【UEGW事後特集】NSAIDs処方患者 PPIのコンプライアンス不良で上部消化管合併症のリスク2倍に
公開日時 2012/11/05 05:00
非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)とプロトンポンプ阻害薬(PPI)を併用する患者において、PPIのアドヒアランスが不良な患者では、良好な患者に比べ、上部消化管合併症発生リスクが約2倍に上昇することが分かった。スウェーデンの全国医療登録データベースを解析した結果から明らかになった。10月20~24日までオランダ・アムステルダムで開催された、第20回欧州消化器病週間(United European Gastroenterology Week;UEG Week)のセッション「Free Paper Session: NSAIDS and upper GI bleeding」で10月24日、ノルウェー・University of BergenのChristian Jonasson氏が報告した。
PPIは国内外で、NSAIDs投与時に、消化性潰瘍と出血リスクが高い患者に対し、胃潰瘍または十二指腸潰瘍の再発抑制の適応をもつ。一方で、これまでに実施された症例対照コントロール試験(ケースコントロール試験)から、PPIへのアドヒアランスが不良な患者では、上部消化管合併症のリスクが2~4倍上昇することが示されている。
研究は、NSAIDsとPPI併用時のアドヒアランスと上部消化管合併症の発生リスクとの関連性を検討した。対象は、スウェーデンの全国医療登録の入院登録データと処方薬データベースから、上部消化管出血もしくは消化性潰瘍で入院し、イベント発生時にNSAIDsを処方されていた患者3649例。このうち、PPI併用例は917例。患者背景は、年齢と性別、NSAIDの処方期間、暦月で調整した。PPIのアドヒアランスは、1日に投与されるべきPPIの規定量(DDD)をNSAIDsの処方期間で割った数値と定義付け、「不良」が20%未満、「中等度」が20~80%、「良好」が80%以上とした。
患者背景は、平均年齢が69歳、男性が47.5%を占めていた。イベントが発生した時点でのNSAIDsの処方期間は、「1~30日」が最多で53.9%(1966例)、「31~180日」が36.7%(1371例)で、半数以上の症例で処方から1カ月以内にイベントを発生していた。出血は42.6%(1554例)、消化性潰瘍が57.4%(2095例)に発生していた。
◎NSAIDs処方後のPPI処方で有意にイベント増加 バイアスの可能性も
PPI併用の有無に分け、上部消化管合併症の発生率を比較すると、PPI併用患者で1.71倍有意に高い結果となった(オッズ比:1.71、95%CI:1.57-1.87)。
PPIの処方開始の時期に分けて層別解析してみると、PPIの併用歴がない患者に比べ、NSAIDsの処方開始後の処方ではオッズ比が4.24(95%CI:3.57-5.09)だったのに対し、同時に処方開始では1.28(95%CI:1.11-1.27)、NSAIDs処方前では1.58(95%CI:1.41-1.78)だった。そのほか、年齢に分けた層別解析では、高齢になるほど、消化性潰瘍の発生リスクが低くなることも分かった。
アドヒアランスと消化性潰瘍の上部消化管合併症との関連性については、アドヒアランスが「不良」の症例では、良好の症例に比べ、オッズ比は1.88(95%CI:1.22-2.88)、「中程度」は1.28(95%CI:1.03-1.59)だった。またアドヒアランスが10%低下するにつれ、合併症のリスクが6%上昇しており(オッズ比:1.06、95%CI:1.03-1.10)、上昇率はPPIの処方開始タイミングがNSAIDs処方のタイミングで大きな差はみられなかった(NSAIDs処方以前:1.06、NSAIDsと同時:1.07)。なお、症状に関するデータが欠損していることから、NSAIDs処方後にPPIの処方が開始された症例は除外している。
Jonasson氏は、NSAIDsの処方後にPPIを処方された患者で、上部消化管合併症の発生率が高い傾向を示したことに触れ、「消化管合併症の発生リスクが高い患者では、当初からPPIが処方される傾向がある」と指摘。特に、NSAIDsの処方開始後にPPIを併用している症例では、合併症が起こったためにPPIを処方した症例が含まれているにもかかわらず、PPIがその合併症を発生させたとの結果となってしまう、“初発症状バイアス”が、ある可能性を示唆した。