患者の特性踏まえた治療薬の選択を
公開日時 2011/01/27 04:00
長崎大学 脳神経外科学教授 永田泉氏に聞く
脳卒中の急性期治療としては、血栓溶解療法、抗凝固療法、抗血小板療法、脳保護薬、脳浮腫管理、開頭外減圧療法などがあります。ただ、急性期は臨床試験がほとんど実施されておらず、ガイドライン(GL)の推奨の根拠となるエビデンスが十分にないのが現状です。
そのため、患者さんの状況を考慮し、個別化治療を行うことが重要だと思います。まず、発症後3時間以内の超急性期では、t-PA(アルテプラーゼ)が用いられるようになり、治療も変わってきました。
t-PAを投与すると、治療後24時間以内は、抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)の投与が禁止されています。ただ、実臨床では、抗血小板薬の投与を考慮しなければいけないケースも少なくないですから、症例に応じた判断が求められるところです。
◎急性期治療 頚動脈狭窄患者では2剤併用も
急性期の抗血小板療法は、日本も欧米も、ガイドラインではアスピリンの投与のみが推奨されております。
ただ、脳卒中専門医は、頚動脈狭窄がある患者など高リスク群には、2剤併用を考慮しています。また頚動脈内膜剥離術(CEA)、ステント留置術(CAS)の実施などにより、抗血小板凝集能は亢進しますから、術前ではほとんどの症例で2剤併用を行っているのが現状です。
併用期間ですが、クロピドグレルにアスピリンを併用すると、「MATCH」試験の結果から見た場合、3カ月以上経過すると、脳出血の頻度が増加していますから、長期間にわたる投与は避けた方が良いと思います。現在、発症12時間以内の患者を対象に、2剤併用の有用性を検討する「POINT」試験が進行中で、この結果も待たれるところです。
◎慢性期治療 危険因子、コスト、認容性を考慮
一方で、慢性期の治療はエビデンスも構築されています。欧米では、アスピリン、クロピドグレル、Aggrenox(アスピリン+徐放性ジピリダモール)が用いられ、有効性も示されています。
米国心臓協会(AHA)と米国脳卒中協会(ASA)合同で策定された「脳梗塞または一過性脳虚血発作(TIA)のための脳卒中予防に関するガイドライン」が医学誌「Stroke」のonline版で2010年10月21日に改訂されました。今回の改訂は、脳卒中の再発予防効果だけでなく、医療費を考慮したものとなっており、治療薬の選択に際しては、患者の危険因子、コスト、認容性を考慮することとなっています。
糖尿病を合併するなど、脳梗塞再発リスクが高い患者では、抗血小板作用がより強いクロピドグレルが、コストの面ではアスピリンが勝っていると思います。
認容性については、有害事象として、アスピリンでアスピリン喘息、Aggrenoxで約10%の患者に頭痛が発現することが知られています。クロピドグレルも頻度は少ないですが、下痢が発現するとされています。
このような点を踏まえると、比較的低リスクの患者で、経済面を考慮しなければならいない場合はアスピリン、肥満や糖尿病、脂質異常症などを合併した高リスク患者では、クロピドグレルの投与が望ましいと思います。
日本では、Aggrenoxを用いることができませんが、シロスタゾールを用いることができます。