【AHA事後解説】ROCKET-AF 解釈の糸口(その2)患者背景をめぐって
公開日時 2010/11/25 06:00
ROCKET-AFでもう1つのポイントとなったのが、患者背景の複雑さだ。同試験結果が公表された11月15日のLate-Breaking Clinical Trialsセッションでディスカッサントとして登壇したBoston大学のElaine M. Hylek氏は、「対象患者の医学的な複雑性を知らずして、この試験を理解することは不可能である」と指摘した。
Hylek氏は、心房細動(AF)における脳卒中発症抑制を検討した、「SPORTIF III/V」、「ACTIVE‐W」、「RE-LY」などの大規模臨床試験と比較して、患者背景からみた同試験の特徴を紹介した。
◎高リスク多く含む患者群対象に実施
具体的には、平均年齢(73歳)が高く、脳卒中/TIAの既往(55%)、高血圧(91%)、心不全(62%)、糖尿病(39%)の割合が高率だと説明。CHADS2スコアが3.5である「(脳卒中、塞栓症発症の)高リスク群」とした。そして、このことが重要である理由を、
▽ 脳卒中発症リスクが高い
▽ (年齢、高血圧、脳卒中既往があるため)頭蓋内出血(ICH)リスクが高い
▽ (CHADS2スコアから)大出血のリスクが高い
▽ (特に心不全患者が多いことから)INRの変動が大きく、ワルファリンの用量調節が難しいことが危惧される――と説明した。
実際、ROCKET- AFにおけるワルファリン群(対照群)の、INR至適範囲内時間(TTR)は57.8%で、Hylek氏は、「ワルファリンの効果が発現されるTTRの閾値(58~60%)を越えた患者が半数に満たなかった」と指摘した。
◎新たな選択肢登場こそが臨床現場へのインパクトに
“On Treatment”をめぐる議論では、解析方法に疑問を呈したHylek氏だったが、ROCKET-AFの結果を高く評価をしていることは、会見で記者に投げかけた言葉に表れていた。
「(優越性は示せなかったけれども)脳卒中/TIAの既往がある患者を55%も含む患者を対象として、この結果を示せたことは、驚くべきこと」――。
「(これまで頼れるヤツはワルファリン1人だった抗凝固療法領域に)やってきた “new kids on the block”(新参者)が、“ヘイ!俺だって負けちゃいないぜ!”と言っている」という比喩も印象的だった。
心房細動患者の脳卒中予防においては、これまで50年以上にわたって、ワルファリンが効果的な標準的予防薬として用いられてきた。米国では、2006年10月、ワルファリンによる大出血および致死性の出血について黒枠警告(black-box warnings)が出されている。
現在では、プロトロンビン時間国際標準比(INR)のモニタリングができないために、ワルファリンの適応となる患者であるにもかかわらず、抗血小板療法を行うケースも少なくないと聞く。
抗凝固領域の新薬として、ダビガトランに続いてリバロキサバンが登場したことは、臨床医と患者にとって、新たな選択肢がもたらされたという意味で、歓迎すべきものと言えそうだ。
(医学ライター・リポーター 中西 美荷)