【ATSリポート】IQ-Transport 集中治療専門看護師による搬送の有用性示す
公開日時 2011/05/20 03:01
地域医療の重要性が指摘される中、地域病院間での緊急搬送の必要性が高まっている。心臓マッサージを24時間以内に行ったなど緊急性の高い患者を除く重症患者の緊急搬送のリスクが、集中治療専門看護師が行った場合と集中治療専門医が行った場合で大きな差がみられないことが分かった。初めてのランダム化比較試験(RCT)となる「Intensive Care physician Versus Qualified Nurse Based Critical Care Transport(IQ-Transport)」Trialの結果から分かった。5月13~18日まで米国・デンバーで開催されている米国胸部学会議(ATS)2011で、17日に開かれた「Late-Breaking Clinical Trials Symposium」で、オランダ・Amsterdam大学Academic Medical CenterのErik van Lieshout氏が、報告した。
試験は、病院間の搬送により起こりうるリスクが、集中治療専門看護師のみで緊急搬送を行った場合に、集中治療専門医と看護師で行った場合と比べ、非劣性を示すことを目的に、PROBE法で実施された。
対象は、オランダ・アムステルダムで、移動集中治療室を用いて地域の病院間の搬送を行った患者307例。酸素飽和度(PaO2)/酸素濃度(FiO2)<100mmHg、十分な輸液療法を行っても動脈圧<60mmHg、強心薬の投与(ノルアドレナリン>0.35μg/kg/min、ドーパミン>15μg/kg/min)、心臓マッサージまたは心臓細動の24時間以内に実施した患者は除外した。
①集中治療専門看護師のみで搬送した群(以下、看護師群)152例②集中治療専門医と看護師が搬送した群(以下、医師群)155例――に分け、治療効果を比較した。解析対象は、看護師群147例、医師群151例。
主要評価項目は、①電源喪失、血管内装置、気管内チューブ等のテクニックによる事故②10分以内に動脈圧が20mmHg上下する③10分間以内に酸素飽和度(PaO2)が10%以上低下④体温が36度以下に低下――などの重大事象。蓄積されたデジタル化されたモニタリングデータを用いて決定した。
対象患者は、両群ともに24時間以内にICU(集中治療室)に送られた患者が半数以上を占めた(看護師群:58%、医師群:54%)。搬送となった理由としては、ICUのベッドの不足が両群ともに最多で、看護師群53%、医師群52%と半数以上を占めた。搬送距離は、両群ともに30km(中央値)で、搬送時間は、看護師群で66分[17-53]、医師群で65分[16-53]
だった。
その結果、主要評価項目は看護師群では23例、医師群では28例で、両群間に有意差はみられず、非劣性を示した(P値=0.50、相対リスクは0.80[0.41-1.55])。
内訳は、血圧による有害事象は看護師群で14例、医師群で18例、酸素飽和度の低下は看護師群で4例、医師群で6例、テクニックによる事故は看護師群で3例、医師群で4例だった。
そのほか、副次評価項目である強心薬・血管作用薬の調整や人工呼吸器のセッティングなどに差はみられなかった。ただし、FiO2低下例や輸液療法の実施は医師群で有意に多い結果となった(P値=003、P値=0.002)。
Lieshout氏は、航空搬送がなかった点や重症患者の中でも選択された患者を対象にしたこと、ICUの安定化における標準化がなされていないこと――など試験の限界を指摘した。その上で、「看護師による緊急搬送は安全に思える」と述べ、昇圧剤や強心薬、血管作用薬の調整を行うことで、医師が不在の際にも安全な搬送を行うことができるとの見解を示した。