バイエル薬品・イグザレルトの患者調査 パンフレット作成に本社が関与 観察研究に該当で倫理指針に抵触か
公開日時 2017/04/17 03:52
MRが患者のカルテを不適切に閲覧し、そのデータを論文や営業用パンフレットに活用していた問題で、バイエル薬品本社の行ったアンケート調査そのものが臨床研究に関する倫理指針に抵触する可能性が浮上してきた。さらに、本誌が入手した2014年2月改定版の抗凝固薬イグザレルトの製品情報概要を抜粋した特定版には2頁にわたりアンケート調査の結果が掲載されていることが分かった。パンフレットの作成は、本社メディカル部門が審査に関わるほか、社内関連部門の承認を得て決裁される。当該アンケート調査の論文執筆にかかわったとみられる担当者は2012年時点で製品のプロダクトマネージャーを務め、13年にメディカル部門に異動、現在もその職にある。この調査結果を用いた資材の作成にも深くかかわっていた可能性が高まってきた。
問題となっているアンケート調査の結果は、ライフサイエンス社の「Progress in Medicine」に掲載された、▽抗凝固療法中の心房細動患者に対するアドヒアランスに関するアンケート調査成績、▽抗凝固療法中の心房細動患者における服用方法の嗜好性とアドヒアランスへの影響─アンケート調査からの考察――の2論文。バイエル薬品は、患者のカルテの一部をMRが不適切に閲覧、データを転記したことを認めているほか、「調査の実施主体が同社であることについて書面上、明確にされていなかったことから、2016年1月に医学誌より取り下げられ、同時に取り下げの事実が同誌誌面において公表されている」と説明している。
ただ、仮に論文が現時点で取り下げられたとしても、アンケート調査を実施し、その内容を社内のメディカル部門がプロモーション用の営業資材への掲載の可否を審査し、データを掲載したパンフレットを、同社のMRが全国の医師への情報提供に使っていたことに対する説明がいまだ行われないことについて、企業側の責任を問う声が高まっている。
塩崎恭久厚労相は4月14日の衆院厚生労働委員会で、「アンケート調査の内容や論文審査の過程、疫学研究に関する臨床研究指針案への違反があったかどうか、説明を求めるなどしてきた。厚労省は多くのカルテが不適切に閲覧された可能性があることは非常に重く受け止めている」と答弁した。
また、心臓血管研究所の山下武志所長は本誌取材に対し、問題となった2つの論文に目を通した上で、「患者が関わるものであり、これは臨床研究だ。当然、倫理審査委員会(IRB)の審査を受けるべきものではないか」と指摘した。なお、臨床研究に関する倫理指針では、「倫理審査委員会の審査及び研究機関の長の許可を受けた研究計画書に従って適正に研究を実施しなければならない」と明記されている。大学病院など臨床試験の経験豊富な医療施設は、こうした手順が明確に規定されている。一方で、臨床試験に関わることの少ない開業医は、こうした知識が十分身についていないことも多いという。
なお、バイエル薬品は当該アンケート調査について、「嗜好に関するアンケート調査であり、臨床研究ではない」としている。臨床研究と患者調査の違いについても、「臨床研究の定義についても、現在調査中で検討中」と回答している。
◎調査結果に疑問の声 イグザレルトのアドヒアランスは9割 実態と乖離?
アンケート調査の結果を疑問視する声も臨床現場からあがっている。2013年12月に掲載された論文によると、イグザレルトの服用状況を「毎日忘れずに服用している」と回答した患者は93%(28例)と他の薬剤と比べて高かったとされている。一方で、2012年12月に実施した調査では、ワルファリンやダビガトランについて「約70%が飲み忘れを経験している」と記している。本誌取材に応じた複数の臨床医や専門家からは、「他の論文をみても、アドヒアランスが良好なのは約7~8割にとどまるとのデータが大半だ。症例数が少ないとはいえ、現実の状況と比べても、イグザレルトの服用率が異様に高い」との声が聞かれた。
◎2014年2月作成のパンフレットにアンケート調査の結果を掲載
本誌が入手した2014年2月作成の製品情報概要の特定版にも、同調査の結果が2ページ(9、10頁に掲載、写真)にわたり掲載されていることがわかった。「1日1回1錠は心房細動患者が好む服用方法で、良好な服薬アドヒアランスが期待できます」と明記されている。製品情報概要の特定版には、資材コードが刻印されており、バイエル薬品本社の社内審査を経て、広くプロモーション活動に利用していたことがうかがえる。なお、プロモーション用のパンフレット作成は、一般的に社内のメディカル本部が記載内容の審査を行うほか、関連部局の承認を経て決済する。またパンフレットの審査過程は、その記録が社内に保管されているという。本誌が入手した2014年2月作成版パンフレットでは、国内で実施された「J-ROCKET AF」、海外で実施された臨床第3相試験「ROCKET AF」など、大規模臨床試験に交じって同アンケート調査の結果が大きく紹介されていた。ただし、1施設限定で対象数100人超、さらに商業誌に掲載されたデータであるにもかかわらず、同社が行ったパンフレットの審査過程で問題視されなかったことは疑問が残る。
バイエル薬品 メディカルアフェアーズ本部の犬山里代本部長は本誌取材(Monthlyミクス2016年12月号掲載)に対し、「データを作ることやKOLとのコンタクトは、従来マーケティング部が担っていた。ただ、近年みられるような外部環境の変化もあり、各社とも独立した部門を創設する方向になってきた」と説明している。さらに「メディカルアフェアーズの業務の柱として、「データ創出」、「データの解釈」、「伝達」を掲げている。まず、データ創出については、医師主導臨床研究もあれば自社のPMSもある。そのほか自社主導のフェーズ4も含まれる」と答えていた(記事はこちら:プレミア会員限定コンテンツです)。