厚労省 新薬開発決定後のルール変更は予見可能性を損なう 市場拡大再算定「共連れ」ルールに批判集中
公開日時 2022/12/12 05:54
厚生労働省は12月9日の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」に、「企業の予見性を高めるための方策」を検討する必要性を論点にあげた。市場拡大再算定について、構成員からは薬理作用類似薬による引き下げを受ける、いわゆる共連れルールについての指摘が集中。菅原琢磨構成員(法政大経済学部教授)が、「企業努力に伴う売上やマーケティング努力を全てふいにするような薬価算定のあり方というのはいかがか」と述べるなど、見直しを求める声があがった。
◎コスト回収期間の延長 結果として長期収載品の収益依存を誘導する一因となる
厚労省はこの日の有識者検討会に、製品の研究開発から上市後までのライフサイクルのなかで、研究開発などに対する投資の“予見可能性”について図示した資料を提示した。企業は、概ね第3相臨床試験の結果が判明する上市判断次期までに複数回、投資についての利益回収予見可能性を予測し、研究開発の継続と上市の可否を予測している。研究開発中の様々なコストを上市後の特許期間中に投資分、回収する形が理想的な形だが、実態としては2年に1回の制度改正があり、医薬品の開発を決定した後、販売を開始した後もルールが変更される可能性があるとした。その結果、当初想定したよりも投資の回収可能性が低くなるというリスクが高くなり、開発を先送りにされたり、他国での開発が優先されたりする恐れがあるとした。コスト回収期間が延長した場合、結果として長期収載品の収益への依存を誘導する一因となる懸念も指摘した。
成川衛構成員(北里大薬学部教授)は、先発メーカーなど約70社を対象にしたアンケート調査の結果を引き合いに、「投資回収の予見可能性の低下というものを危惧するご意見のはかなりあり、僕自身すごく印象に残っている。医薬品の研究開発はかなり長い期間を要するので、そういったものも考慮したうえで制度改革を考えることは、とても地味かもしれないが、重要なポイントと思っている」と述べた。
◎市場拡大再算定 アジア諸国が再算定後の薬価を参照 日本の上市を見送る一因にも
特に議論となったのが、市場拡大再算定だ。市場拡大再算定は、薬価収載時の前提条件に変化があり、当初の予想を超えて売上が大きく拡大した製品の薬価を引き下げるルール。2008年度薬価制度改革以降は、「市場拡大再算定対象品の全ての薬理作用類似薬」が市場拡大再算定類似品として扱われている。いわゆる共連れルールや道連れルールにより、再算定を受けることとなった。
一方で、抗がん剤や代謝性疾患分野で複数の効能効果を有する製品が増加するなかで、薬理作用類似薬として再算定の対象となるリスクが増加しており、企業が事前に想定していなかった再算定が行われるなど、“予見可能性の低さ”が顕在化している。投資コストの見込みが立たないリスクに加え、アジア諸国での薬価算定において再算定後の薬価を参照されるリスクもあることから、日本の上市を見送る一因となっているとの懸念がある。
◎菅原構成員「企業努力に伴う売上やマーケティング努力を全てふいにするような薬価算定はいかがか」
菅原琢磨構成員(法政大経済学部教授)は、「製薬企業にとって投資コストの回収期間がきちっと守られ、その間に投資を回収できるのは非常に大事なことだと思う」と表明。「市場拡大再算定は予見性を低めるという形で、企業側にとって非常に大きな要因になっているというふうに私自身は理解をしている」と述べた。抗がん剤・キイトルーダが市場拡大再算定の道連れルールが適用され、売上の伸びが相殺されたことを引き合いに、「企業努力に伴う売上やマーケティング努力を全てふいにするような薬価算定のあり方というのはいかがか」と指摘した。「市場拡大再算定が保険財政上の措置という意味では非常に大きな意味があったということは私も十分理解している」としたうえで、課題を指摘。バイオ医薬品の開発動向を踏まえ、「薬理作用の類似薬として再算定の対象リスクが非常に高まるというのも、本当にこれから先起こってくると思う。リーズナブルな効能や用法用量の追加の再算定は当然残すべきだというふうに思うが、それ以外の市場拡大再算定についてはやはり大幅な見直しが必要ではないかと考えている」と述べた。
◎小黒構成員 キイトルーダを例に「さすがにちょっとやり過ぎ」
小黒一正構成員(法政大経済学部教授)も、「市場拡大再算定は見直しが必要だと思う。キイトルーダの例であれば、売り上げ自体の規模も下がっていってしまったりする。さすがにちょっとやり過ぎ。最低でも売り上げに規模が維持できるような形で見直しをする必要があるのではないかと思う」と述べた。
成川構成員も、いわゆる共連れ、道連れルールについて、「確かに抗がん剤などは様々ながん種の適応を取得して承認されるのが主流となっている。そういう意味では、公平性と予見性のバランスという意味で考えると、少し拡大し過ぎているのではないかというのが私の率直な意見だ。その点については何か今後見直しをしてもいいのではないかと考えている」と述べた。
◎堀構成員「市場拡大再算定廃止なら代わりとなる財源確保の方法や仕組みの検討を」
一方で、遠藤久夫座長(学習院大経済学部教授)は、「現実問題としてここ数年非常に高額な医薬品が上市されたが、そのときの薬剤費の急速な膨張を抑制にこの再算定を使った」と説明。堀真奈美構成員(東海大健康学部長・健康マネジメント学科教授)は、「これ(市場拡大再算定)を完全に廃止するとか変更するならば、それなりに代わりとなるような財源確保の方法や、国民皆保険の両立をできるような仕組みを同時に考えないといけない」と指摘した。