心血管イベントの発症リスクが高い耐糖能異常患者に、ARBのバルサルタンを投与すると、糖尿病の新規発症は抑制できるものの、心血管イベントの発症を抑制することができないことが分かった。英国Oxford大糖尿病試験ユニットディレクターのRury R.Holman氏が3月14日の米国心臓学会議(ACC.10)のLate-Breaking Clinical Trialsの中で、「NAVIGATOR」試験の結果を報告し、明らかにした。(14日 米国・アトランタ発 望月英梨)
試験は、ARBのバルサルタンと経口血糖降下薬のナテグリニドの2剤の有効性を同時に検討する2×2factorialというデザインで実施された。対象は、心血管疾患のリスクがある、または既往歴がある耐糖能異常患者(IGT)で、生活習慣改善を行った上で、バルサルタンまたはナテグリニドを投与することで、糖尿病の新規発症と、心血管イベントの発症を抑制できるか検討することを目的に実施された。
40カ国、806施設で実施され、登録された9306人を、▽バルサルタン160mg/日+ナテグリニド60mg×3回/日群2316人▽ナテグリニド60mg×3回/日+プラセボ群2329人▽バルサルタン160mg/日+プラセボ群2315人▽プラセボ+プラセボ群2346人――に分け、治療効果を比較した。評価項目は、▽糖尿病の新規発症▽冠動脈疾患発症のコア複合エンドポイント(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、心不全による入院)▽冠動脈疾患発症の複合エンドポイント(上記+再環流療法、不安定狭心症による入院)――を据えた。平均追跡期間は、冠動脈疾患への影響は6.5年間、糖尿病の発症は5年間。
◎糖尿病の新規発症はバルサルタン群で14%減少
その結果、糖尿病の発症はバルサルタン群の33.1%に対し、プラセボ群は36.8%とバルサルタン群で有意に14%減少する結果となった(ハザード比:0.86(95%CI:0.80~0.92)、P値<0.001)。なお、空腹時血糖値、食後2時間血糖値についても、バルサルタン群でプラセボ群よりも有意に減少させた(P値<0.01、P値<0.001)。
一方で、冠動脈疾患のコア複合エンドポイントは、バルサルタン群で8.1%、プラセボ群で8.1%(ハザード比:0.99(95%CI:0.86~1.14)、P値=0.85)。冠動脈疾患の複合エンドポイントは、バルサルタン群で14.5%、プラセボ群で14.8%だった(ハザード比:0.96(95%CI:0.86~1.07)、P値=0.43)で、冠動脈疾患への影響をみたいずれの評価項目でも両群間に有意差はみられなかった。
有害事象については、低血圧に関連するもの、低血圧が有意にバルサルタン群で多かったほか、低カリウム血症がプラセボ群で有意に多い結果となった。
ただし、両群ともに試験中にACE阻害薬の併用を開始した症例も多い。バルサルタン群では351例(7.6%)から688例(14.9%)に、プラセボ群では325例(7.0%)から768例(16.8%)に増加している。また、心血管イベントの既往があった患者が、両群ともに2割程度しか含まれておらず、比較的心血管イベントの発症リスクが高くない患者が含まれていたこともあり、これらのことが結果に影響した可能性もある。
結果を報告したHolman氏は、「生活習慣の改善は、糖尿病予防と耐糖能異常に対する治療の第1歩として残っている」とした上で、「糖尿病を予防する上で、運動と体重管理は重要だが、より良い薬物療法を探さなければいけない」との見解を表明。「NAVIGATR試験は、治療のリスクと有効性は生物学と代替指標では予測できないということを立証した。これまでのランダム化比較試験(RCT)から経験的に立証しなければならない」と述べ、臨床試験の重要性を強調した。