非好中球減少のカンジダ感染症患者
第60回日本化学療法学会学術集会
2012年4月26~27日
非好中球減少患者におけるカンジダ感染症に対して抗真菌薬アムホテリシンBリポソーム製剤(製品名:アムビゾーム、以下L-AMB)を使用した症例を後方視的に検討したところ、L-AMBの安全性と有効性が確認できた。さらに、院内で定めた「L-AMB投与時の注意事項」を遵守することで、L-AMBでの治療を継続できることが分かった。兵庫医科大学病院感染制御部の植田貴史氏(薬剤師)が、4月26~27日に長崎市で開かれた第60回日本化学療法学会学術集会の一般演題で発表した。
非好中球減少患者におけるL-AMBの位置づけは、米国感染症学会の「カンジダ症治療の実践的診療ガイドライン」でも明確化されていない。兵庫医科大学病院感染制御部は、同疾患に対するL-AMB投与の最適化を検討することを目的に、同院での使用症例について、L-AMBの投与量、投与期間、血清クレアチニン(Cr)値、血清カリウム値、β-D-グルカン値の推移などを調査した。
調査対象は06年7月~11年12月の間に、非好中球減少患者におけるカンジダ感染症に対し、院内の感染制御部がL-AMB投与に関与した19症例(確定診断が13例[全例菌血症]、疑診3例[腹腔内感染疑い2例、髄膜炎疑い1例])検出真菌はC.albicans10例、C.glabrate5例、C.guilliermondii2例などだった。 19例中5例が透析患者で、それ以外の症例のL-AMB投与開始時のCr値は0.86±0.51(0.38-2.22)mg/dLで、1mg/dL以上が4例含まれていた。
L-AMBは19例中18例で第2選択以降で投与されていた(1例は第1選択薬として髄膜炎の疑いがある症例に投与)。第2選択以降に使用した主な理由をみると、心内膜炎判明後変更が2例、他剤無効例が16例(①真菌性眼内炎4例 ②septic shock3例 ③ C.guilliermondii2例)であった。
L-AMBの投与期間は18.7±16.8(4-64)日、1日の投与量は2.6±0.25(2.5-3.6)mg/kg。有効率は81.3%(13/16例、判定不能の3例を除外)で、28日以内の死亡率は21.1%(4/19例)であった。
L-AMB継続投与中にCr値回復も
L-AMB投与中の腎機能低下(開始時もしくは投与中の最低値と比較してCr値が0.5mg/dLまたは50%以上上昇)は6例(42.9%)であった。その6例のうち3例はL-AMB投与中に回復し、残り3例もL-AMB投与中止後6~8日で回復した(図1)。
また、L-AMB投与後のβ-D-グルカンの推移をみると、投与開始時に陽性(>11pg/mL)だった症例は84.2%(16/19例)で、そのうち同剤の投与により56.3%(9/16例)がL-AMB開始時と比較して30%以上の低下を示した。
そのほかL-AMBの投与時関連反応として背部痛が1例、皮疹が1例認められたが、2例とも投与2回目以降は抗ヒスタミン剤の前投与によりL-AMBでの治療が継続できたという。
副作用が原因でL-AMBの投与を中止したのは4例で、中止理由は腎機能低下が3例、血清カリウム値低下が1例だった。
説明書を配布し、副作用を事前に周知
植田氏は、L-AMB投与例に腎機能例が認められたとしながらも、「L-AMBの継続投与で、感染症が改善し、腎機能が回復した症例も認められた」と述べ、患者の病態や経過をみながら、L-AMBを継続することの意義を強調した。L-AMBの投与量については、「腎機能低下症例であってもL-AMBの投与量は変更せず2.5mg/kgにしている」と説明した。
副作用対策については、「当院では感染制御部が院内で配布している説明書『L-AMB投与時の注意事項』(図2)を用いて、投与方法と副作用(腎機能障害、低K血症、投与時関連反応)についての注意喚起および対処法の徹底をしている。特に、低カリウム血症や投与時関連反応については臨床医に認識されていない場合が多く、重点的に説明している」。
低カリウム血症に対して、カリウムの補充は78.9%(15/19例)、最大1日補充量48.4±28.3mEq(20-98mEq)であった。植田氏は「3.0mEq/L以下になって慌てて補充を開始するのではなく、軽度の低下傾向を認めた段階で、早期から積極的にカリウムを補充することを推奨している」とした。
また、投与時関連反応について、植田氏は「事前に認識していないと、即投与中止に至る事もあるため、投与前に説明書を用いて説明する事が大切である。事前に認識していることで、抗ヒスタミン薬等を試みるなど、L-AMBの投与継続は可能である」とした。
兵庫医科大学病院 (感染制御学)
竹末 芳生 氏に聞く
今回の報告ではL-AMBはセカンドラインとしての使用が多いが、実はそのうちのかなり多くは“準ファーストライン”での使用と認識している。例えば他の抗真菌薬を投与開始した後で心内膜炎と分かった場合や、septic shockの患者であれば即L-AMBに切り替えている。眼内炎などでは第1選択薬としてアゾール系抗真菌薬を使うことが多いが、効果が十分でない場合は早期にL-AMBに切り替えたりしている。
L-AMBへの切り替えのポイントは、第1選択薬を使い始めて3日目に効果が不十分と判定されたケース。フルコナゾールはC.glabrataやC.kruseiといった真菌に活性が低く、ミカファンギンはC.parapsillosis、時にはC.guilliermondiiに効果が不良なことがあり、これらのことを考慮し、真菌種の判明まで待つことなく、重症例では3日目に効果を判定し、L-AMBのような殺真菌性が高い薬剤に切り替えたほうがよいと考えている。
L-AMBによる腎機能障害については、発症を防ぐために、毎日L-AMBの投与前に輸液を点滴して尿量を1,000cc以上確保し、脱水に注意するよう臨床医に伝えている。可能であれば、腎機能障害を起こす可能性のある薬剤の併用を止めることも考慮する。これらの注意点をあらかじめ伝えることで、臨床医のL-AMBの受け入れはかなりよい状態にある。
L-AMB治療中に徐々にCr値が上昇することがあるが、患者の様子を見ながら、臨床効果と副作用のバランスを考慮し、継続投与の是非を判断する。L-AMBによる腎機能障害は可逆的である。L-AMBで治療を開始し、経過良好で患者の全身状態が落ち着いた段階において、腎機能障害が出る前に他の抗真菌薬に変えるという治療戦略もある。ボリコナゾールなどの経口薬に変えてステップダウンする方法もそのひとつである。