中医協薬価専門部会 レカネマブ、薬価収載後の「価格調整」ルール検討へ 投与期間の長さ、使用状況が焦点に
公開日時 2023/10/05 06:01
中医協薬価専門部会は10月5日、アルツハイマー病治療薬・レカネマブ(製品名:レケンビ)の特別ルールとして、診療・支払各側から薬価収載後の「価格調整ルール」の策定を求める声があがった。同剤の投与対象患者数は、最適使用ガイドラインの策定などで当初は限定的となる見通しだが、有病者数が多いことから患者数が増加する懸念があるため。市場期の拡大の要因として、医療現場の使用状況や、投与期間の長さが指摘される。ただ、現段階では不透明な部分も多いことから、診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は、「全例調査後により、使用実態が明らかになった段階で改めて検討する」ことを提案した。一方で、支払側の鳥潟美夏子委員(全国健康保険協会理事)は「ゾコーバと同様に収載後のルールを明確にして進めていただけると先が見通しやすい」と述べ、収載時にルールを明確化すべきと主張した。
◎最適使用推進GL策定も投与患者数増加の可能性
高額医薬品としては今年3月に薬価収載された新型コロナ治療薬・ゾコーバでは、薬価算定時の比較薬選定や、市場規模の急拡大を見据えた市場拡大再算定の特別ルールの策定など、
同剤に限ったルールが設けられた。
同剤は、副作用としてアミロイド関連画像異常(ARIA)の発現などが指摘されることから、最適使用推進ガイドラインの策定し、適正使用を推進することが求められている。患者要件や施設要件が明確に定められることから、「製造販売業者が推計する薬価収載後10年間の投与対象患者数は限定的になる見込み」という。一方で、薬事承認された効能効果は、「アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制」であることから、有病者数を踏まえると、今後の医療現場における使用状況等によっては実際に投与される患者数が収載時の予測と比べ「増加する可能性」がある。
厚労省保険局医療課の安川孝志薬剤管理官は、「感染症治療薬のような急激な投与患者数の拡大といった状況は想定されにくいが、推定有病者数が多い中で、収載時にどこまで患者推計が可能かという点など、対象疾患である認知症の状況も踏まえ本剤に限った措置が必要かご議論いただきたい」と述べた。
◎投与期間の長さが市場拡大に影響 最適GL通じ18か月時点で継続可否判断求める
市場規模は、投与患者数のほか、患者ごとの投与期間などによっても変化することから、こうした点も考慮する必要がある。臨床試験での投与期間は18か月間であったことから、安川薬剤管理官は、「最適使用推進ガイドラインの中で、18か月以上継続する場合は、18か月時点で臨床的進行や病期に関する診断、あるいは投薬の効果、認知症スコアなどを踏まえて、継続の可否を判断するよう求めるというものを規定する予定」と説明。同剤は、“軽度の認知症”に限られており、進行した際の中止のタイミングなどもポイントになる。安川薬剤管理官は、「症状の進行という観点であれば、スコア評価に基づき中等度と考えられるスコアは把握可能だ。スコア評価以外に、個々の患者の臨床的進行に応じて処方医が投与継続の可否を判断するということになると考えているところ」と説明した
◎診療側・長島委員「適応拡大の事例踏まえた検討を」 森委員「全例調査踏まえ、改めて検討を」
これに対し、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は、「限定的な予測患者数ながら、大きく増えてしまう可能性があることや、患者さんへの投与期間がどれぐらいになるかによっても、市場規模が増大する可能性があるという状況は、今までにも経験してきた適応拡大による市場拡大の事例を踏まえ、収載後に対応するルールを作るべき」との考えを示した。
診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は、最適使用推進ガイドラインにより、施設要件などを設けても、「体制整備が進むことなどで、予想よりも大幅に患者が増加する可能性もある」と指摘。「実際にどの程度の期間投与されるかなど、現状のデータで市場規模予測や使用実態などを正確に見込むことは難しく、予想以上の患者数が出た際に、適切な対応ができるよう収載後の価格調整ルールを含めてこれまでとは別の取り扱いを検討すべき」と述べた。そのうえで、「全例調査により使用実態等が把握可能になるので、その使用実態が明らかになった段階で、改めて検討することもあり得るのではないか」との考えを示した。
◎支払側・松本委員「単価、対象患者、投与期間について適切な判断を」
支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、「保険財政の持続可能性に極めて大きな影響を与える。単価、対象患者、投与期間について適切な判断をする必要がある」と指摘。そのうえで、「安全性と有効性の観点からも、最適使用推進ガイドラインや留意事項通知で適切に管理すべき。ただ、潜在患者数も含めると市場規模はかなり大きく、患者の期待も高いことを踏まえると、患者数が上振れする可能性も否定はできない。上振れした際の価格調整も必要だ」と述べた。
◎支払側・鳥潟委員「収載後のルールは明確に」 医療費の観点から検査費用に着目も
支払側の鳥潟美夏子委員(全国健康保険協会理事)は、「医療費の観点でいうと、薬価そのものよりもその前の検査費用に着目をさせていただきたい」と指摘。「(レカネマブを)使える病院が最初は限定的と言いながらも、(患者)ニーズは非常に高い薬剤だと認識しているので、その辺りの将来推計も見たい」と述べた。また、「ゾコーバと同様に収載後のルールを明確にして進めていただけると先が見通しやすい」と述べた。
◎薬価算定 既存薬や中枢神経系の抗体医薬との類似性考慮へ
同剤の薬価算定のあり方についても議論となった。厚労省は、「本剤は新規作用機序の抗体医薬品であり、化学合成品である既存の認知症薬や同じ薬効分類であり中枢神経系に作用する注射剤の抗体医薬品との類似性等を考慮する必要がある。また、適当な類似薬がないと判断される場合は原価計算方式となる」と説明。同剤は抗体医薬であり、化学合成品であるアリセプトなど既存の認知症薬などとは作用機序も異なると説明。既存薬が症状の抑制に焦点が当てられていたのに対し、同剤は病態の進行抑制をコンセプトとしている。また、効能効果も軽度認知障害(MCI)としている点も、既存薬とは異なるとした。
診療側からは、「通常のルールで十分対応可能と考えられる(長島委員)、「この内容で対応できる」(森委員)との声があがった。
支払側の松本委員は、「原則通り類似薬があるのであれば類似薬効比較方式で算定すべき。またゾコーバの時のように複数の比較薬を組み合わせるのか、さらに類似薬効比較方式に馴染まないということであれば、原価計算方式というのもあり得ると考えるが、いずれの場合も合理的な説明が不可欠」として、事務局に資料の提示を求めた。また、承認から薬価収載まで90日以内とすることが中医協で了承されていることから、「薬価収載時には既存の評価軸で有用性等を判断した上で、費用対効果評価の中で介護費用について引き続き研究を続けていただきたい」とも述べた。