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医療・介護連携をICTで牽引

公開日時 2016/07/31 00:00

マルチチャネル3.0研究所
主宰 佐藤 正晃

 

注目の尾道方式 NPO法人「天かける」の挑戦

 

医療と介護の連携には多くの課題が山積している-。国は、高齢化のピークを迎える2025年に向け、地域包括ケアシステムの中心に医療と介護の一体的な連携の推進を掲げている。ただ、成功事例が少ないというのが実情だ。今回は医療介護連携として全国で有数の先進事例を持つ尾道市NPO法人「天かける」を特集した。尾道市の人口は15 万人弱、高齢化率は約33%、高齢化率は県や国に比し約10年先行し、我が国の高齢社会の課題に直面してきた。このような背景をもとに1994年より医師会が中心となって医療・介護連携が始まっている。現在この医療・介護連携(尾道方式)をICT基盤の整備により質の高い医療介護システム連携の構築が行われ、総務省地域情報化大賞2015年の奨励賞を受賞した。

 

伊藤 勝陽 医師
特定非営利法人
「天かける」理事長
佐野 弘子 氏
理事

 

 

NPO法人「天かける」の設立

 

佐藤 尾道方式という地域医療介護連携の仕組みは様々なメディアや学会誌で取り上げられています。まずはNPO法人「天かける」の設立経緯から説明お聞かせください。

 

伊藤 私が2009年JA尾道総合病院に赴任した際に、病院の大きなテーマとして新築移転にともない電子カルテの新規導入というのがあり、その際に医師会が中心として進めていた地域連携の仕組みに電子カルテを取り入れる構想があった。厚生労働省からは「尾道地区はアナログベースでの医療連携は進んでいる、是非ともデジタルも推進してみてはどうか」との話があった。そして、国のICT 基盤整備事業への公募をきっかけに2011年にNPO法人「天かける」を設立した。

 

北海道、長崎、山形等の先進事例を参考にした結果、病診連携や病病連携という医療機関だけの連携に留まらず、介護を含めた多職種連携を進めたいという想いが強くなる。そして現在のシステム構成を設計し、2012年からの2年間のシステム構築基盤整備事業で自治体、医師会、薬剤師会、介護保険施設、歯科医師会が参加する推進協議会を設立し、結果128施設が医療介護の連携を実現する事が出来た。

 

佐藤 当時より薬局とのシステム連携を行っている、現在では増えてきている薬局との連携ではあるが当時は珍しかったので苦労もあったのではないか?

 

伊藤 薬局との連携に当たっては先ずは尾道薬剤師会と話をして導入のサポートをお願いした、実際には医師会の方からも、薬局が地域医療連携システムに初めて取り組むという事で色々と注目して頂いたと思う。やはり多職種連携をするためには医療機関、薬局、介護施設での情報連携は必要あるので、最初に薬局に接続する事が出来た事は現在の運用においても非常に大切なポイントであったと思う。

 

佐藤 天かけるのシステムは通常の地域医療連携システムをさらに拡張している大規模の連携システムと認識しています。簡単に特徴を教えて頂けますか?

 

佐野 急性期病院の電子カルテ情報共有リンクシステム(製品名ID-link)を介し、回復期・維持期・介護施設・薬局・歯科など既存の部門システムと連携するのが基本のシステム構成となっている。複数のシステムが独自運用されているが、ネットワーク自体はこの電子カルテ情報共有リンクシステムにつながればよく、各部門システムはそれぞれの部門のみで保有している情報を共有リンクシステム上に共有する事での連携が基本構成となっている。

 

天かける医療介護連携は開業医と急性期病院とが一体化したシステム化を目標としてきた。これまでの医療・介護間(多職種協働)の円滑な情報共有、急性期病院、かかりつけ医、歯科医院、薬局、介護施設間での情報の共有に加え 在宅医療・在宅介護におけるかかりつけ医との連携(ビロードケア)も行っている。

 

 

「ビロードケア」タブレット活用による医療介護連携

 

佐藤 モバイル端末での医療介護活用ですか、先進的な取り組みですね。詳しく教えてください。

 

佐野 ビロードケアは病診連携でつくっていたシステムを、在宅医療在宅介護でも利用するために開発した端末で、iPadを利用する事でその利便性を活かし使いやすさを有先したツールで、利用形態としては介護士の活用を例にとると患者の「食事をとる、摂らない」等の日常的で、非常にシンプルではあるが医師にとって必要となる情報を入力し供している。老健等の介護施設では一人の医師が100人近くの利用者を見なければなく、看護師・介護士が書くシンプルで意味あるコミュニケーションツールは必要であり、情報を電子化する事で患者が自宅に戻った後も情報を確認できるので在宅でケアのフォローが可能になる。現在は60台ほどのiPadが運用されている。今後はリハビリによる機能改善など、在宅に戻ってからの情報入力を行う事でさらに在宅医療の患者へフォローアップ機能として使いたい。

 

改善結果をデータ化する事で医師だけではなく介護スタッフの評価も高い。やはりデジタルのメリットの一つとしては結果が目に見える事であろう。最終的にはICF(国際生活機能分類)等を機能に取り組むことでより広めてゆきたいと考えている。

 

 

地域包括ケアのデータ分析

 

佐藤 資料を見るとかなりデータ分析を行っていますね、どのような分析結果や効果が見られましたか?

