国がん・吉野科長 中外の血液検体のがん遺伝子パネル検査登場で治験への結びつき増に期待
公開日時 2021/09/11 04:50
中外製薬は9月9日、血液検体を用いるがん遺伝子パネル検査「FoundationOne Liquid CDx がんゲノムプロファイル」に関するメディアセミナーを電話形式で開催した。講演した国立がん研究センター東病院消化管内科の吉野孝之科長は、同パネル検査の登場により、「組織検体を用いた検査よりも結果が返ってくる日数が短いため、患者の様態が悪化するまでに治験に結びつく頻度が上がる。頻度は、組織検体を用いた検査の2.5倍に増えるとみている」と期待感を示した。
吉野氏は、組織検体では陰性とされたものの、血液中の循環腫瘍DNA(ctDNA)を用いた検査で陽性となり、遺伝子異常を同定して治療薬を投与し、奏功した3例のケースを紹介した。結腸直腸がんの患者では、MSI-Highに異常が見つかり、免疫チェックポイント阻害剤を投与することができたという。吉野氏は「組織検体を用いた検査だけを受けていた場合には遺伝子異常を同定できず、この患者にこの薬を投与するきっかけはなかった」と意義を訴えた。
そのうえで、血液検体を用いた検査について、▽生検が困難ながん種であっても検査が可能、▽がんの経時的な変化を反映し、疾患の全体像を捉えることができる、▽結果が判明するまでの時間が短い、▽何度も採血することで、状況をタイムリーに確認できる―などのメリットがあると述べた。
一方、中外の血液検体を用いた遺伝子パネル検査は、1人1回しか保険適用されない。すでに組織検体を用いた検査を行っている場合は、追加で血液検査を行うことは認められていないため、吉野氏は、「変異を見逃す可能性があり、患者に適切な治療を提示する機会が減る」と指摘。同検査をより有効活用するためには、「標準治療の有無にかかわらず、複数回の検査を可能にしたり、組織検査と血液検査を相互補完的に実施できるようにするなど、現行の保険償還制度の早急な改定が求められる」と訴えた。
また、同検査の結果をもとに、専門家が治療方針などについて話し合うエキスパートパネルについても、現在、保険点数の算定に必須となっているものの、「全例に対して行うのは負担が重く、現実的に厳しい」と指摘。メール審議を取り入れたり、人数を絞った開催にしたり、AI診断を導入するなどの柔軟性ある運用に代えてほしいと求めた。
同検査は、固形がん患者を対象に包括的なゲノムプロファイリングを提供するリキッドバイオプシー検査。国内では唯一、薬事承認され、保険適用されている血液検体を用いたがんゲノムプロファイリング検査となる。血液中の循環腫瘍DNA(ctDNA)を用いることで、324のがん関連遺伝子を解析する。がんゲノムプロファイリング機能と併せ、厚生労働省より承認されている複数の分子標的治療薬のコンパニオン診断機能もあり、結果を一つのレポートとして提供する。国内では3月22日に承認を取得し、8月2日から発売されている。