PCI施行日本人脂質異常症患者へのロスバスタチン投与 冠動脈プラークの進行を有意に抑制
公開日時 2013/09/13 05:00
待機的経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を施行した日本人脂質異常症患者に対する、標準用量のロスバスタチン投与は、冠動脈プラークの進行を有意に抑制することが分かった。さらに、薬剤溶出性ステントにおける、遅発性のステント再狭窄” late catch-up”の発生抑制に有用である可能性も示唆された。無作為化並行群間比較試験「APOLLO(A Study to evaluate the efficacy of rosuvastatin for Patients with cOronary plaque utilizing aggressive Lipid Lowering treatment)」の結果から明らかになった。8月31日~9月4日までオランダ・アムステルダムで開催された欧州心臓病学会(ESC)2013の、9月1日のアブストラクトセッション「Optimising Coronary Intervention」で、小倉記念病院 循環器内科の雨宮妃氏が報告した。
スタチンを用いた積極的な脂質低下療法は、冠動脈プラークの進行を抑制することが複数の臨床試験から報告されているが、その多くは高用量のスタチンが投与されている。日本人安定冠動脈疾患患者を対象にロスバスタチンの有効性を検討したCOSMOS試験でも、有意な冠動脈プラークの退縮が示されている。しかし、標準用量を用いる日常臨床において、同様の結果を再現できるかは分かっていない。
研究は、待機的PCIを必要とする日本人脂質異常症患者143例。脂質異常症は空腹時LDLコレステロール(LDL-C)値<140mg/dL、空腹時トリグリセリド(TG)値<400mg/dL未満を満たすこととした。試験開始1か月前に脂質低下薬を投与した症例、別の病変でPCIまたは冠動脈バイパス術を受けたことがある症例、心不全や腎機能障害、肝機能障害を有する症例は除外した。▽ロスバスタチン標準用量(5 mgまたは2.5 mg/日)投与群97例、▽脂質低下薬を投与せずに、食事療法と運動療法管理群46例――に無作為に割り付け、治療効果と安全性を比較した。主要評価項目は、定量的冠動脈造影法(QCA)で測定した、非責任病変部の最小血管径(MLD)と平均血管径(ALD)の変化。副次評価項目は、DESにおける遅発性のステント再狭窄の抑制効果を検討するため、DESを留置した責任病変部、またはDES以外のステントを留置した責任病変部における、MLDとALDの変化とした。
患者背景は、平均年齢がロスバスタチン群70.7歳、非スタチン群72.1歳、BMI≥25kg/㎡は28.1%、17.4%(p=0.052)、高血圧が67.7%、63.0%、糖尿病が40.6%、43.5%だった。留置されたステントは、ベアメタルステント(BMS)が36%、29%、DESが48%、60%で、両群間に差は認められなかった。DESは、パクリタキセル溶出性ステント(PES)が53%(ロスバスタチン群:23%、非スタチン群:40%)で最も多く、エベロリムス溶出性ステント(EES)が28%(15%、13%)、シロリムス溶出ステント(SES)が19%(13%、8%)だった。
◎遅発性再狭窄の発生抑制の可能性も示唆
ランダム化から24か月後の主要評価項目は、MLDがロスバスタチン群-0.079 ±0.014mm、非スタチン群-0.135±0.019 mm、ALDはロスバスタチン群-0.062±0.012 mm、非スタチン群で-0.109±0.016 mmで、いずれもロスバスタチン群で有意にプラークの進行を抑制していた(p=0.022、0.025)。
試験開始6か月目から24か月目までのMLDの変化をBMS留置、DES留置に分けてみると、責任病変では、BMSではロスバスタチン群-0.011±0.094mm 、 非スタチン群-0.015±0.040 mmで両群間に有意差は認められなかった(p=0.26)。
一方、DESではロスバスタチン群-0.046 ±0.108mm、非スタチン群-0.133 ±0.108mmで、有意にロスバスタチン群で再狭窄が抑制されていた(p=0.009)。ただ、非責任病変では、ロスバスタチン群-0.026±0.082mm、非スタチン群では-0.055±0.066mmで、両群間に差は認められなかった(p=0.25)。
なお、総コレステロール値(ロスバスタチン群:188.7mg/dL→150.2 mg/dL、非スタチン群:190.2 mg/dL→180.5 mg/dL)、LDL-C値(113.6 mg/dL→77.0 mg/dL、113.3 mg/dL→101.4 mg/dL)で、LDL-C/HDL-C(2.5→1.5、2.4→2.0)で、ロスバスタチン群で有意に低下した(いずれも、p<0.01)。一方、HDL-C値(48.2mg/dL→53.0mg/dL、50.9mg/dL→53.8mg/dL)、TG値(134.3mg/dL→115.8mg/dL、129.2mg/dL→127.1mg/dL)で2群間に有意差は認められなかった(p=0.26、0.49)。
ロスバスタチン群での有害事象の発生率は11.3%で、肝機能障害2.1%(2例)、筋痛症2.1%(2例)など。
雨宮氏は、これまで実施された臨床試験を紹介。中でも、待機的PCIを施行した安定冠動脈疾患の日本人症例を対象とした「COSMOS」では、平均16.9 20 mg/日のロスバスタチンの投与により、18か月間で、非責任病変を含むプラーク量が5.1%減少したと説明した。その上で、同試験では、標準用量を投与したが、24か月間の追跡で、同等のプラーク量抑制を示すことができたと試験の意義を強調した。
また、ステント内再狭窄が発生するタイミングがBMSとDESで異なると指摘。BMSは24カ月以降の発生率が高い一方で、DESでは、留置後9か月間で40%発生するとのデータを提示。「APOLLO試験のデータから、スタチンはDESの再狭窄抑制に、より有効性を発揮する可能性がある」との見解を示した。
雨宮氏は、同試験は、単施設で実施されたこと、症例数が少ないなど限界があると指摘。その上で、「待機的PCI患者において、標準用量のロスバスタチン投与による脂質コントロールは、冠動脈プラークの進行を抑制できる」とした。その上で、それにより、「DESにおける遅発性の再狭窄、いわゆる”late catch-up”の発生を抑制できる可能性も示唆した」との見解を示した。