日薬連・安川会長「薬価は5年分の物価上昇一律引上げを」 カテゴリー別で特許切れ後に薬価を再評価
公開日時 2025/09/18 07:00
日本製薬団体連合会(日薬連)の安川健司会長は9月17日、2026年度薬価改定に向けた中医協薬価専門部会の業界ヒアリングで、「すべての医薬品の薬価を少なくとも、ここ5年分の物価上昇分を吸収できる程度に、一律に引き上げるべきだ」と主張した。カテゴリー別の”シンプル”な薬価制度構築の必要性も指摘。新薬創出等加算品に該当する「革新的医薬品(仮称)」と基礎的医薬品、最低薬価品は薬価を維持する一方、長期収載品や後発品などは市場実勢価格に基づく改定を行うこととした。特許切れ後に革新的医薬品から長期収載品にカテゴリーが移行した場合には、薬価を「再評価」することを提案。安川会長は、「端的に言えば、薬価の引き下げ。少なくとも、現在の新薬創出等加算の累積額控除と同等のメリハリをつけることは、当然」との考えを示した。
◎後発品は製造原価の上昇、新薬は研究開発費のコスト増が「深刻な影響」
日薬連は、製薬企業の全取引アイテムの調達コストについての調査結果を提示した。調査を開始した2021年12月時点を100としたときに25年6月調査で「120~140」となったのが35.4%となるなど、120以上となったのは46.8%を占めた。安川会長は、「原薬、原材料、包装材料、エネルギー費、輸送費、人件費等の高騰は、すべての品目に品目に影響を与えている。例えば、後発品メーカーでは製造原価の上昇、新薬メーカーでは研究開発に関わるコストの増加が大きく、深刻な影響を受けている」と説明。このような中で、8年連続で薬価改定が実施されたとして、「製薬業界では、これらの影響を国内事業のみでは、吸収しきれないような状況に陥っている。すべての医薬品の薬価を少なくとも5年分の物価上昇分を吸収できる程度で、一律に引き上げるべきだ」と強調した。
日本製薬工業協会(製薬協)の宮柱明日香会長も、「たとえ薬価が名目上、維持されていたとしても、インフレの影響により、実質的な価値は目減りしていく。日本市場での収益性が損なわれれば、研究開発への投資は減少し、ドラッグ・ラグ/ロスの拡大につながる。そのため、来年度の薬価制度改革においても、インフレ率を考慮した薬価への反映を強く要望する」と述べた。
日本ジェネリック製薬協会の川俣知己会長も、「市場実勢価格加重平均値調整幅方式に基づく引き下げを前提とした改定には限界がある。物価上昇に連動して、引き上げの見直しができる仕組みが必要だ」と指摘した。
◎支払側・松本委員 製薬業界の主張の「矛盾」を指摘
支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は日薬連が資料に“社会保障費の縮小均衡策からの脱却”と明記し、実際に“すべての医薬品の一律引上げ”を主張したことを踏まえ、「物価賃金上昇を反映して、医薬品市場の大幅な拡大ということを主張されているというふうに感じる」と述べた。製薬業界は、“薬価維持と薬価引下げのメリハリを強化し、創薬イノベーションの推進と国民負担軽減に資する”制度として、カテゴリー別の制度を主張しており、製薬業界の主張に「少し矛盾があるのではないか」と指摘した。
これに対し、日薬連の安川会長は、「トータルの薬剤費は、当然、処方の数がかかり、我々は処方数をコントロールできない。これは医師のご判断でございますので、トータルが増えた、増えないではなく、我々が申し上げているのは、個々の医薬品の価格を、ちゃんとインフレあるいは物価上昇を加味して毎年変えてくださいと、これが基本的なお願いだ」として、薬剤費そのものに対する言明は避けた。
◎カテゴリー別の「極めてシンプルな仕組みを」 特許切れ後の薬価下げは累積額控除と同等に
製薬業界は“カテゴリー別”の薬価制度構築も要望した。新薬と長期収載品/後発品、基礎的な医薬品(基礎的医薬品、最低薬価等)にわけ、現行の新薬創出等加算品に該当する「革新的医薬品(仮称)」と基礎的医薬品、最低薬価品は薬価を維持。一方で、その他の新薬と長期収載品/後発品は市場実勢価格に基づき改定を行う「極めてシンプルでわかりやすい仕組み」(日薬連・安川会長)を提案した。革新的医薬品の特許切れ後は、「カテゴリーが変化したと考え、薬価を再評価することを想定している。再評価とは、端的に言えば、薬価の引き下げで、少なくとも、現在の新薬創出等加算の累積額控除と同等のメリハリをつけることは、当然と考えている」と述べた。
製薬協の宮柱会長も、カテゴリー別の“シンプルな仕組み”とする意義を強調。「現在は、度重なる制度変更により複雑化し、国内外から理解が得にくい状況にある。加算によって、薬価を維持する制度から、そもそも薬価が引き下がらない、わかりやすい仕組みへの転換を行うことで、開発投資を促進し、ドラッグ・ラグ/ロス、拡大防止にもつながると考えている」と述べた。ただ、「特許期間中の薬価が確実に守られるシンプルな薬価制度が前提」と強調。「重要なことは、安定供給に支障を来さないことや、後発品の市場参入障壁とならないよう考慮した制度設計が必要」との考えを示した。
