慶応大学医学部 LINEを用いたePROの取得システムを開発 乳がん患者の副作用情報の収集が可能に
公開日時 2022/04/15 04:50
慶応義塾大学医学部は4月12日、薬物療法を行っている乳がん患者がLINEを使って副作用情報を効率的に収集できるシステムを開発したと発表した。 LINEをクライアントアプリとして、患者自身の情報を直感的な操作で継続的に収集し、評価するというもの。主観的な評価はPatient Reported Outcomes(PROs : 患者報告アウトカム)と定義し、LINEを用いた ePROの取得システムを開発、実際の患者で運用した。その結果、60 歳を超える患者でも良好な利用・継続が可能で、LINEを用いた ePROの取得システムにより幅広い年齢層の乳がん患者から毎日の副作用に関する情報を収集することが可能になったとしている。
同研究は、慶應義塾大学医学部外科学教室(一般・消化器)の林田哲専任講師、北川雄光教授、同医療政策・管理学教室の宮田裕章教授、帝京大学医学部外科学教室の神野浩光教授らの研究グループが行った。乳がん患者73人を対象にLINEを用いたePROの取得システムを提供し、利用の継続性や患者情報が良好に取得可能であるかどうかを検討するフィージビリティ試験を実施した。観察期間435 日間(中央値)。
◎年齢を問わずLINEを用いたePROの取得システムを患者が受入れ
その結果、LINEを用いたePROの取得システムを使った乳がん患者からは、合計1万6417 件の患者自身が訴える副作用に関する回答を得た。一人あたり平均回答数は 224.9件で、 そのうち65.2件(29%)に症状の発症が認められた。60 歳以上の患者の平均回答数は300件を超え、同期間内の49歳以下の患者からの回答数と比較しても、むしろ有意に多かった。このことから、「年齢を問わずLINEを用いたePRO の取得システムが患者に受け入れられていることが分かった」としている。
◎副作用評価を行う国際指針に準拠した質問をLINEに送信 患者の回答率は95.5%
LINEを用いたePROの取得システムには、抗がん治療薬の副作用評価を行う国際的な指針の「PRO-CTCAE」に準拠した形式の質問が、患者のLINEに定期的に送信される機能が備わっている。患者はあらかじめ用意された回答をタップ操作することで、毎日の症状がPROsとして記録される。この機能を用いた質問に対する患者の回答率は 95.5%だった。海外で行われた同様の臨床研究での回答率が68~75%程度であることを考慮すると、「極めて高い回答率」と研究グループはみており、「LINEという日常的に利用するSNSツールをクライアントアプリとして使用したシステムの優位性が示された結果である」と分析している。
◎がん患者の薬物療法の副作用を抑え、QOL改善に寄与するかで無作為化比較試験も
今回の結果を踏まえ研究グループは、LINEを用いたePROの取得システムによるリアルタイムモニタリングで、がん患者の薬物療法の副作用を抑え、QOLの改善に寄与するかを検証する無作為化比較試験に着手した。研究グループは、「これらの臨床試験の結果から、医学的な問題がIoT技術の発達により解決され、患者により良い医療を提供できることが明らかになれば、医療現場への導入が活発化すると予想される」と強調している。