心不全合併冠動脈疾患患者に対し、標準療法である薬物療法に加え、冠動脈バイパス術(CABG)を施行することで、総死亡の低下はみられないものの、心血管死、死亡+冠動脈疾患による入院は有意に低下させることが分かった。「STICH(Surgical Treatment for Ischemic Heart Failure)」試験の解析結果から分かった。米国ニューオリンズで開催されている第60回米国心臓病学会議で、4月4日に開かれた「Late-Breaking Clinical Trials」セッションで、Eric J.Velazquez氏が報告した。(4月4日 米国・ニューオリンズ発 望月英梨)
冠動脈疾患は、心不全や左室機能不全の基礎疾患として知られている。一方で、冠動脈疾患と心不全に対しては、薬物療法の有効性が報告されており、冠動脈バイパス術(CABG)の役割は確立していないのが現状だ。
試験登録前3カ月以内の左室駆出率(LVEF)≦0.35で、CABGの適応となる冠動脈疾患患者1212例を対象に、①薬物療法治療群602例②薬物療法+CABG施行群(以下、CABG施行群)610例――の2群にランダムに割り付け、有効性を比較した。主要評価項目は、総死亡。登録期間は、2002年7月~07年5月までで、22カ国、99施設から登録された。追跡期間は、56カ月。
その結果、主要評価項目である総死亡は、薬物療法群で41%(244例)、CABG施行群では36%(218例)で有意差はみられなかった(ハザード比:0.86、95%CI:0.72~1.04、P値=0.12、調整ハザード比:0.82[0.68~0.99]、調整P値=0.039)。
ただし、心血管死(調整ハザード比:0.77[0.62~0.94]、調整P値=0.012)、死亡+冠動脈疾患による入院(調整ハザード比:0.70[0.61~0.81]、調整P値<0.001)は、CABG施行群で有意に低い発生率だった。時間経過をみると、30日間以内は薬物療法群で良好な治療成績だった一方で、30日を越えるとCABG施行群で良好な傾向を示し、2年間以上では有意差を示した(P値=0.004)。CABG施行群の施行早期のリスクが浮かび上がる結果となった。
割りつけられた治療を行わなかった症例が薬物療法群で17%、CABG施行群で9%含まれていたことから、実際の治療に応じて(薬物療法群:592例、CABG施行群:620例)CABG施行群で総死亡が有意に低い結果となった(ハザード比:0.70[0.58~0.84]、P値<0.001)。
プロトコール遵守した症例(薬物治療群:537例、CABG群:555例)を対象に行ったPer Protocol解析でも同様に、CABG施行群で有意に総死亡が低い結果となった(ハザード比:0.76[0.62~0.92]、P値=0.005)。
結果を報告したVelazquez氏は、「調整オッズ比や、実際の治療に応じた解析、Per Protocol解析の結果は、参考になるが、暫定的なもの」と指摘。加えて、同試験が非盲検下で行われていることなど、試験に限界があるとした。
その上で、薬物療法については、総死亡率の低さから有効性を強調し、「心不全を合併する冠動脈疾患すべての患者に薬物療法を行うことが最適だと考えられる」とした。その上で、CABGの施行については、「長期間のベネフィットと短期間のリスクを勘案して個別化した上で、治療を決定すること」とした。同試験は、さらに10年間の追跡を目指した「STICH Extension」試験を現在進行中であることも報告した。
◎心筋生存性 CABG施行の指標にはならず
そのほか、同試験の異なる解析も同日のLate-Brealing Clinical Trialsで報告された。
解析は、心筋生存性を測定した601例(薬物療法群:298例、CABG群:487例)を対象に実施。心筋生存性のある人の死亡率が、37%(178例/487例)だったのに対し、ない人では51%(58例/114例)で、心筋生存性と死亡率に有意差がみられた(ハザード比:0.64[0.48~0.86、P値=0.003]。ただし、ベースラインデータを調整したところ、有意差はみられなかった(P値=0.21)。また、心筋生存性の有無に分け、薬物療法群とCABG施行群の死亡率を検討したが、差はみられなかった。
そのため、結果を報告したRobert O.Bonow氏は「心筋生存性の測定により、CABGを施行することで、生存ベネフィットを享受する患者を特定することはできない」と結論付けた。
同試験の2つの解析結果は、同日付の「The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE」のOnline版に掲載された。