診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は、新薬創出等加算品の価格見直しが「例えば後発品の初収載価格に影響を及ぼす」と指摘。「後発品の使用促進やジェネリックメーカーへの影響を踏まえた対応が必要だ」との考えを表明。また、「今年度の薬価改定で、多くの品目で先発品と後発品の価格に逆転が生じ、選定療養への対応や、カットオフ値の算出などに影響を与え、医療現場は非常に混乱を生じている。現行制度のままでは、今後も価格逆転が発生し、後発品の企業評価の活用により、さらに進むことを懸念している」と指摘した。
◎不採算品再算定 インフレ分を適時適切に反映 個別製品ごとの予算確保も要望
製薬業界は、不採算品再算定など薬価を下支えするルールについても、「必要なコストや物価高騰の影響を踏まえ、経済合理性のある薬価へ引き上げがなされるよう、インフレ分を適時適切に薬価に反映するための仕組みの充実」を求めた。現行制度では、中間年改定などでは臨時・特例的に実施されてきたが、「恒久的な仕組みとして、制度の見直しを行うべき」とした。
GE薬協の川俣会長は、「不採算再算定における原価計算に用いる労務費や流通経費は、過去3年間の平均で、直近の製造原価、経費上昇の影響が反映されているとは考えにくい。最低薬価、基礎的医薬品の薬価を維持するという薬価の下支えも、物価上昇に連動して引き上げができる仕組みが必要だ」と述べた。
日薬連は不採算品再算定をめぐっては、「下支えが必要な品目に対して適時適切に適用されるべきであり、財源が適用の制約となることがないよう、個別の予算を確保することを含め、対応が必要」と資料に明記。安川会長は、「(超重要品目について)個別薬剤ごとに予算を確保していただければ」と述べた。
◎市場拡大再算定 診療側・江澤委員「医療保険制度の健全な成長の産物」
市場拡大再算定をめぐっては、特例拡大再算定と共連れの廃止を訴えた。また、希少疾病や小児の効能追加については対象から除外することを要望。日薬連の安川会長は、これらの品目について、「再算定を適用し続ければ、再びドラッグ・ラグ/ロスの悪化を招くことが想定される。再算定は、財政調整に用いるルールとして議論されるのではなく、イノベーションの評価、および安定供給確保にかかる課題と位置づけて、検討されるべき」と強調した。
製薬協の宮柱会長は、「市場拡大再算定は、確かに短期的な歳出抑制につながるかと思うが、中長期的には日本の創薬力、そして産業競争力の低下を招き、結果的に医療全体の質や治療の選択肢、そういったものを縮小させる恐れがある。市場拡大再算定のように、日本市場の予見性を下げる制度が、グローバルの中での優先順位の低下を招いていると捉えている」ととして、見直しの必要性を訴えた。
診療側の江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は、「市場拡大再算定は、(医療保険制度の)健全な持続のための、ある意味産物とも言えると思っている」と指摘した。
診療側の森委員は、「臨床の場で評価され、例えばガイドライン上、第一選択薬となり、市場が拡大する医薬品があれば、そうした医薬品の影響で市場が縮小する医薬品もあると思っております。これらの視点で、再評価について検討すべきではないか」と提案。「真の臨床的有効性や安全性が評価されている医薬品については、必要な再評価も検討してはどうか」と述べた。これに対し、日薬連の安川会長は、「申請までのフェーズ3データでは、非常に限られた範囲のデータになる。その後、市販して臨床現場において評価をいただいて、その上で良いものの薬価を上げる、ダメなものは下げる、こういうような方策が打たれれば我々も歓迎だ」と述べた。
◎後発品 企業指標を活用した上での銘柄別改定を要望
後発品についてはGE薬協の川俣会長が「企業指標を活用した上での銘柄別改定」を要望した。川俣会長は、「価格帯集約ルールは、他社の価格の影響を受け、予見性の低いルールと考える。十分な製造能力を持つ企業が継続した安定供給を行うためには、銘柄別薬価改定が必要だ」と訴えた。診療側の森委員も、「供給量を増やす企業、安定供給に取り組む企業を評価し、供給指標のみならず品目によっての評価もしていくべき」と述べた。また、GE薬協は、基礎的医薬品や安定確保医薬品については、企業の安定供給への姿勢を踏まえた品目ごとの評価の必要性も指摘した。
◎卸連 流通経費の仕入原価反映を 流通上の不採算品目は特許品でも25%
日本医薬品卸売業連合会(卸連)の宮田浩美会長は、「特許品で薬価が維持されているにもかかわらず、薬価収載時に算定ベースとされた流通経費が仕入れ原価に反映されていない品目もあり、約25%が流通不採算となっている」と指摘。「薬価収載時に算定のベースをされた流通経費が仕入原価に反映されるようにしていただきたい」と訴えた。卸連の調査によると、24年度の流通上の不採算品目は、後発品で80.7%、長期収載品で60%、特許品で25.1%だった。背景には仕入原価の上昇があると説明。「これだけ多くの流通不採算がある中で、価格を市場原理に基づいて出せるかといったところも限界まで来ている。流改懇、あるいはそういう場で、しっかりと議論して新しい制度を作っていただきたい」と訴えた。