欧州心臓病学会(ESC)2009が8月29日、スペイン・バルセロナで開幕した。学会2日目となる30日のHot Lineセッションでは、「RE-LY」試験の結果が報告され、非弁膜症性心房細動患者の脳卒中・全身性塞栓症の予防における有効性・安全性の両面で抗凝固薬・ダビガトランエテキシラート(以下、ダビガトラン)のワルファリンへの非劣性、さらには優位性が証明された。注目されたこの試験結果の発表会場には、立ち見が多く出るほどの聴衆が詰めかけ、抗凝固療法の新たな時代の幕開けを感じさせるものとなった。
(30日スペイン・バルセロナ発 望月英梨)
「RE-LY(Randomized Evaluation of Long term anticoagulant therapy)」試験は、非弁膜症性心房細動患者を対象に、脳卒中・全身性塞栓症の発症予防を検討する無作為化国際共同臨床第3相試験。抗凝固薬として汎用されるワルファリンへの非劣性を示すことを目的に実施された。ダビガトランは、凝固系カスケードの最終段階にある“トロンビン”を直接阻害することで効果を発揮する新たな作用機序をもった経口薬。
試験の対象は、脳卒中の中等度~高度危険因子(虚血性脳卒中、一過性脳虚血発作もしくは全身性塞栓症の既往、左室不全、年齢75歳以上、年齢65歳以上で糖尿病・冠動脈疾患の既往、または高血圧症を合併する)が1つ以上ある非弁膜症性心房細動患者1万8113人。世界44カ国で実施された。日本も試験に組み込まれており、約300人が登録されているという。
試験デザインは、▽ダビガトラン110mg1日2回(以下、低用量)投与群▽ダビガトラン150mg1日2回(以下、高用量)投与群▽ワルファリン(INR2.0-3.0)投与群――の3群について、12~36ヶ月間、治療効果と安全性をPROBE法で比較した。
主要評価項目は、脳卒中(出血性を含む)と全身性塞栓症の発症。安全性評価項目として、大出血、小出血のイベント、脳出血、肝トランスアミナーゼ、ビリルビンの上昇、肝機能障害を据えた。平均追跡期間は2年間。
■全身性塞栓症の発症率はワルファリンを優位に下回る
主要評価項目の脳卒中と全身性塞栓症の発症率は、ワルファリン投与群で1.69%/年だったのに対し、ダビガトラン低用量群で1.53%/年、ダビガトラン高用量群で1.11%/年とワルファリン投与群よりも有意に低い結果となった。ダビガトラン高用量群は、ワルファリンよりも有意に34%発症リスクを低減させ(P値<0.001)、ワルファリンへの非劣性が証明された。この結果は、試験開始時に設定されていた、ダビガトランのワルファリンへの優位性を示すマージンも満たす結果となった(P値<0.001)。
■安全性でも非劣性を証明
注目された安全性だが、重大な出血は、ダビガトラン低用量群で2.71%/年、ダビガトラン高用量群で3.11%/年で、ワルファリン投与群の3.36%/年をいずれも下回る結果となり、安全性でもワルファリンへの非劣性が証明された。中でも注目されるのが、頭蓋内出血のデータだ。ワルファリン群と比べ、相対発症リスクをダビガトラン低用量群では69%、ダビガトラン高用量群では74%といずれも有意に低減させた。
同じ作用機序の薬剤であるキシメガトランは、肝毒性が報告され、米国では承認を見送られた経緯がある。そのため、肝毒性も注目されたが、AST値やALT値の上昇はみられなかった。なお、ダビガトランで最も多い有害事象は消化不良だった。
■スチュワート・コノリー教授「優位性を示したことに疑いようはない」
試験結果を報告したマクマスター大学(カナダ/オンタリオ州ハミルトン)人口保健研究所循環器部門長で、試験の共同主任研究者であるスチュワート・コノリー教授は、「ダビガトランのワルファリンへの優位性を示したことに、疑いようはない」と試験結果を評価した。
その上で、ダビガトラン低用量では安全性が、高用量では有効性が高いと説明。出血リスクがきわめて高い患者にはダビガトランの低用量を投与するなど、2規格の用量があることで、「患者に合わせた治療を行える」可能性も示唆した。
なお、同試験の結果は同日付の「The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE」の電子版に掲載された。