肺真菌症を合併したALL L-AMBでコントロールしながら同種造血幹細胞移植を施行
公開日時 2011/04/26 03:00
第33回日本造血細胞移植学会
2011年3月9日(水)~10日(木)愛媛県松山市
長崎大学病院血液内科の松尾真稔氏らのグループは、肺真菌症を合併した急性リンパ性白血病(ALL)患者に抗真菌薬のアムホテリシンBリポソーム製剤(製品名:アムビゾーム:L-AMB)を予防投与、維持療法に使用し、真菌感染症を発症あるいは悪化させることなく安全に同種造血幹細胞移植を実施できた症例を3月9~10日に開催された第33回日本造血細胞移植学会(愛媛県松山市)で報告した。
接合菌などを念頭に置いた
積極的な検査や治療が重要
同種造血幹細胞移植(allo-SCT)を行った患者が真菌感染症を発症すると致死率が高いため、真菌感染症を合併した症例へのallo-SCTの実施は消極的とされている。しかし、新しい検査法や抗真菌薬の開発により、真菌感染症の管理は大きく変化を遂げている。松尾氏らは、こうした検査法や抗真菌薬を駆使して移植前から難治性真菌症をコントロールし、allo-SCTを成功させた2症例を報告した。
1例目は48歳女性のALL患者。寛解導入療法により、完全寛解(CR)に達したがCTで右上肺野に空洞を伴う浸潤影を認めた。喀痰培養にて、C. albicansやA. niger、K. pneumoniae-ESBLなど多数の細菌、真菌を検出した他、接合菌のCunninghamella bertholletiaeを検出した。PCR検査でMycobacterium intracellulareが検出され、さらに確定診断を目指して行った気管支洗浄液培養検査でもCu. bertholletiaeが検出された。これらの結果から、非定型抗酸菌感染症とムーコル症の感染と判断し、即座にL-AMBの投与を6mg/kg/日で開始した。
L-AMB開始後陰影は消失し、症状は軽減した。空洞を伴う病変は残存していたため、胸腔鏡下、右上葉切除術を施行。L-AMBを3mg/kg/日で予防投与しながら、全身放射線照射とシクロホスファミドを前処置にallo-HSCTを実施した。移植片対宿主病(GVHD)の管理のため免疫抑制剤やステロイドを投与したが、ALLの再発による死亡まで真菌感染症の再燃は認めなかった。
2例目はフィラデルフィア染色体陽性ALL(Ph+ALL)の60歳女性。イマチニブを併用した寛解導入療法でCRに達したが、左肺下葉に異常陰影を認めたため、CTガイド下の肺生検を施行。肺クリプトコッカス症と診断された。フルコナゾールとフルシトシンを投与したが、肝機能障害のため早期に中止。L-AMB投与に切り替えたところ、結節影が消失した。その後も同剤を継続しながらallo-HSCTを実施した。以降、肺クリプトコッカス症を再燃せず、現在も生存されている。
いずれの症例もL-AMBの投与期間が約8カ月と長期に及んだが、副作用は両症例ともほとんど認めず、松尾氏によると「L-AMB投与中のカリウム値低下は定期的なモニタリングと補充で対応できる範囲で、クレアチニン値の上昇もほとんど認めなかった」という。また福島卓也氏は、「従来のアムホテリシンBでは副作用で大変な思いをしたが、L-AMBは非常に安全に長期使用できるようになっている」と述べた。
難治性真菌感染症
コントロールできれば移植適応も考慮
福島氏は「感染症と原疾患の治療を長期間両立することは難治性真菌感染合併例の課題」とした上で、「血液検査で有意な所見が得られなくとも、気管支鏡検査や生検など積極的に行い、確定診断を得ることで適切な治療法が選択できれば、移植後の免疫抑制期間も含め、真菌感染症は再燃しない。コントロールが難しい真菌感染症を合併していても、確実な診断を行ない、治療法を誤らなければ移植可能」との見解を示した。