真菌感染症の疑いや発症の小児免疫機能低下患者 アムホテリシンBリポソーム製剤投与で有効率64%
公開日時 2010/12/24 04:00
第72回 日本血液学会総会
ミカファンギンを予防投与したにもかかわらず、真菌感染症の疑いや、発症した小児免疫機能低下患者に、抗真菌薬アムホテリシンBリポソーム製剤(製品名:アムビゾーム、L-AMB)を投与した際の有効率は64%を示した。横浜市で開催された第72回日本血液学会学術集会で、大阪大学医学部附属病院小児科の橋井佳子氏が9月24日、同院の治療成績から報告した。
◎真菌感染症疑いでL-AMBを早期から投与
大阪大学医学部附属病院小児科では、近年改訂された“アメリカ感染症学会(IDSA)ガイドライン”に基づき、予防投与としてミカファンギン(MCFG)を用いている。その上で、真菌症を疑った症例では、L-AMBへ切り替えを行っている(図1参照)。
橋井氏らは、L-AMBを投与した症例を対象に、同剤の有効性と安全性をレトロスペクティブ(後ろ向き)に検討した。
対象は、2006年6月~10年3月までの約5年間に、同院に入院し、L-AMBを投与した小児免疫機能低下患者14例。治療エピソードは32回。基礎疾患は血液疾患9例、固形腫瘍5例だった。
L-AMBの投与は、“Empirical therapy(経験的治療)”と“Target therapy(標的治療)”として行われている。Empirical therapyでは、抗菌薬不応性の発熱が3日以上続く場合にL-AMBの投与を開始する。一方、Target therapyは、欧州癌治療研究機構/米国真菌症研究グループ(EORTC/MSG)の診断基準に基づき、臨床症状や検査結果などから“proven”“probable”“possible”に分類した。本検討では、それぞれ予防5例8回、empiric11例16回、possible2例4回、probable1例2回、proven1例1回。
◎Empirical therapyで高い治療効果
L-AMB単剤で治療を行った結果、有効率は64%(9例/14例)。内訳をみると、Empirical therapyの有効率は70%(7例/10例)だったのに対し、Target therapyでは50%(2例/4例)であり、海外での報告と同じEmpirical therapyの方が高い有効率を示した(図2参照)。L-AMB単剤投与、L-AMBとMCFGの併用投与した患者計23エピソードでは解熱までの日数は4日(中央値)だった。
◎重篤なCr値変動なく早期のK補充で低K血症に対応
有害事象については、クレアチニン(Cr)、血清カリウム(K)、血清カルシウム(Ca)の腎機能値の悪化はいずれも半数以上で認めた。グレード3(高度)以上の有害事象は低カリウム血症61.9%(13回/21回)の頻度が最も高かったが、L-AMBの投与によるグレード3以上のCr値上昇は、1例もみられなかった。個々のCr値変動の多くは、ベースラインの1.5倍以内で、ベースラインの1.5倍を超えた症例については、L-AMBの投与を継続しながらベースラインまで回復した(図3参照)。
さらに橋井氏は、電解質について詳細に触れ、低K血症がL-AMB投与開始から8日(中央値、2~28日)で発現していると説明(図4参照)。特に、L-AMBの1日投与量が増加すると、早期に低K血症が発現するとした。
ただし、Kの補充により、L-AMB投与前値までの回復が得られていることから、「適切にKを補充すれば十分回復する」と指摘した。補充するタイミングについては、有意差はみられないものの血清K値<3.0mEqになる前の早期の段階で補充した方が、回復が早い傾向があると説明し、コントロール可能な範囲の変動であることを強調した。
橋井氏は、L-AMBの有効性を強調した上で、L-AMB単剤投与で有効性が得られなかった症例に対する治療方針として、MCFGの上乗せが有用であることも報告。MCFGと併用することで「L-AMBが低投与量であっても有効性が高められる可能性がある」と期待感をみせた。
大阪大学医学部附属病院 小児科 橋井佳子氏に聞く
低K血症 発現時期を見極めた早期対策を
アムホテリシンBリポソーム製剤は、真菌感染を疑う症例に対しては他の薬剤と比べても解熱までの時間が短くすみ、アスペルギルスにも有効であるなど、正しく使えば非常に有用性が高い薬剤だと思います。有効投与量が明確な点や投与後の血中濃度が安定していることも利点ですね。
真菌症に対する私たちの治療戦略は、MCFGを予防目的で投与します。その後、
β-グルカンの上昇や、胸部レントゲンで浸潤が見られた場合は標的治療を行う一方、それ以外で、抗菌薬を多剤併用しても解熱できなかった症例に対し、経験的治療を開始しています。いずれも、大きなポイントは真菌感染症が疑われたらMCFGからL-AMBへと早期に切り替えるということです。
懸念された腎障害ですが、Cr値上昇はほとんど問題ありません。ただ、低K血症は、L-AMB投与後1週間ぐらいで起こってくることが分かりました。そのため、低K血症の発現時期を見据えて、朝1回血清K値をモニタリングしています。血清K値が3.0mEq以下になる前に、時間あたり0.3mEq/kgのカリウムを3時間点滴で補充し、その後1.0mEq/kgのカリウムを基液(維持液)に混入して24時間で投与、維持すれば、コントロールは十分可能です。