中大脳動脈(MCA)閉塞患者に、rt-PA(アルテプラーゼ)0.6mg/kgを投与すると、発症6時間後までには半数、24時間後までには2/3を超える症例で再開通することが、J-ACTⅡ(Japan Alteplase Clinical TrialⅡ)の結果から明らかになった。東北大大学院医学系研究科高次機能障害学教授の森悦朗氏が4月15日、合同シンポジウム「脳梗塞急性期再開通療法」で報告した。
J-ACTⅡ試験は、中大脳動脈閉塞患者におけるアルテプラーゼ0.6mg/kg静注の有効性を臨床転帰、中大脳動脈の閉塞の再開通率から検討することを目的に、製造販売後臨床試験として実施された。アルテプラーゼの承認条件として、市販後調査に加え、欧米よりも低用量である0.6mg/kgでの有効性を再確認することが求められたためだ。
対象は、①発症3時間以内②20歳以上③MRA上で、中大脳動脈(M1またはM2)閉塞④神経学的重症度を表すNIHSSが4~22点――の日本人脳梗塞患者58人。ベースライン時、6時間経過時(投与終了~発症後8時間)、24時間経過時(発症後24~36時間)の3ポイントでMRA検査を実施し、閉塞部位が再開通しているか検討した。
◎再開通 早期・遅発性にかかわらず良好な転帰と関連
その結果、MRA上で有効な再開通が確認されたのが、6時間後(5.9±1.4時間後)では51.7%(90%CI:33.5~56.8%)、24時間後(27.1±2.7時間後)では69.0%(90%CI:57.7~79.4%)で、いずれも当初設定されていた有効性を示すマージンを超える結果となった。良好な臨床転帰(mRSが0[全く症状なし]~1[何らかの症状はあるが、障害はない])は46.6%だった。
再開通の有無と、良好な臨床的転帰との関係をみると、再開通が確認された症例は、6時間後に再開通が確認された症例ので66.7%(20人)、24時間後に再開通が確認された症例ので62.5%(25人)が良好な転帰を示した。一方で、再開通が確認されなかった症例では、6時間後に再開通がなかった症例ではで25.9%(7人)、24時間後に再開通がなかった症例ではで11.8%(2人)にとどまり、再開通した症例で良好な転帰をたどることが分かった。
Logistic解析を用いて良好な転帰に寄与する因子を検討したところ、投与前のNIHSSスコアに加え、6時間後の再開通、24時間後の再開通、6~24時間後の間の遅発性再開通が浮かび上がった。そのため、森氏は「再開通は、早期であろうが、24時間後までの遅発性であろうが良好な転帰をもたらす」との見解を示した。
一方、安全性については、症候性頭蓋内出血は起こらず、無症候性頭蓋内出血が19.0%(11人)に発現したとした。
◎森氏「少なくともアジア人には0.6mg/kg投与が妥当」
rt-PAの投与量は、欧米で0.9mg/kgが汎用され、アジアでもシンガポールでは0.6mg/kgから0.9mg/kgへと推奨が変更になっている。
森氏はこの状況を紹介した上で、台湾で実施された前向き観察研究(TTT-AIS)の結果を解説した。試験では、①標準用量(0.90±0.02mg/kg)投与群125人②低用量(0.72±0.07mg/kg)投与群116人――の2群に分け、有効性と安全性を比較した。
その結果、3カ月後の死亡率は、標準用量群で12.8%、低用量群では6.9%で、低用量群で少なかった(P値=0.1262)。3カ月後の良好な転帰も、標準用量群で48.7%、低用量群では58.8%で、低用量群で多かった(P値=0.1348)。
安全性についても、症候性頭蓋内出血の頻度は、標準用量群の10.4%に対し、低用量群では5.2%で、低用量で少ない結果となった(P値=0.1324)。いずれの結果も、有意差はみられないものの、低用量群で良好な結果と言える。
森氏は、欧米で0.9mg/kgを用いるエビデンスとなった米国立神経疾患脳卒中研究所(NINDS)が実施したパイロット試験でも、0.9mg/kg投与群で症候性頭蓋内出血が発現し、有効性の面でも低用量群と比べて有意差がみられなかったと説明。投与量を0.9mg/kgと定めるが最適とする「有効性に関する根拠はなく、安全性からみても根拠が不十分」と指摘した。
その上で、「アルテプラーゼの用量はいまだ十分最適化されているとは言えない」と断った上で、「少なくとも日本人、恐らくアジア人にも、0.6mg/kgが妥当」との見解を示した。