【ASCO特別版】ルミナル型乳がんを特性化する全ゲノム配列研究で、ER陽性乳がんの臨床表現型に影響を与える多変異遺伝子を特定
公開日時 2012/06/06 05:00
ER陽性乳がんの臨床所見と遺伝子変異を関連付ける目的で、術前AI療法を受けた患者の腫瘍(AI感受性、AI抵抗性)と標準DNAのペアに、次世代シーケンサ(NGS)を用いて全ゲノム解析したところ、ER陽性乳がんの臨床表現型に影響を与える多変異の遺伝子が特定された。米国Washington University Medical CenterのMatthew James Ellis氏が、6月1日から開幕した米国臨床腫瘍学会(ASCO2012)のオーラルセッションで、3日発表した。
内分泌療法抵抗性のER陽性乳がんは、乳がんの中でも最大の死亡原因であるにもかかわらず、可変的な療法反応の根本的な遺伝的決定因子や、臨床所見の多様性については、依然、解明されていない。一方、術前内分泌療法の臨床試験ではAI剤への様々な反応が分析できる上、ゲノム内容が含まれたサンプルを容易に入手できるため、エストロゲン欠乏に対する各患者の反応を観察することができる。
同研究では、16~18週間、術前でレトロゾール単剤の治療を受け、手術結果が改善したII~III期のER陽性患者(POL:多施設第2相試験)と、16~18週間レトロゾールとアナストロゾール、エキセメスタンの3剤を比較検討した試験の、II~III期の閉経後ER陽性患者(ACOSOG Z1031:無作為第2相試験)の腫瘍サンプルを分析した。
ベースラインのサンプルは術前に2回生検して採取したものを、コアを凍結して腫瘍と標準gDNAを分析した。術中に切除したサンプルは、Ki67>10%(29例、中央値21%:10.3%‐80%)のものと、Ki67<10%(48例、中央値1.2%:1%‐8%)に分類し解析した。
その結果、46例のゲノムで81585ポイントの変異と欠失多型と、773個の構造変異が認められ、各ゲノムで平均1780個の変異が確認できた。AI抵抗性の腫瘍は感受性の腫瘍と比べ、変異数が2倍であり(p=0.02)、構造変異も数が多い傾向にあった(抵抗性:~22、感受性:~12、p=0.08)。またバイオインフォマティックス分析では、AI抵抗性腫瘍の一貫した特性として、多数の機能的ハブ拠点を検出した。
遺伝子変異で誘発されるシグナル伝達摂動と、術前AI療法への反応との相互作用を評価したところ、18の遺伝子が有意に変異した。PIK3CA変異以外は、大半にMAP3K1から変異した腫瘍抑制遺伝子中の機能喪失型変異(突然変異、コピー数変化、再配列などの不均一)が見られ、5つの遺伝子(RUNX1, CFBP, MYH9, MLL3, SF3B1)は良性・悪性の造血疾患や白血病との関連性が既に認められている。臨床相関では、TP53変異がルミナルB(変異頻度21.5%)、高組織学的グレード、高増殖速度と関連性があることが判明した一方で、MAP3K1は機能喪失型変異とルミナルA(変異頻度20.0%)、低組織学的グレード、低増殖速度と関連することも分かった。
これらの結果から、ルミナル型乳がんの細胞不均一性は特定型の細胞変異が原因であることの理解が深まり、ER陽性乳がんの臨床表現型に影響を与える多変異の遺伝子が特定できた。しかし、創薬標的に値する変異はほとんど見つからなったことから、研究グループは、臨床試験を行う場合、包括的なゲノム配列を用いた研究方法と広範囲な調査が必要だと結論した。
一定の抗癌療法を検討した臨床試験でNGS(次世代シーケンサ)を実施した研究は、乳がん領域では初めてのものである。