抗PD-1(programmed death-1)完全ヒトモノクローナル抗体(BMS-936558)を用いた免疫療法が、メラノーマ(MEL)、非小細胞肺がん(NSCLC)、腎細胞がん(RCC)において、持続的で高い活性を示すことが明らかになった。進行転移性の固形がんを対象とする複数用量レジメンを用いた臨床第1相試験の結果から示された。6月1日から米国・シカゴで開催されている米国臨床腫瘍学会(ASACO2012)で、Johns Hopkins University School of MedicineのSuzanne Louise Topalian氏が2日に開かれたClinical Science Symposiumで発表した。
PD-1は、活性化されたT細胞に発現する免疫補助受容体で、T細胞の細胞死誘導時に発現が増強される遺伝子として1992年京都大学の石田らによって分離・同定された。腫瘍免疫において中心的役割を担うT細胞は、2つの異なるシグナルで制御されている。1つは腫瘍を認識するシグナル。もう1つはT細胞を制御するシグナルで、これがプラスの場合、T細胞は活性化されてサイトカインを分泌し、腫瘍細胞を殺すことが可能となる。一方で、PD-1を発現するようになる。
PD-1がリガンドであるPD-L1と結合すると、免疫からのシールドを形成して、免疫機能が解除される。本来は、自己に対する不適切な免疫反応を制御する機能だが、腫瘍細胞がPD-L1を発現すると、これがPD-1と結合することによって、宿主の免疫機能から逃れることが可能となる(いわゆる免疫寛容)。免疫療法の効果が得られない主な原因だと考えられている。
同研究では、PD-1に対する抗体により、PD-1とPD-L1との結合を阻害して免疫寛容を解除し、腫瘍を退縮させることができるか検討した。
対象は、全身治療を1~5ライン行いPDとなった進行転移性の、MEL104例、NSCLC122例、RCC34例、大腸がん(CRC)19例、去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)17例の外来患者。登録期間は、2008年10月~12年2月。
平均年齢は63歳、ECOG PSは0が43%、1が53%で、全身療法を3ライン以上受けていた患者が47%を占めていた。
抗PD‐1抗体は、複数用量レジメンで、8週1サイクルで2週毎投与し、各サイクル終了時に抗腫瘍効果を評価した。完全奏功(CR)/部分奏功(PR)/不変(SD)の患者に加え、進行(PD)だが臨床的に安定の患者は、CR確定、PD悪化、許容できない毒性の発生まで、あるいは12サイクル(96週)まで治療を継続した。最初のサイクル終了時にすでにPDの患者や臨床的な悪化を認めた患者は、試験から除外した。また許容できない毒性を認めた患者は投与を中止し、安全性についてのみ追跡、評価した。
今回の有効性評価は、2011年7月以前に治療を開始した236例について2012年2月24日に行った。
◎MEL、NSCLC、RCCで有効性示す PD-L1陽性と治療効果の関連性も示唆
奏効率(ORR:CR+PR)はMEL(0.1-10mg/kg,26/94例)で28%、NSCLC(1-10mg/kg, 扁平上皮癌、非扁平上皮癌を含む、14/76例)で 18%、RCC(1または10mg/kg, 9/33例)で27%だった。また24週以上SDを維持できた患者はMEL6例(6%)、NSCLC5例(7%)、RCC9例(27%)だった。効果は持続的で、1年以上追跡した31例中20例で1年以上効果が維持されていた。CRC19例、CRPC13例ではORを認めなかった。
有害事象は、疲労(24%)、発疹(12%)、下痢(11%)などがみられた。Grade3~4の有害事象は、41例(14%)に認めた。治療関連の肺炎による死亡が、NSCLC2例、CRC1例の計3例(1%)にみられた。有害事象のために治療を中断した患者が295例中15例(5%)のみだった。
PD-1リガンド(PD-L1)陽性と治療効果との関連性について、治療前の組織生検を用いて検討した。その結果、42例(MEL18例、NSCLC10例、CRC7例、RCC5例、CPRC2例)中、ORはPD-L1陽性腫瘍は36%(16例/25例)だったのに対し、陰性では、0%(0例/17例)で、PD-L1発現と臨床アウトカムが関連する可能性が示唆された。
Topalian氏は、「今回得られた知見は、がん治療におけるPD-1/PD-L1経路の重要性を示すもので、BMS-936558の臨床開発をさらに進めることを支持するものだ」と述べた。
なお、本試験結果は、同日付けのThe New England Journal of Medicineに掲載された。