【AHA2013速報】TOPCAT アルドステロン拮抗薬・スピロノラクトン 拡張不全への有効性示せず
公開日時 2013/11/20 04:00
収縮機能が保持された心不全(拡張不全)患者を対象に、アルドステロン拮抗薬・スピロノラクトンを投与した結果、心不全による入院は抑制したものの、主要評価項目の心血管死+心停止からの回復+心不全による入院の複合エンドポイントの発生を抑制することができなかった。国際多施設共同二重盲検下ランダム化比較試験「TOPCAT(Treatment Of Preserved Cardiac Function Heart Failure with an Aldosterone Antagonist)」の結果から示された。心不全へのアルドステロン拮抗薬の有効性をめぐっては、大規模臨床試験「RALES」「EMPHASIS-HF」で有用性が報告されている中にあって、拡張不全については有用性を示せなかった。11月16日から米国・ダラスで開催されている米国心臓協会年次学術集会(AHA2013)で、11月18日に開かれた「Late-breaking Clinical Trials:Medical and Surgical Approaches to Improving Heart Failure Outcomes」で、Marc A.Preffer氏が報告した。
試験は、拡張不全患者を対象に、スピロノラクトンによる治療がプラセボに比べ、心血管死、心停止からの回復、心不全による入院について臨床的に意味がある抑制ができるか検討する目的で実施された。
対象は、左室駆出率(LVEF)≥45%で、50歳以上の症候性心不全患者。腎機能低下例(eGFR<30mL/min/1.7㎡)、血清カリウム(K)値≥5mmol/L、コントロールできない高血圧患者などは除外した。
米国、ロシアなど6か国、270施設から登録された3445例をスピロノラクトン群1722例、プラセボ群1720例にランダムに割り付けた。主要評価項目は心血管死+心停止からの回復+心不全による入院の複合エンドポイントとした。平均追跡期間は3.3年間。平均投与期間は8か月間で、平均投与量はスピロノラクトン25mg、プラセボ28mgだった。試験終了までの中止率はスピロノラクトン群34.3%、プラセボ群31.4%だった。
患者背景は、NYHAの心機能分類でⅡ度がスピロノラクトン群63.3%、プラセボ群64.3%、Ⅲ度が33.0%、32.2%、LVEFが56%(51-61)、56%(51-62)、心不全による入院が71.5%、71.5%、ナトリウム利尿ペプチドの上昇が28.5%、28.5%だった。年齢は69歳、69歳、合併症は高血圧が91%、92%、冠動脈疾患(CAD)が57%、60%、血圧値は130/80mmHg、130/80mmHgで、両群間に差はみられなかった。
主要評価項目の発生率はスピロノラクトン群18.6%(320例/1722例)、プラセボ群20.4%(351例/1723例)で、両群間に有意差は認められなかった(ハザード比(HR):0.89、95%CI:0.77-1.04、p=0.138)。主要評価項目の因子である心血管死、心停止からの回復について有意差はみられなかったが(HR:0.90、p=0.354、HR:0.60、p=0.482)、心不全による入院についてはスピロノラクトン群12.0%(206例)、プラセボ群14.2%(245例)と有意にスピロノラクトン群で低率だった(HR:0.83、0.69-0.99、p=0.042)。すべての心不全による入院はスピロノラクトン群394件、プラセボ群475件とスピロノラクトン群で有意に少なかった(p=0.005)。
サブグループ解析の結果、ナトリウム利尿ペプチドの上昇(BNP≥100pg/mL or NT-proBNP≥360pg/mL)みが、治療効果との有意な相関を示した(HR:0.65、0.49-0.87、p=0.003)。
Post-hoc解析で地域による差をみたところ、米国、カナダ、アルゼンチン、ブラジルの4か国と、ロシア、グルジア共和国の2か国の間で大きな差がみられた。プラセボ群の主要評価項目の発生率が、米国など4か国では31.8%(280例/881例)のに対し、ロシアなどでは8.4%(71例/842例)と低率だった。また、米国などではスピロノラクトン群投与による抑制がみられた(HR:0.82、0.69-0.98)のに対し、ロシアなどではむしろスピロノラクトン群で発生率が上昇していた(HR:1.10、0.79-1.51)。
◎スピロノラクトン群 高カリウム血症の発生率が倍に
安全性については、重篤な有害事象(SAE)はスピロノラクトン群48.5%(835例)、プラセボ群49.6%(855例)だった。有害事象の内訳には両群間で差がみられ、高カリウム血症はスピロノラクトン群で18.7%(322例)、プラセボ群9.1%(157例)とスピロノラクトン群で有意に多い(p<0.001)一方、低カリウム血症はスピロノラクトン群16.2%(279例)、プラセボ群22.9%(394例)で、プラセボ群で有意に多い結果となった(p<0.001)。そのほか、血清クレアチニン値が正常値の2倍化はスピロノラクトン群で有意に多かった(HR:1.49、1.18-1.87、p<0.001)。
結果を報告したPreffer氏は、スピロノラクトン投与による心不全による入院の抑制は認められたものの、主要評価項目で有意差を示すことができなかったとした。その上で、「スピロノラクトンを投与する場合は、血清カリウム値とクレアチニンを注意深くモニタリングすることが求められる」との考えを示した。
◎Discussant・Redifield氏 服用継続率の低さの影響示唆
Discussantとして登壇したMayo ClinicのMM Redfield氏は、追跡期間が長く、服用継続率の低さや、ステージが進行したハイリスク症例が多く含まれていることが主要評価項目で有意差が認められなかったことへの影響を指摘した。Redifield氏は、同試験の特徴として、根拠が非常に強い一方で、登録に時間を要したことから、長期間の追跡症例数が少ないとした。その上で、アルドステロン拮抗薬が心不全に対し有用性を示した大規模臨床試験「EMPHASIS HF」や「RALES」を引き合いに出し、2試験との違いを説明。追跡期間が長期間であること、継続率がEMPHASIS HFでは85%、RALESでは74%だったのに対し、66%であったことなどを指摘した。
サブグループ解析で認められたBNP高値症例への有用性については、BNP高値は、ハイリスク症例であることから納得できる結果だとした上で、BNPだけでなく、酸化ストレスなどほかのバイオマーカーが有用である可能性も指摘した。
拡張不全をめぐっては、I-PRESERVEなどでも薬物療法の有用性が示すことができなかったが、Redfield氏は「あきらめる必要はない」との考えを表明。病態生理学をより理解することの重要性を強調し、「臨床試験では、病態生理学に合った個別化した治療の有用性を検討する」ことが必要との考えを示した。
2013年11月27日20時18分下線部修正済