滋賀医大 SMART調査報告で10.1%のデータ不一致 「科学論文としては不適切」
公開日時 2013/11/01 03:52
滋賀医科大学は10月31日、降圧薬・ディオバン(一般名:バルサルタン)をめぐり実施されたSMART研究について、尿中アルブミン/クレアチニン比(ACR)に関して、カルテデータと論文データとの不一致が10.1%あったと発表した。研究行動規範委員会(委員長:服部隆則副学長)は、誤入力の多さ、カルテデータと論文使用データに一部不一致、プロトコルからの逸脱がみられたことなどから、「科学論文としては不適切である」と結論づけた。
今回の調査では、SMART研究の対象となった150例のうち、101例のカルテデータを入手するとともに、試験にかかわった学内3人(うち1人はCRC)、ノバルティス社の元社員2人へのヒアリングを行った。
調査の結果、Diabetes Care誌に掲載された同試験のメイン解析で用いられた尿中アルブミン/クレアチニン比(ACR)に関して、カルテデータが確認できたのが661ポイント。このうち10.1%に当たる67ポイントでデータの不一致が判明した。内訳は誤入力と推定されるもの36ポイント、誤計算に起因するもの6ポイント、根拠不明11ポイント、研究グループが「外れ値」と判定したもの14ポイントだった。内訳は、バルサルタン群4.7%、アムロジピン群0.7%で、これらは研究グループが設定した調和平均値などに置換されて解析が行われていた。なお、外れ値は、プロトコルには規定はなく、試験開始後に定義が設けられていた。
試験開始6か月目のACR値の論文データとカルテデータの不一致例は、バルサルタン群42例中10例(23.8%)、アムロジピンで51例中9例(17.6%)。バルサルタン群では不一致症例のうち約9割がカルテデータの3回平均値から低値、アムロジピン群では逆に約9割が3回平均値から高値となっていた。
一方、血圧値は、カルテデータを確認できた97症例・1272ポイントのうち2.35%に論文データとの不一致がみられたものの、誤入力と欠損値のみだった。
プロトコルからの逸脱がみられた点としては、ベースラインと6か月時点での尿中アルブミン値決定方法。ベースラインでは、3回測定し平均値を採用すると規定していたが、実際には中間値とそれに近い2点の平均値でベースラインが設定されていた。また、倫理委員会への報告などの記録はなかったことがわかった。逆に6か月目の最終評価時点では、ACR値算出に当たって尿中アルブミン値は3回測定の平均値が用いられていた。
◎服部氏「解明には至らなかった」
カルテが現存した101人のうち経過観察期間の6か月間にわたって追跡できた92例でACR値をプロトコル通りに解析した結果について服部氏は「p=0.07となり、発表された論文と違って両群間に有意差は認められなかった」 と明らかにした。ただ、カルテの現存しないアムロジピン群ではACR値がかなり高値の例もあり、「バルサルタンはアムロジピンよりも微量アルブミン尿改善効果が高いという結論にはなりうる」との見解を表明した。
研究行動規範委員会の服部氏は、6か月目時点のACR値について、バルサルタン群で高値、アムロジピン群で低値に偏っている点について、「各々一方に偏っている点に不自然さがあり、恣意性が否定できなかった」と説明した。
一方で、誤入力について服部氏は「CRCなどへのヒアリングなどで当人が『もしかしたら自分が入力ミスをしたかもしれない』などの話はあったが、実際どういう経緯で誤入力となってしまったかなど、当時の記録が全部残っていないことや関係者の記憶もあいまいで解明には至らなかった」と述べた。
◎データ解析は学内で実施
データ解析については、プロトコルで「第三者機関で行う」とし、ノバルティス社元社員の所属先とされていた大阪市立大学大学院医学系研究科都市医学大講座とされていたが、実際には学内で行っていた。
研究行動規範委員会によるヒアリングで元社員は、プロトコル立案時に患者登録や統計解析手法について主任研究者だった旧第三内科教授で現副学長・病院長の柏木厚典氏にアドバイスをしたことは認めたものの、その後は関与しておらず、「プロトコルでデータ解析を大阪市立大学で行うと記載があったことも、SMART研究の論文がいつ発表されたかも知らなかった」と証言。また、後に滋賀医大の研究生となったノバルティスの別の社員に関しては、より研究への関与度は高いとしたものの、「医師からの依頼で数値計算やグラフ作成の補助を行ったというが、研究グループの医師からはこの社員が数値を操作した可能性に関する証言はなかった」とした。
今後の対応について滋賀医科大学学長の馬場忠雄氏は「柏木氏への処分を行うか行わないかは今後検討する」と表明。また、当該論文2編の扱いに関しては、大学から正式に撤回を要請はせず、柏木氏ら研究グループらの判断にゆだねる方針。また、服部氏は、研究グループは論文訂正を念頭に置いていると聞いているとしたが、「私としては撤回が望ましいと考えている」との考えを示した。
なお、SMART研究は2型糖尿病患者150人で微量アルブミン尿の改善作用をARBのバルサルタンとCCBのアムロジピンで比較した多施設共同試験。同大学の内分泌代謝・腎臓・神経内科(旧第3内科)で実施された。