バイオマーカーに基づく個別化医療が加速
公開日時 2012/07/25 04:00
WJTOG3405の結果から
近畿大学医学部外科学講座 呼吸器外科部門主任教授
光冨徹哉氏に聞く
今回は、2009年の欧州腫瘍学会(ESMO)で本解析結果を発表した、WJTOG3405のアップデートした結果を発表しました。OSの結果は、ゲフィチニブ群とカルボプラチン/パクリタキセル群で、曲線がほぼ重なりました。追跡期間(中央値)は34カ月間で、肺がんの臨床試験としては長期間ですが、この集団は予後が良好で、現在も半分以上の対象患者が生存しています。臨床的には非常に良いことですが、データとしてはまだimmature(未成熟)との見方もあるかと思います。
予後良好な背景 術後再発の患者が高率
この背景には、試験の対象患者に術後再発の患者が約4割と高率に含まれていることがあると考えています。一般的に、術後再発の患者では、予後が良好になります。実際、結果からOSに影響した因子を多変量解析すると、ステージⅢB~Ⅳの術後再発のハザード比(HR)は0.603(95%CI:0.353-1.031、p=0.065)で有意差はみられませんが、HRも良好です。
これらの患者では、手術ができる段階でがんが発見されている、というバイアスがあります。腫瘍の成長スピードが遅いなどの、生物学的な特性がある可能性もあります。また、術後に外来診療でフォローアップする中で、定期的にCT検査なども行いますから、例えば5mm程度の転移があっても早期に発見できます。一方で、発見された段階ですでに手術ができず、薬物療法の適応となっている患者では、肝転移や骨転移がみられる症例も少なくありません。同様に、日本人を対象にゲフィチニブの有効性を検討した北東日本研究機構(NEJ)グループが行った臨床試験との大きな対象患者の違いはこの点で、結果としてOSがWJTOG3405でより長い傾向がみられたと思います。
EGFR変異陽性患者のファーストライン ゲフィチニブの投与を
EGFR変異陽性肺がんのファーストラインをめぐっては、EGFR-TKIと化学療法、どちらがふさわしいか議論になります。実臨床では、病態の悪化に伴い、薬剤を切り替えるケースが少なくないのですが、注目して欲しいのは、ゲフィチニブ群では、プラチナ製剤に切り替えていない症例が40%存在することです。これは、ゲフィチニブ投与後40%の患者で、プラチナ製剤の併用を行わなくても、同等の生存率が得られるとも言えます。一方で、プラチナ製剤からEGFR-TKIに切り替えられなかった症例も9%おり、この患者では予後が不良です。このようなことを踏まえると、EGFR変異陽性肺がんのファーストラインはゲフィチニブがふさわしいのではないかと考えます。
今学会を通じて、バイオマーカーに基づく個別化はますます加速するという印象を受けました。腺がんでは、EGFRとALKはすでにターゲットとして確立されており、分子標的薬が治療の中心になっています。今後は、HER2やRET、ROSなどを標的とした治療が加わり、この枠がさらに拡大していくのではないかと思います。
日本人では、腺がんの原因遺伝子としては、EGFRが40~50%、ALKが4%、HER2が3%、RETが1%、ROSが1%と言われています。そのほか、今回MEK阻害剤などの発表もありましたが、K-RASが15%程度と言われています。今後もさらに原因遺伝子は発見されていくと思いますので、これらを標的とした治療が重要になるのではないでしょうか。
またその後に耐性が出てくれば、そのメカニズムに合わせて、薬剤を選択することになると思います。例えば、ALK阻害剤投与例での二次変異であれば、クリゾチニブ以外のALK阻害剤への切り替え、EGFR変異陽性がみられれば、EGFR-TKIを追加投与が有効などの報告もあります。
原因遺伝子が異なる症例を含むことで、治療成績は変わってきますから、今後は“肺がん”などの大きな枠組みで臨床試験を行うことは難しくなるのではないでしょうか。臨床試験、という意味では、症例数の集積も含め、難しい時代に入ったと言えるかもしれませんね。