World Topics 検査・治療の放射線被曝量を記録する
公開日時 2013/06/03 05:00
病院チェーンのIntermountain Healthcare(本拠はソルトレークシティ、22病院に185のクリニックを有する)がアメリカ医療業界初のサービスを開始すると話題になっている。CT等の検査から患者が受ける放射線被曝量を、年間およそ22万人にのぼる患者全員について測定・記録し、個々の患者の診療記録に記載して医師・患者にレポートするというサービスだ。(医療ジャーナリスト 西村由美子)
http://online.wsj.com/article/SB10001424127887324767004578489413973896412.html
Intermountain Healthcareが被曝量記録サービスを導入する目的は、医師・患者双方に放射線治療・検査の意義とリスクをあらためて啓発することで、従来ともするとベネフィットばかりが強調されがちであった放射線検査・治療のリスクについての認識を高めることにあるという。システムの導入により、今後は、医師も患者も記録・表示されたデータの数値を確認しつつ、検査や治療の方針を決定できるようにするという。
だが、問題は「どこまで被曝しても安全か?」の基準が明確でないことだ。専門家に聞いても、たいてい「診断や治療のためにその放射線検査・治療が絶対に必要かどうかをよく確認して受けるべきで、不必要な被曝は避けるように」という一般的な回答が返ってくる。だが、必要性の有無の判断が、またむずかしい。ある検査の結果がネガティブだったとしても,だからといってその検査が不要だったとは言えないからだ。
先頃JAMAに発表された研究によれば、CTスキャンを受けている患者の35%は検査に伴うリスクを理解しておらず、38%はそもそもCTスキャンを受けるべきかどうかの決定権は(患者でなく)医師にあると思い込んでいるという。患者に意思決定を委ねればよいとも単純には言いきれない。
http://www.advisory.com/Daily-Briefing/2013/03/19/Two-thirds-of-patients-are-not-told-imaging-risks-before-a-CT-scan
だが、データを記録・解析・開示するのは時代のトレンドである。ウォールストリートジャーナル紙によれば、NIHも今後は患者の被曝量記録を診療記録に載せて行く方針だと言う。このようにして被曝量記録システムが普及し、より多くの患者の個別被曝量の記録が蓄積され、長いコーホートで観察可能になれば、発癌リスクなどに関する精緻な検討が可能になり、実証研究にもとづく安全基準の設定が可能になる日も遠くないかもしれない。