【AHAリポート】ASCEND-HF 急性非代償性うっ血性心不全へのネシリチド投与で呼吸困難改善効果示せず
公開日時 2010/11/15 12:00
急性非代償性うっ血性心不全(ADHF)患者に対する組み換えヒトB型ナトリウムペプチド静脈内点滴製剤ネシリチドの投与は、懸念されていた死亡率増加や腎障害のリスクはないものの、呼吸困難改善効果はわずかであることが分かった。大規模臨床試験「ASCEND-HF(Acute Srudy of Clinical Effecriveness of Nesiritide in Docompensated Heart Failure)」の結果から明らかになった。11月14日、米国イリノイ州シカゴで開催されている米国心臓協会(AHA)2010年学術集会のLate-Braking Clinical Trials セッションで、Duke Clinical Research InstituteのAdrian F Hernandez氏が報告した。
急性心不全による入院患者は毎年数百万人と言われる。一方で、標準治療は1970年代から変わらず、利尿薬と血管拡張薬または強心薬だ。こうした中、小規模な試験ながら、ネシリチドが投与3時間において、急性心不全患者の呼吸困難、肺動脈楔入圧を改善しうるとの成績が示され、同薬剤は2001年、FDAに承認された。
しかし2005年、2つのメタ解析で死亡率増加および腎障害のリスクがあることが指摘され、ネシリチドを開発したScios Incは独立委員会を設置。この委員会が実施を推奨し、ネシリチドの安全性と有効性を検討すべく開始されたのが、前向き二重盲検ランダム化試験「ASCEND-HF」試験だ。
対象は、入院から24時間以内の急性心不全患者で、2007年5月から2010年9月までに、北米を中心とする30カ国398施設から7141例が登録された。標準治療に上乗せする形で、ネシリチド(3564例)群またはプラセボ(3577例)群にランダム化された。患者の年齢は両群ともに67歳(中央値)、左室駆出率(LVEF)<40%がプラセボ群は79.5%、ネシリチド群は80.8%であるなど、治療開始時の両群の患者背景に差は認められなかった。
主要評価項目は、①6時間後、24時間後における急性呼吸困難(6時間、24時間後ともにP≦0.005またはいずれかがP≦0.0025で有意とする)②30日以内の死亡または心不全による入院(P≦0.045で有意とする)――とした。解析対象は、薬剤を投与しなかった患者を除くプラセボ群3511例、ネシリチド群3496例。
◎Hernandez氏 「安全性確立も効果はわずか」
その結果、30日以内の死亡または心不全による再入院は、プラセボ群10.1%に対してネシリチド群9.4%(30日以内の死亡は4.0%対3.6%、心不全による再入院は6.1%対6.0%)、リスク減少率は0.7[95%CI:-2.1~0.7]、 P値は0.31で、有意差はなかった。
呼吸困難の改善(有意な改善/中等度の改善)を認めた患者割合は、6時間後はプラセボ群42.1%(13.4%/28.7%)に対してネシリチド群44.0%(15.0%/29.0%)だった(P値=0.030)。24時間ではそれぞれ66.1%(27.5%/38.6%)、68.2%(30.4%/37.8%)(P値=0.007)で、いずれもネシリチド群でより高い傾向があったものの、有意差には至らなかった。
Hernandez氏は、「この試験のメッセージは、効果と安全性のバランスを見極めるためには、適切な試験を行う必要があるということだろう」と述べた。またネシリチドについては、「ASCEND-HFでの適切な評価の結果、安全に適用できるが効果はわずかで、使うべきとは言えない」とした。
独立委員会で委員長を務めたHarvard大学のEugine Braunwald氏は、ディスカッサントとして登壇し、「(広く用いられて来た)ネシリチドに、懸念されたリスクはないというエビデンスが得られたことは良いニュースだが、アウトカムを改善するというエビデンスが得られなかったのは残念だ」と結論付けた。その上で、「試験が見事に実施されたことは喜ばしい。この(悪い結果が出る可能性のある)綿密な検討を可能にした企業の決断にも感謝する」と述べた。