【esc速報】PHANTOM-S 救急車整備“モバイルStroke Unit”活用で治療開始時間短縮
公開日時 2013/05/31 17:50
救急救命医として訓練を受けた神経内科医、遠隔医療を可能にする小型CTシステム、搬送中に集中治療可能な設備を整えた特別な救急車を、いわば可動式の“モバイルStroke Unit(STEMO)”として活用することで、治療開始までの時間が短縮し、t-PAの施行率を上昇させるなど、一定の効果がみられた。脳梗塞急性期の治療成績向上に欠かせない、t-PAの適応者が早期に見極め、治療につなげる上でも、今後のシステムの運用が注目されそうだ。ドイツ・ベルリンで実施された前向きコントロール試験「PHANTOM-S(Prehospital acute neurologic therapy and optimization of medical care in stroke)」の結果から分かった。5月28日からイギリス・ロンドンで開催されている第22回欧州脳卒中学会(esc)で30日に開かれた「Large Clinical Trials」セッションで、研究グループを代表して、Heinrich J Audebert氏が報告した。(イギリス・ロンドン発 望月英梨)
脳梗塞急性期の治療成績向上には、早期診断、そして適応患者には早期のt-PA静注療法による血栓溶解療法が欠かせない。一方で、t-PAの施行率は依然として低く、ドイツでの血栓溶解療法は5~10%、脳卒中専門病棟であるStroke Unitのある14施設を対象にみても施行率は12%にとどまっているという。
この施行率の低さの背景には、搬送時間の遅れがある。特に、救急への通報から病院到着までの経過時間も長い。実際、ベルリンの施設では、救急への通報からt-PAのボーラス投与まで平均98分要しているが、このうち病院に搬送するまでにすでに44分経過していたという。
t-PAの実施率向上や治療成績向上には、治療開始時間を可能な限り早くすることが求められる。そこで、研究グループは、救急車に小型CTやpoint of careを可能にするコアラボなどの設備を整えたSTEMOを活用することを考えた。これにより、救急車にいながらにして、CT画像を用いて、t-PAの適応となるか、早急に治療方針の決定を行うことが可能になるというわけだ。神経内科医が少なくても治療方針の決定などが可能になるため、システムを活用することで、多くの患者の診察を可能にすることにもつながるという。
試験は、1台のSTEMOと28施設の搬送先病院で実施された。救急救命隊が脳梗塞急性期と判断した18歳以上の患者で、STEMOの到着まで16分以内と予定される場所を対象とした。週により、STEMOを配備する週と、そうでない通常の救急搬送を行う週にランダムに割り付けた。なお、STEMOは、配備されている週でも配備されていない地域もあった。主要評価項目は、配置から治療開始までの時間の短縮とし、少なくとも20分以上短縮することを狙った。試験期間は、2011年1月5日~13年1月31日までで、いずれの群も10.5か月間行った。
すべての患者を対象にすると、STEMOの週でSTEMOを配置された地域が1804例、STEMOの週は3213例、通常搬送の週は2965例だった。平均年齢は、いずれの群も74歳だった。脳卒中類似症状を呈するStroke mimicsはSTEMO配置銀で0.3%、STEMO週0.2%、通常搬送週0.2%だった。院内死亡は、3.4%、3.6%、4.0%だった。
脳卒中患者に絞ると、STEMO配備群(866例)、STEMO配置週(1516例)、通常搬送週(1457例)の平均年齢は76歳だった。Stroke Unitへの搬送は、STEMO配備群で95%、STEMO配置週で93%で、通常搬送の87%を有意に上回った(いずれもp<0.01)。また、t-PAの静注療法はSTEMO配備群33%、STEMO週29%で、通常搬送週の21%を有意に上回った(p<0.01)。院内死亡は3.8%、4.4%、4.5%で有意差は認められなかった。
さらに、t-PA静注療法を受けた患者に絞ると、STEMO配備群(201例)、STEMO配置週(312例)、通常搬送週(218例)で平均年齢は77歳、76歳、75歳だった。Deployment to Needle Time(緊急搬送配備~治療開始までの時間)は、STEMO配備群48分、STEMO配置週62分、通常搬送週77分(Door to NeedleTime(院内到着~治療開始までの時間):37分)に比べ、有意に短縮した(p<0.01)。t-PA投与前の血液凝固状況の把握は、STEMO配備群92%、STEMO配置週87%で、通常搬送週(218例)の79%を有意に上回った(いずれもp<0.01)。
一方で、頭蓋内出血の発生率は3.5%、4.8%、6.0%とSTEMO配備群で低率な傾向が示されたが、有意差はみられなかった。また、院内死亡は4.5%。4.5%、4.1%で大きな差はみられなかった。
結果を報告したAudebert氏は、STEMOは「救急隊のシステムと統合することが可能だ」と説明。「安全で、生活の質(QOL)やt-PAの治療施行率の向上、治療開始間での時間の短縮などについて、通常の治療に比べ、優れていた」と同システムの有用性を強調した。