 

佐野 連携により重複薬の重複服薬が尾道で4%の削減でき検査の重複が11%削減できた。

 

これが全国規模で実現されると大きな費用削減効果が見込まれると考えている。医療システム導入の効果が金額ベースで出る仕組みというのは意義があると考えている。昨年、総務省地方創生に資する「地域情報化大賞」奨励賞を受賞したが、やはり具体的な削減効果を目に見える形で示すことが出来たのも評価されたと思っている。
やはり、グラフにしてみると今まで目に見えてなかったのもが理解できるようになるし、会議の際でも議論が進むのでデータ化は必要なアクションだ。

 

図 地域包括ケアシステムのカギ

▶顔が見える多職種連携
  各種研修会とその後の情報交換会の積み重ね

 

▶病院スタッフとの連携
  地域医師会との連携
  退院前ケアカンファランス、デス・カンファランスなど

 

▶医療と介護連携
  かかりつけ医と介護関係者との連携

 

▶情報共有
  ICT連携

 

▶地域コーディネータ
  地域包括ケア連絡協議会、NPOなど

日本医療マネジメント学会第12回九州・山口連合大会
10月11日 海峡メッセ下関

 

尾道方式
「退院前ケアカンファランス」

 

佐藤 尾道方式といえば「退院前ケアカンファランス」をよく耳にします。

 

伊藤 はい、尾道方式の神髄は退院前ケアカンファランスといえる。

 

退院前ケアカンファランスでは急性期病院などと受け入れ先の医療機関間とで同職種同士の情報連携を行っている。多職種により構成されるチームが入院患者のもとに在宅診療支援のための医療・介護情報の確認に訪れ15分間のカンファランスを実行している。「患者および患者家族の安心、患者・家族との顔の見える連携と相互理解」、「患者家族の想いの再確認」「医療看護ケアの問題点、アセスメントの再確認」「連携強化」「退院支援の効率化」など患者・家族の満足と安心に大きく寄与している。

 

あえて15分にすることで、多忙なかかつけ医も午前と午後往診の間に参加することが出来る。日々多忙な医師にとってタイムマネージメントもできるし情報連携もできる非常に意義のある会である。実際の患者家族、医療従事者が顔を合わせることで患者も安心できるこのような会は広域医療圏での実現は簡単ではないが、例えば遠隔システムなどを利用して同様なことが出来ると思う。

 

 

製薬企業への期待とは

 

佐藤 製薬企業に期待する事はありますか?

 

佐野 電子カルテの導入が進み、さらに地域医療連携システムの広がりにより医療従事者もこれまでの紙媒体業務からデジタルを活用した業態変化に対応してきている。製薬企業のMRも薬剤情報提供プラスきめ細やかな医師対応に加えICT活用を得意分野にして、医療従事者からの求められるニーズに対応して新しいMRの業務の形に進化してゆけばいいのではないか。

 

また、我々の協議会の中にはITベンダーは積極的に参加している。製薬会社のみなさんもこれまでの個別ターゲットのスタイルを変えて参加してみることも良いのではないか。
協議会の中でも薬剤に関する話、例えば薬剤のトータルな安全性の提供方法などの話も出ることがある。協議会への参加や我々の所に話を聞きに来てもらえば、地域医療と製薬の新しい形の関係構築が出来るのではないかと思う。

 

佐藤 医療と介護がICT活用してここまで進んでいるのは地域医療の理想形と思います、私も大変勉強になりました、本日はお忙しい中ありがとうございました。

 


 

マルチチャネル3.0研究所とは:(MC3.0研究所)
「地域医療における製薬会社の役割の定義と活動スタイルを定義することを目的にして、製薬企業の新たなる事業モデルを構築し地域社会並びに患者や医師をはじめとする医療関係者へのタッチポイント増大に向けたMRを中心とするマルチチャネル活用の検討と実践を行う研究機関」である。設立2015年4月主宰 佐藤正晃(一般社団法人医療産業イノベーション機構 主任研究員)

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