【ESC特別版】ALTITUDE 2型糖尿病患者の心・腎イベント発症抑制 アリスキレン追加投与の意義認められず
公開日時 2012/08/28 15:47
高リスクの2型糖尿病患者において、ACE阻害薬、ARBの標準治療に、直接レニン阻害薬・アリスキレンを追加投与することによる、心・腎イベント発症抑制効果はみられなかった。アリスキレン追加投与群では、脳卒中や死亡の増加も報告され、むしろ有害事象の増加につながる可能性も示唆された。「ALTITUDE(The Aliskiren Trial in Type 2 Diabetes Using Cardio-Renal Endpoints)」の結果から分かった。8月25日からドイツ・ミュンヘンで開催されている欧州心臓病学会(ESC)2012で、26日に開かれたHOT LINEセッションの中で、デンマーク・University of CopenhagenのHans-Henrik Parving氏が報告した。(ドイツ・ミュンヘン発 望月英梨)
2型糖尿病患者における、心血管疾患と腎疾患の発症抑制における治療方針は、ACE阻害薬、ARBの単剤もしくは併用が標準療法とされている。ただ、依然として十分な発症抑制効果があるとは言い難く、アンメット・メディカルニーズがあるのが現状だ。
試験は、標準療法(ACE阻害薬、ARB)にアリスキレンを上乗せすることによる心・腎イベント発症抑制効果を検討する目的で実施された。
対象は、①微量アルブミン尿がみられ、eGFR≧30ml/min/1.73㎡②60ml/min/1.73㎡>eGFR≧30ml/min/1.73㎡で、微量アルブミン尿または心血管疾患の既往歴あり――を満たす35歳以上の2型糖尿病患者。①アリスキレン投与群4274例(0~4週目まで150mg、その後300mg/日)②プラセボ群4287例――2群にランダムに割り付けた。なお、ガイドラインの記載に従い、ACE阻害薬、ARB(単剤、併用可)の投与がなされていることとした。
主要評価項目は、複合エンドポイント(心血管死、突然死からの蘇生、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、心不全による緊急入院、末期腎不全(ESRD)または腎死、血清クレアチニン濃度がベースラインの2倍以上が1カ月間以上継続)の最初の発症までの期間。
患者背景は、男性がアリスキレン群67.4%(2881例)、プラセボ群で68.7%(2945例)、年齢はアリスキレン群で64.6歳、プラセボ群で64.4歳。糖尿病の罹患歴が5年以上の患者がアリスキレン群で82.4%(3520例)、プラセボ群で82.4%(3534例)だった。平均HbA1cは、アリスキレン群、プラセボ群ともに7.8%。アルブミン尿の指標である、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)はアリスキレン群で200mg/g、プラセボ群で201mg/gだった。平均eGFR値は、アリスキレン群で56.9ml/min/1.73㎡、プラセボ群で57.0ml/min/1.73㎡だった。血圧値は、アリスキレン群で137.3mmHg/74.1mmHg、プラセボ群で137.3mmHg/74.3mmHgだった。
平均追跡期間は32カ月間(2万2000患者・年)、試験中の投与中止はアリスキレン群25.3%(1078例)、プラセボ群22.1%(946例)だった。
なお、同試験は中間解析の結果、脳卒中など有害事象の発現頻度が増加していることから、2011年12月データモニタリング委員会の勧告により、試験が中止されている。
◎脳卒中、死亡などアリスキレン群で高頻度に
その結果、主要評価項目である複合エンドポイント発生までの期間をKaplan-Meier法を用いて算出すると、アリスキレン群(767例)とプラセボ群(721例)間に有意差はみられなかった(ハザード比(HR):1.08、(95%CI:0.98-1.20)、p=0.14)。
複合エンドポイントはアリスキレン群で17.9%(767例)、プラセボ群で16.8%(721例)発生した(HR:1.08(0.98-1.20)、p=0.142)。脳卒中はアリスキレン群3.4%(146例)、プラセボ群は2.8%(118例)だった(HR:1.25(0.98-1.60)、p=0.070)。死亡は、アリスキレン群で8.8%(375例)、プラセボ群で8.3%(355例)(HR:1.07、(0.92-1.23)、p=0.388)で、いずれも有意差はみられないものの、アリスキレン群で多い傾向がみられた。なお、血圧値は、アリスキレン群でプラセボ群に比べ、1.3mmHg/0.6mmHg低下し、アルブミン尿も14%(95%CI:11-17%)低下していた。
ベースラインの血清K値を5未満、5以上に分けて、イベント発生率を比較すると、主要評価項目、心血管複合エンドポイント、腎複合エンドポイントのいずれも、K≧5.0以上の群ではプラセボ群で良好な結果となり、心血管複合エンドポイントの発生はベースライン時の血清K値が有意に影響していることも示された(p=0.0454)。
安全性については、高K血症はアリスキレン群で38.7%(うち重篤な有害事象は1.1%)、プラセボ群で28.6%(0.5%)、低血圧はアリスキレン群で12.1%(0.7%)、プラセボ群で8.0%(0.8%)、下痢はアリスキレン群で9.6%(0.3%)、プラセボ群で7.2%(0.4%)、落下はアリスキレン群で2.8%(0.5%)、プラセボ群で2.6%(0.2%)だった。
結果を報告したParving氏は、「心・腎イベントの高リスクの2型糖尿病患者において、標準療法のACE阻害薬、ARBにアリスキレンを追加投与することを支持しない結果で、むしろ有害であるかもしれない」との見解を示した。
◎Mann氏 脳卒中発生増加原因はRA系の二重阻害ではない?
Discussantとして登壇したMunich General HospitalsのJohannes Mann氏は、同試験で脳卒中の頻度が増加した点について言及。ACE阻害薬とARBの併用により、同様にレニン-アンギオテンシン(RA)系を強力に抑制することの意義を検討した「ONTARGET」の結果を引き合いに出した。ONTARGETでは、脳卒中の頻度は単剤で15.5/1000患者・年なのに対し、併用では15.9/1000患者・年で、有意差はみられていない(HR:1.03、(0.77-1.37))ことを紹介した。
その上で、試験結果から、降圧も得られていることから、脳卒中のリスクについて、血圧やRA系の二重阻害では説明できないとし、アリスキレン特有のものか、偶然なのか検討する必要性を指摘した。