ID-Link 顧客は1システム、1サーバーで接続
佐藤 では地域医療連携ネットワークサービス「ID-Link」の話に入りましょう。まず背景について聞かせてください。
外尾 NECとして地域連携ネットワークに手掛けた最初のきっかけを紹介したい。函館のメディカというネットワークに触れたことがきっかけだ。メディカは、 SECという会社が函館病院と一緒に地域医療NWを立ち上げたもの。当時、私は市立大村市民病院の「あじさいネット」に携わっていた。その時に函館の事例 を目の当たりにしたことが最初だ。これをみて“よしこれだ!”と思った。
これをきっかけに北海道と九州からID-Linkの事業へとつながっていった。初期は国の予算もなかった。あじさいネットはむしろ自分たちで運営することを前提にスタートしたのだ。
佐藤 初期段階ではどのような議論があったのですか。
外尾 もともと地域連携に対する思想があった。あじさいネットは大村市の医師会長が旗振役としてスタートした。自らこれをやりたいとして立ち上げた。基幹病院は 情報を出す側、診療所は見る側としてスタートした。まず見る側から「みたい!」という要求があった。加えて人間関係の上にシステムがあるという土壌を作る ことができた。
佐藤 病院と人との関係を良くしようとすることから始まったのか。
外尾 病院と診療所は時として敵対関係になることがある。患者を病院に送っても、返してくれないというとNWはうまくいかない。送り出して返してもらうという ルーチンがまずあって、システムはそれをサポートするだけのものとならなければいけないと思う。システムが全面にでることは無い。
佐藤 現在はどうなっていますか。
眞子 地域医療連携の運営形態としては、1つの急性期病院が情報公開施設となり連携する「個別NW型」がある。その他には、地域として自治体や医師会が中心となって複数の情報公開施設を有する「地域NW型」がある。
外尾 医師会主導型の方が恐らくうまくいっている。
田中 時系列的にいうと、早い段階で地域ネットワークが立ち上がったのは医師会が積極的に参加した地域が多い。最近では、病院の中から声があがり、地域の病院や 医師会を巻き込んでネットワーク化を進める傾向が強い。地域的側面では、長崎や北海道のような地域から広がり、ようやく東京や大阪などの都市圏にも広がり が出始めた。最近、東京都医師会が立ち上がった。複数の施設があるなかで、方向性は自分たちで示しながら、NW同士をつなぐような試みも始まっている。
佐藤 東京が遅れていた理由はあるのか。
田中 機能分化がまず難しい。地方は病院数が限られているために機能分化しやすいが、東京はそれができない。患者が医療機関を選ぶことになる。このため都市部の イメージとしては、全部のNWを全てつなぐこと考えている。その際は、ID-Linkと富士通のシステムをつなぐようなことも求められる。
佐藤 競合社がこうした形でつながることはあるのか?
外尾 電子カルテの世界では競合となるが、地域医療連携となると、やはりベンダー同士の協働というのはあり得ると思う。
田中 ID-Linkはかなりオープンにやっている。
佐藤 ID-Linkの機能について教えてください。
田中 2000年に電子カルテの普及が始まったが、Web型電子カルテはうまくいかなかった。2003年にID-Linkのプロトタイプの開発を始めた際、 Web型電子カルテのように全てのユーザが一つのシステムを利用するというものではなく、中核病院の診療情報をブラウザー上で診療所に見てもらうというこ とを軸としていた。診療情報提供書を入力する仕組みも入れていたが、入力することが負担と感じられ浸透しなかった。このため、入力を必須とするものではな く、既に電子化された情報(例:電子カルテの情報)を共有化することにフォーカスした。
また、将来的には診療所の情報も電子化され、それを共有すべきという声もあり、システム上は病院や診療所もフラットに扱うような設計とした。現在、薬局の参加が増えているが、この設計が活きている。
外尾 地域ごとに閉じた状態にしているが、実は全国すべての顧客は1システム、1サーバーでつながっている。患者を軸に日本全国がつながっているのだ。
眞子 医師にしてみても使い勝手がよいと思われる。
田中 全国でフラットなシステムになっているが、「ユニオン」という概念を使って地域ごとに枠を決めてNWを作っている。枠を決めていても、県境や医療圏の境に 住んでいる患者など、実際には患者はその枠を超えて医療機関を受診するため、事例として佐賀と久留米などでは当初設定した枠を取り払い、ID-Link上 でそれぞれの診療情報を共有化するようになってきている。
佐藤 だとすると全国と地域の情報をベンチマークできるのではないか。
田中 ID-Linkの設計や方向性はとても優れていて、連携医療における患者情報の共有はもちろん、ベンチマーク等のデータ活用に向けても既に取り組みを始めている。
製薬企業とのコラボは可能か
佐藤 たとえば自分の地域以外の情報を見て、自分の地域とベンチマークすることも可能になるのか?
外尾 最大の課題は患者同意だと思う。個人情報保護との絡みもある。どこまで匿名化ができるかは、まだ課題だ。今後は是非そのような取り組みを行いたいし、国民医療費を含めた適正化にも貢献したい。
そのほかにも製薬企業との絡みでいうと、研究開発費を削減できるようなデータを見出すことも考えたい。これによって薬価が下がるのであれば、我々もそのお手伝いもできるのではないだろうか。
佐藤 製薬企業がどうシステムにどうコミットするかが大切だ。このようなネットワークが組まれていることも知らない。まずはドアオープンにすることが求められる。
外尾 そうですね。どんな情報であれば有益になのかを製薬企業から聞きたい。サンプルデータ(500件程度)で有益なデータであるかどうかの判断ができるかも知りたい。件数さえあつまれば有効利用できるということになれば、まさに次のステップにつながるのかもしれない。
佐藤 貴重なお話しをありがとうございました。地域医療において診療情報の共有化は今後ますます注目されると思います。まさに今後の製薬ビジネスにとっても、こ こでの可能性やコラボレーションは必要不可欠になるのではないかと思います。この世界でどのようなことができるか、さらに深堀してまいりたいと思います。 本日は長時間にわたりありがとうございました。
マルチチャネル3.0研究所とは:(MC3.0研究所)
「地 域医療における製薬会社の役割の定義と活動スタイルを定義することを目的にして、製薬企業の新たなる事業モデルを構築し地域社会並びに患者や医師をはじめ とする医療関係者へのタッチポイント増大に向けたMRを中心とするマルチチャネル活用の検討と実践を行う研究機関」である。設立2015年4月主宰 佐藤 正晃