で、2群間に大きな差は認められなかった。2群間にランダム化後に実施された薬物療法は、アスピリンが100%、クロピドグレル、プラスグレル、チカグレロルのP2Y12受容体阻害薬も100%実施されていた。スタチンは予防的PCI施行群95%、非施行群97%、β遮断薬は88%、92%、ACE阻害薬/ARBは93%、91%で、群間差は認められなかった。PCI施行時間は、予防的PCI施行群63分、非施行群45分で、予防的PCI施行群で延長ししていた。放射線の照射量は予防的PCI施行群90Gy㎠、非施行群71Gy㎠で、27%増量していた。
◎予防的PCI 周術期合併症も通常PCIと有意差なく
解析の結果、主要評価項目は、予防的PCI施行群21例、非施行群53例で、予防的PCI施行群で有意に65%抑制した(ハザード比(HR):0.35、95% CI: 0.21 – 0.58、p<0.001)。難治性狭心症を除く、心臓死または非致死性心筋梗塞の発生は予防的PCI施行群11例、非施行群27例で、予防的PCI施行群でリスクを64%有意に抑制した(HR:0.36、95% CI: 0.18 – 0.73、p=0.004)。
再灌流が再度必要となった症例も、予防的PCI施行群16例、非施行群が46例で、予防的PCI施行群で有意に70%抑制した(HR 0.30、95% CI: 0.17 – 0.52、p<0.001)。
周術期合併症は、予防的PCI施行群で10例(脳卒中:2例、輸血または手術が必要な出:7例、人工透析を必要とする造影剤腎症:1例)、非施行群では9例(脳卒中:0例、輸血または手術が必要な出血:6例、人工透析を必要とする造影剤腎症:3例)で、両群間に差はみたれなかった。
現行の欧州心臓病学会(ESC)、米国心臓協会(AHA)のガイドラインでは、多枝病変を有するSTEMI患者における予防的PCIの施行は、エビデンスが十分構築されていないため、責任病変のみへのPCI施行が推奨されている。Wald氏は、今回の試験結果から、「予防的PCIを同時に施行することで、心臓死または非致死性心筋梗塞、難治性狭心症のリスクは65%、心臓死または非致死的MIのリスクは64%低下しており、十分な有効性が示された」と同試験の意義を強調した。
◎Dangas氏「分岐のない症例などが多かった可能性も」
米・Mount Sinai HospitalのGeorge Dangas氏は、喫煙や糖尿病、多枝疾患など高リスク症例が多く含まれていると同試験の対象患者についてコメント。その中で、確かな有効性が示されたことを評価した。Dangas氏は、有効性が得られた理由として、予防的PCI施行の対象となった症例の病変が分岐がなく、留置しやすい症例が多く含まれていた可能性があると指摘した。一方で、責任血管のみにPCIを施行した群でイベント発生率が27%と、通常より高かった理由や、評価項目の1つである心臓死の発生率や、全死亡、ステント血栓症、出血についての詳細なデータを知りたいと述べた。
これに対しWald氏は、「重篤な出血例が13例だったが2群間で有意差はなく、従来の試験で得られた発生率の範囲内だった」と回答した。そのほか、ステント血栓症の発生率も両群ともに約1%で有意差はなかったと回答した。心臓死は単独評価項目として唯一、予防的PCIの効果について有意差が認められなかったが、「症例数が少ないことを考慮するべき」とした。
そのほか、同試験は観察期間が約2年間であることから、長期の追跡の必要性を指摘する声も聞かれた。